銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

文字の大きさ
上 下
256 / 422
第15話:風雲児の帰還

#03

しおりを挟む
 
 『デラルガート』は工作艦であって、戦闘用ではない。そのため長距離センサーの性能もそれほど高くはなく、ノヴァルナから告げられてようやく回避行動に入る。するとアッシナ軍本陣親衛艦隊に属する戦艦が数隻、砲撃を開始した。標的は『デラルガート』だ。
 赤い曳光ビームを含む主砲射撃が幾本も迫り、『デラルガート』は間一髪、それらの回避に成功する。今の『デラルガート』は先の戦闘でエネルギーシールドが張れなくなっており、戦艦の主砲を一発でも喰らえばひとたまりもない状態だ。

 そしてノヴァルナとノアには『デラルガート』の救援に向かっている余裕がなかった。ノアの『サイウンCN』にノヴァルナの『センクウNX』が合流したところに、敵艦隊から発進してきたBSI部隊が距離を詰めて来たのである。8機のBSIが、さあっ!と花開くように大きく展開し、ノヴァルナとノアを包囲する。機種はセターク家から供与されたという『ヤヨイ』ではなくアッシナ家オリジナルの『シノノメ』だが、個々に僅かな仕様の違いがあった。

“えらく動きがいい!”

 ノヴァルナは仕様の違いより、その動きの良さで瞬時に新手の素性を見抜いて、ノアに警告する。

「ノア、注意しろ。コイツら8機とも親衛隊仕様機だ!」

「了解!」

 もし相手が通常の量産型BSIユニット8機であるなら、攻撃艇12機を加えたところで、ノヴァルナとノアのBSHOが2機いれば、不覚を取らない限りは充分に勝利できる数である。
 しかしそれが親衛隊仕様機となれば話は別だ。量産型BSIがベースになっていているためスペック的には限界があるものの、意識と接続したNNLのサイバーリンク深度は、搭乗者が固定されている事から、BSHOに近いレベルに達しているのだ。つまり、“8機もの親衛隊仕様機に囲まれ、討ち取られる危機に陥った”と、表現するのが正しい状況となったのであった。

 散開してノヴァルナとノアを取り囲んだ8機の親衛隊仕様機『シノノメSS』は、一斉に超電磁ライフルを放って来る。二手に分かれ、その集中する射撃点から脱したノヴァルナとノア。するとそこに、包囲態勢の外から飛び込んで来た12機の宇宙攻撃艇が6機ずつに分かれ、ノヴァルナとノアを同時に襲撃した。斜めに編隊を組んだ攻撃艇が次々に誘導弾を発射し、ビーム砲を撃ちかける。

 その攻撃艇部隊に対し、ノヴァルナは機体のバックパック下部に装備された、金属ガス弾投射器を作動させて球体の金属ガス弾を二個射出した。それと同時に、重力子の黄色い光のリングを背後に輝かせて回避行動を取りつつ、航過しようとする攻撃艇の先頭に超電磁ライフルを放つ。
 二個の金属ガス弾が破裂し、高熱を帯びた微細な金属片―――『センクウNX』の外殻と同じ成分の金属片が大量に含まれたガスが広がり、誘導弾はそちらに突っ込んで『センクウNX』を見失った。そしてノヴァルナからの反撃を受けた攻撃艇は爆発を起こし、先頭を進んでいたその機体の爆発に巻き込まれ、後続の一機も大破して、慣性であらぬ方向へ飛ばされていく。

 だが油断は出来ない。包囲していた『シノノメSS』が4機、急速に間合いを詰めて『センクウNX』に白兵戦を挑んで来た。ノヴァルナは一番接近している敵に、右手に握る超電磁ライフルを放って牽制し、左手でポジトロンパイクを握る。最接近していた一機が銃弾の回避で遅れると、次の一機がパイクを構えて突撃をかけた。

 ロックオン警報と近接警戒警報音が騒がしいコクピットで、ノヴァルナは素早く、かつ小刻みに操縦桿とフットペダルを動かす。機体の姿勢制御はNNLで意識と連動し、敵の斬撃をパイク同士で打ち防ぎながら、背後から襲いかかろうとする三機目に向けて、超電磁ライフルを放った。

 その三機目が驚いて緊急回避すると、四機目がすでにポジトロンパイクの斬撃を『センクウNX』に仕掛けている。

「チッ!」

 ノヴァルナは舌打ちしながら操縦桿を強く引き、二機目の敵とポジトロンパイクを斬り結んだまま旋回、位置を入れ替わって四機目のポジトロンパイクも合わせて、自らのポジトロンパイクで防いだ。次の瞬間、『センクウNX』のバックパックが重力子リングの黄色い光を、一気に三つ重ねて発生させ、力任せに二機の敵をまとめて跳ねのける。

 しかし『センクウNX』のコクピットに響く警告音は鳴り止まない。銃撃で牽制した一機目が機体を立て直し、急襲して来たのだ。跳ねのけた二機の敵に超電磁ライフルを向け、トリガーを引こうとしていたノヴァルナは咄嗟に機体を翻し、闘牛士が牛の突進をかわすように、一機目の突撃をやり過ごす。そして航過直後の一機目に向け、超電磁ライフルを放ったが、相手も素早く機体をひねらせてその一撃から逃れた。



▶#04につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

処理中です...