254 / 422
第15話:風雲児の帰還
#01
しおりを挟むオ・ワーリ宙域に侵攻した、トーミ/スルガルム宙域星大名イマーガラ家の宰相、セッサーラ=タンゲンが率いるイマーガラ家宇宙艦隊約二百隻。
それを追いに追い、ナグヤ=ウォーダ家次席家老セルシュ=ヒ・ラティオが司令官代理を務める第2宇宙艦隊は、どうにか0.1光年後方まで追い縋って来ていた。
ほぼすべての外宇宙艦隊が、ミノネリラ宙域のサイドゥ家侵攻部隊の迎撃に狩り出されている現在、イマーガラ艦隊を恒星間で機動捕捉して攻撃が可能なのは、このセルシュのナグヤ第2艦隊だけである。
だがイマーガラ艦隊には、通信妨害能力を有する潜宙艦―――高々度ステルス艦が複数随伴しているらしく、イマーガラ艦隊を中心に広範囲が通信妨害に晒されて、今の危機的状況を主君のヒディラス・ダン=ウォーダに通報する事が出来ないままだった。
「現在の位置は?」
ナグヤ第2艦隊旗艦『ヒテン』の艦橋で、セルシュが参謀に尋ねる。
「は。現在位置は銀河標準座標38903436S付近…MY-50840星系を過ぎ、宙域外周から首都星系オ・ワーリまで、およそ八百光年入った辺りです」
「ふむ…」
参謀の返答にセルシュは眉間に皺を刻み、司令官席で腕組みをする。このままイマーガラ艦隊を追尾するだけでは、通信妨害の範囲から抜け出せない。そしてDFドライヴをイマーガラ艦隊が繰り返せば、あと一日半でカーミラとそこから約1.5光年離れたシーモアの、二つの首都星系のいずれかを襲撃出来る位置に達するだろう。
「高速巡航艦でしたら、イマーガラに先んじて首都星系に通報する事が可能ですが」
セルシュの考えを読んだ別の参謀が意見を述べる。足の速い巡航艦でイマーガラ艦隊を追い越せば、潜宙艦による通信妨害圏から脱して敵接近の通報が可能となる。
カーミラにもシーモアにも恒星間航行能力はないものの、強力な火力を有する砲艦で編成された星系防衛艦隊がいるが、それとて事前に通報がなされないまま奇襲を受ければ、二百隻を超える敵艦隊に対抗するのは難しい。
ただセルシュの不安はイマーガラ艦隊を指揮するのが、智将の名高いセッサーラ=タンゲンである事だった。アージョン宇宙城攻防戦でまんまと出し抜かれたように、こちらが高速艦で事前通報するのを見越して、何かの手立てが準備されている気がするのだ。杞憂であればよいが、ここまでの戦いを顧みるとそうは思えない。
セルシュがそれを口にすると、また別の参謀が意見を述べる。
「ではアイノンザン星系のヴァルキス様にも、一報を入れるのはいかがでしょう? ここから比較的近くですし、部隊を出撃させれば牽制に使えるのでは…」
アイノンザン星系を領有するヴァルキス=ウォーダは、ノヴァルナの父ヒディラスの弟の一人であるヴェルザーの息子で、ノヴァルナの従弟に当たる独立管領だった。年齢的には二十一歳でノヴァルナより年上になる。
ただそのヴェルザーは先日、ヒディラスに従ってドゥ・ザン=サイドゥが納めるミノネリラ宙域に侵攻した際、猛反撃を受けたカノン=グティ星系会戦で戦死、配下の艦隊も潰滅的な打撃を受けていた。
これによりヴァルキスが急遽家督を継ぐ事となったため、いまだ家中の混乱が収まっておらず、艦隊戦力も再建が始まったばかりであるため、今回のサイドゥ家との戦いには参加出来ない状況にあった。
そのアイノンザン星系はこの位置からならばそう遠くはなく、セルシュに意見した参謀は小戦力であっても、ヴァルキスの隊でイマーガラ艦隊の目先を逸らす事が出来るのではないかと考えたのだ。
だがセルシュはその意見に否定的な見解を示した。戦力として考えるには今のアイノンザン星系軍は小さ過ぎるうえに、新当主のヴァルキスが父ヴェルザーを死地に追いやったヒディラスと、ナグヤ=ウォーダ家に対して良い感情を抱いていないためである。
そんな時、『ヒテン』の電探士官が報告の声を上げる。
「イマーガラ艦隊に超空間転移の兆候あり!」
それを聞いたセルシュは思考を重ねるのをやめ、即座に命令を下した。
「転移方向のデータ取得に備えよ。我が艦隊も即時DFドライヴの用意!」
そう大声で命じておいて、さらに参謀達に指示を出す。
「いずれにせよ通報は必要だろう。おそらくこの転移が終われば、敵の進撃コースが確定するはずだ。多少のリスクはあってもコースが確定してのち、高速巡航艦でオ・ワーリとヒディラス様の双方に、通報するものとする」
ところがセッサーラ=タンゲンはやはり一枚上手だった。先ほどの電探士官が弾かれたように背筋を跳ねさせて告げる。
「敵艦隊の一部が反転、こちらに向かって来ます!」
「く!…このタイミングを狙っておったか!」
戦術状況ホログラムが示す敵艦隊の動きを睨み付け、セルシュは奥歯を噛み締めた…
▶#02につづく
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる