銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

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第14話:天下御免のアイラブユー

#19

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 ノヴァルナは『デラルガート』を取り囲んでいる敵機に向かって、『センクウNX』で急降下をかけた。スクリーンに三つの輝点が浮かび上がる。一方の『デラルガート』も『センクウNX』を捕捉した。

「センサーに新たな反応。『センクウNX』を確認」

 どこまでも冷静な口調で報告する、『デラルガート』のアンドロイドオペレーター。それとは対照的にカールセンは喜びを溢れさせて言う。

「ノバック。生きていたか!!」

 宇宙空間に出た事で通信も復旧し、ノヴァルナは陽気な声で応じた。

「おう! ノアも無事だぜ!!」

 ノヴァルナ機の接近に気付き、3機のASGULは人型に変形して右腕の固定式ビーム砲を身構える。『レゼラ』が一機減っているのは、『デラルガート』のCIWSに撃破されたからだ。そして3機のASGUL程度ではノヴァルナのBSHOは止められない。

 ASGULの右腕から放たれるビームを易々とかわし、急降下を終えた『センクウNX』は、二本のQブレードを起動させ、二刀流で2機の『レゼラ』を真っ二つに斬り捨てた。
 さらに残った1機の『アールゼム』に斬り掛かるが、こちらは初手で左腕を斬り飛ばしただけで、とどめを刺そうとするものの間一髪で取り逃がす。ただそれは『アールゼム』がセターク家と共同開発した新型機だという事でも、オーク=オーガーと戦った時の負傷がノヴァルナの手元を狂わせたという事でもなかった。

「ノア、胸が邪魔!」

「馬鹿! 触んないでよっ!」

 一人乗りの『センクウNX』の狭いコクピットでノアを膝の上に乗せていては、さすがのノヴァルナも、戦闘に差し障りがあって当然というものである。大慌てで逃げていく『アールゼム』を見送りながら、ノヴァルナは「チッ!」と舌打ちした。

「運のいいヤロウだ…」

 不敵な笑みを浮かべるノヴァルナであったが、その手は押しのけようとしたノアの胸にまだ置いたまま。頬を赤くしたノアが抗議の声を上げる。

「だから触るなと言っている!」

「は? 俺の女になったんだし、触り放題だろ?」

「そうやってすぐ調子に乗らない!!」

 さっきまでのムードはどこへやら、さっそく始めるいつもの掛け合いに、回線を開いたままのスピーカーからそれを聞かされるカールセンは、“やれやれ…”といった顔になって告げた。

「ったく、おまえさん達ときたら…いいから二人とも、早く戻って来い」

 『デラルガート』に収容されたノヴァルナとノアを出迎えたのは、カールセンの妻のルキナであった。夫のカールセンは『デラルガート』を戦場から離脱させるため、艦の指揮に専念しなければならず、その代理も兼ねている。

「ノアちゃん!!」

 この戦場で『デラルガート』も何度も危機に見舞われていたにも関わらず、ルキナの朗らかさには影がなかった。両腕をいっぱいに広げてノアを迎え入れ、力一杯抱き締める。

「ルキナさん…」

「ノアちゃん、良かった…本当に良かった…」

「心配かけて、ごめんなさい…」

 自分の取った無茶な行動に詫びを入れるノアの後ろ髪を撫で、ルキナはそれを見守るノヴァルナを振り向いて、優しい笑顔で祝福の言葉をかけた。

「ノバくん、よく頑張ったわね」

 幼少の頃から母親に遠ざけられ、そういう褒められ方をした事がなかったノヴァルナは、照れ臭そうに人差し指で鼻の下を擦って「うっす…」と軽く頭を下げる。ただ彼等にはまだ、再会の喜びをじっくりと噛み締めている余裕はない。一時的に停止した推進機こそ復活し、稼働してはいるが、『デラルガート』の上部には宇宙魚雷の命中による大きな穴が二つ開いており、エネルギーシールドが張れない状況となっているのだ。

 そしてノアを無事取り戻した事で優先順位が最上位へ繰り上がったのが、ノヴァルナとノアの元の世界への帰還である。

 この戦闘に介入する前の情報では、本来ノヴァルナ達が住んでいる皇国暦1555年のミノネリラ宙域と繋がるトランスリープチューブの入り口、『恒星間ネゲントロピーコイル』はここから6時間ほど準光速航行した先の、銀河標準座標76093345N付近に位置するブラックホールにその中心が存在していた。
 ただ計測地点から戦場を相当距離移動しており、4時間と設定されていた戦闘に費やせる時間も超えているはずで、再計算が必要となっている。

 無論それはカールセンも思うところであった。タイミング良くノヴァルナの元へ、艦内通信を入れて来た。四角いホログラムスクリーンが出現し、ノヴァルナの前にカールセンの顔が浮かび上がる。

「カールセン、ちょうど訊こうとしてたんだが―――」

「ああ、わかってる。『恒星間ネゲントロピーコイル』の話だろ? おまえさんがノアを助けに行っている間に、アンドロイド達に再計算させておいた」

「おう。さすがだな」

 カールセンの言葉に従ってノヴァルナ達の前に、新たにもう一つのホログラムスクリーンが出現する。それは彼等がいる『ズリーザラ球状星団』の宇宙図だった。『デラルガート』の現在位置と、目指すべき銀河標準座標76093345N。さらに『恒星間ネゲントロピーコイル』の中心であると思われる、ブラックホールが表示される。

「まだ、トランスリープには間に合う」とカールセン。

 ノヴァルナは「本当か?」と応じてノアを振り向いた。視線を合わせた二人は、互いに小さく頷く。しかし朗報にも、ホログラムの中のカールセンの表情は明るくない。

「ああ。ただそのための、新たなコースなんだが―――」

 言い淀むカールセン。すると宇宙図にブラックホールまでの新たな航路、そしてそれに関連する様々な数値や、グラフのデータがホログラムに追加され始めた。ノヴァルナとノアが見たところ、特段難しい要素は見当たらない。ところが最後になって、ノアを救い出した以上もはや関係ないはずの、ダンティス軍とアッシナ軍の交戦状況が追加表示されると、ノヴァルナとノアの表情は俄かに険しくなる。

「こいつは…」

 宇宙図を見据えて呟くノヴァルナの背後で、そういった知識には疎いルキナは、なにが問題なんだろう?…と軽く首を傾げた………



▶#20につづく
 
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