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第14話:天下御免のアイラブユー
#06
しおりを挟むアッシナ家の重巡航艦を航行不能に陥れたノヴァルナは、さらに2隻の軽巡航艦と2隻の駆逐艦の重力子ノズルを撃ち抜いておいて、旗艦『ヴァルヴァレナ』がいる艦隊の中心部へ向かう。
操縦に専念するため、両手に握っていた二丁の超電磁ライフルをウエポンラックに戻すと、自動装填機能が働いて弾倉が交換された。
集中的に浴びせられる迎撃砲火にも怯まず、疾風となって宇宙艦の間を抜けていく『センクウNX』の姿に、それを追撃するBSI部隊のハーマスは憔悴した声で、旗艦『ヴァルヴァレナ』のBSI部隊コマンドコントロールを呼び出す。
「だめだ、敵目標に追いつけない! 迎撃砲火を緩めてくれ。それにBSIの増援を頼む」
情けない話だが味方の艦隊からの激しい迎撃砲火に、たじろいでいるのは自分達の方だった。案の定、攻撃艇形態に変形していたASGULが速度を上げようとしたところを、味方の駆逐艦からの砲撃を喰らって爆散する。しかもハーマスの要請に対しても、コマンドコントロールからの返信はにべもない。
「こちらコマンドコントロール。迎撃砲火の低下は容認出来ない。またBSIの増援についても現在、全機が敵本隊のBSI部隊の迎撃に当たっており、そちらに回す余裕がない状況である。現状戦力で任務を果たされたし」
「了解、畜生!!」
罵声混じりの応答を叩きつけるような口調で言い放ったハーマスは、スロットルを全開にして自分の機体を突出させた。ハーマスの乗る『ヤヨイSC』は、アッシナ軍量産型BSI『ヤヨイ』の親衛隊仕様機であり、部下の機体よりは高性能だ。これを利用するしかない。
「敵のBSHOの狙いは、おそらく旗艦の『ヴァルヴァレナ』だ。我が接近を遅らせる。全機、先に旗艦へ急行し、網を張れ」
ジンツァー=ハーマスの『ヤヨイSC』が、単独でノヴァルナを追い始めた頃、カールセンの第36宙雷戦隊もアッシナ軍左翼に、後方から突入していた。だがその光景は奇妙だ。36宙戦の先頭を行くのは、ノヴァルナに航行不能にされたあのアッシナ軍重巡航艦であり、しかも横向きになったままなのだ。
無論、重力子フィールドを展開すれば真横に移動も出来るのだが、姿勢制御や微速移動のためのものであって、惑星間航行速度まで加速するのは不可能なはずだった。
その理由は工作艦『デラルガート』が重巡を捕まえて、後から押していたためである。
全長が四百メートル以上はある重巡航艦を“捕まえて”とは奇異な表現だが、それは『デラルガート』が工作艦という、修理・整備が専門の艦である事が関係していた。
機械の塊という外見の表現が何度かあった『デラルガート』だが、その艦腹には、損傷した大型艦に横付けして、応急修理を行うための機械腕―――伸ばせば五十メートルもの長さになる、折り畳み式のワーキングアームが、片舷に二十本は装備されていた。
ノヴァルナの射撃によって航行不能にされた重巡は、接近して来た36宙戦の各艦からの攻撃に、左舷の砲塔や宇宙魚雷発射管を破壊され、左方向に反撃できなくなったその側を、『デラルガート』が伸ばした、ワーキングアームに固定されたのである。
そのような手間をかけたのは、捕らえた重巡を盾と人質にして前進するためである。卑怯と言われても仕方ないかもしれないが、大戦力の敵の中心にまで乗り込もうというのだから、手段を選んでいる場合ではないのだ。
捕らえた重巡の背後に身を隠した『デラルガート』の周囲を、アッシナ軍の2隻の軽巡と10隻の駆逐艦が固め、36宙戦は攻撃を躊躇う敵の中を進んで行った。ノヴァルナが敵艦隊突入時に直進せず、まずこの重巡や周囲の艦を航行不能にして回ったのは、カールセン達の侵入箇所を確保した意味があったのだ。
さらにアッシナ家本陣中央では、マーシャル=ダンティス自らが率いるダンティス軍の、残存BSI部隊の猛攻に、前衛部隊が崩壊しつつあった。
二百機以上のダンティス軍BSIが、ズリーザラ球状星団のガス雲を背景に一団となって動くさまは、遠くから見ると、まるで乳白色の海の中を泳ぐ小魚の塊である。だがその集団を構成しているのは臆病な小魚ではなく、獰猛な肉食魚だった。
「退避! 退避しろ!!」
悲痛な叫びを通信で発するアッシナ軍の巡航戦艦が、十機以上のダンティス軍BSI『ショウキ』から一斉に対艦貫通弾のライフル射撃を受けて、あちこちから赤いプラズマを噴き出し、爆発する。
それを横目に、自分に向かって飛んで来た誘導弾をかわしざま、右手に握るクァンタムブレード(量子刀)を振るって真っ二つにした、マーシャル=ダンティスの乗機『ゲッコウVF』は、艶やかな黒い機体を翻し、左手の超電磁ライフルで自分を狙った攻撃艇を撃ち砕いた。
「よぅし! このままギコウのいる『ガンロウ』までえぐり込め!!」
▶#07につづく
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