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第14話:天下御免のアイラブユー
#05
しおりを挟む「馬鹿! なにをやっている!!」
味方のASGULが同士討ちで次々に爆発して行くさまに、部隊長のハーマスは焦りを隠せなかった。対して驚異的な機動で回避行動を取った、敵のBSHOには掠りもしない。最悪の結果となったASGULは、散り散りになって逃げだす。
“あのBSHO…ただの将官じゃない。手練れのベテランパイロットだぞ!”
というハーマスの認識は一部のみ正解だった。搭乗しているノヴァルナは、まだ十七歳の少年だからだ。だが逆に言えば、十七歳にしてベテランパイロット並みの技量を見せるノヴァルナ、恐るべしである。
とその時、ハーマスの機体のコクピットにロックオン警報が響く。後方からだ。それはノヴァルナの後を追って来た、カールセンの第36宙雷戦隊であった。
「全機、散開!」
そう命じて自らも機体を翻すハーマスとその部下達に向け、第36宙雷戦隊からビームの砲火が浴びせられる。先手を取られて、3機の『ヤヨイ』が閃光と共に宇宙の塵になった。
「くそっ! やってやる!」
頭に血を昇らせて第36宙雷戦隊に反撃しようとする部下を、ハーマスが引き留める。
「やめろ。我々の目標は敵のBSHOだ。宙雷戦隊は左翼後衛の艦隊に任せておけ!」
そのBSHO―――『センクウNX』は、追撃をかけようとしたASGULをさらに4機撃破して、すでにその前方の左翼後衛部隊に接近していた。一部の艦艇は防御砲火を始めている。
「チィ! なんて速さだ…全機、俺に続け!!」
ノヴァルナの『センクウNX』が迫っていた本陣左翼はその時、弓型に長く伸びた状態となっていた。ダンティス軍本隊の強力な反撃に本陣中央部が圧迫され、ジリジリと後退しており、両翼がダンティス軍本隊の後方へ回り込もうとしているからである。
アッシナ軍から見れば、突破されはしたもののウォルバル=クィンガの第二陣が残っており、ダンティス軍本隊を完全包囲するチャンスだったが、そのクィンガの第二陣部隊は、NNLの復旧によって連携を取り戻した、ダンティス軍の武将イースモルダー率いる残存部隊と、一旦戦場を離脱して態勢を立て直した、モルック=ナヴァロンの先鋒部隊に足止めを食っていた。
そして本隊を預かるセシルからすれば、攻撃の本命はマーシャルの直率するBSI部隊であって、敵両翼がこちらに戦力を割いて包囲しようとするのはむしろ大歓迎だ。
アッシナ軍の左翼が長く伸びて、厚みを削られるのは、ノヴァルナにとっても好都合である。ダンティス軍の攻勢に敵陣形が崩れる今の状況こそ、ノア救出の機会として望んだものなのだ。
ノヴァルナが操縦桿を握る『センクウNX』の、コクピット内部を全面で囲むモニターに、敵艦を示す緑色のマーキングが、数えきれないほど浮かんでいた。近くに位置するものほどサイズが大きい。そしてその中の幾つかが、マーキングの色を緑から赤に変化させる。こちらに対して、射撃照準センサーを向けた合図だ。
さらにその大半が変化した赤い表示を点滅させ始め、同時にヘルメットの中に、アラーム音が一斉に鳴りだした。ロックオン警報である。警告度の高いものがピックアップされ、小さな赤いホログラムスクリーンが約十個、個別にデータを表示して敵の位置に浮かび上がった。
即座にノヴァルナは操縦桿を操作して回避行動に入る。これらの警告表示はモニターの画面上だけでなく、NNLを通じて意識内でも空間把握出来ている。実際に撃たれた後の光速のビームを回避するのは不可能であり、それを回避するという事はつまり、撃たれる直前を見切って回避するという事である。宇宙戦闘―――特に機動力が命のBSIユニットにとって、NNLとのサイバーリンクが必須なのは、このような理由があった。
そしてこの“見切る”素質が、BSIパイロットの技量を左右する。『センクウNX』で大きくダイブをかけて急加速、敵艦がもの凄い勢いで迫って来た。重巡航艦らしい。射点をかわされた敵艦の迎撃ビームが虚しく空を切る。
さらにこちらの射撃スコープを、敵の艦尾に突き出た重力子ノズルに合わせながら急上昇し、機体を接近させた。距離を近づけるのは危険だが、周囲の敵艦からの盾には利用出来る。ロックオン警報は鳴り続けており、急角度で左に折れると再び迎撃ビームが至近を過ぎた。
機体を揺らすような機動で潜り込んだのは、遠隔操作で動くエネルギーシールド発生装置、アクティブシールドの内側である。こちらのロックオン完了のシグナル音が鳴り、スコープ表示が青く点滅した。何本もの迎撃ビームが左右を掠める中で、機体をひねり込ませながらトリガーを引く。二発のライフル弾が撃ち出され、敵重巡の重力子ノズルに穴があき、閃光と爆炎に破片が飛び散った。
だが、まだだ。目指すのはノアのいる艦だ―――
▶#06につづく
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