銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

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第14話:天下御免のアイラブユー

#02

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 一方その頃アッシナ家本陣でも、ダンティス軍別動隊を迎撃に向かった宙雷戦隊が返り討ちに遭って、その報告に付随したウォーダ家BSHOの攻撃に、首脳部が困惑していた。

「関白家の機体だと? そのようなものが現れたりするものか、寝ぼけるな!」

 アッシナ家当主ギコウ=アッシナは、迎撃艦隊司令官からの通信に対し、自ら応答に出て怒声を発する。それは迎撃艦隊司令官自身も同じ思いなのだが、事実は事実として報告しなければならない。司令官は気圧されながらも、主君に言葉を返した。

「い、いえ。確かに戦術状況ホログラムに『流星揚羽蝶』の表示が…しかも金紋でありましたので、関白家嫡流専用機に相違ありません」

「なにを馬鹿な!」

 吐き捨てるように言い放つギコウに、居並ぶ参謀の一人が尋ねる。

「ダンティス家による何かの工作ではないでしょうか?」

 するとそれにギコウの側近であるサラッキ=オゥナムが、否定的な言葉で応じた。

「機体照合はNNLを使って行われる。セキュリティが何重にも掛けられたNNLに、外部から何等かの細工をするのはほぼ不可能だ。それにもしそれが可能な技術を有し、実際にそれを行ったとして、NNLに対する不正工作を星帥皇室が知れば、朝敵に認定され、銀河皇国民としての全ての権利を剥奪される。いくらダンティスの者共が窮地に立たされていたとしても、そのような愚策には出まいて」

 オゥナムは参謀にそう言い、オペレーターに迎撃艦隊司令官との通信を切らせ、総旗艦『ガンロウ』の艦橋中央に浮かぶ戦術状況ホログラムに視線を遣る。こちらの迎撃艦隊を返り討ちにしたダンティス軍別動隊は、針路を本陣中央から左翼―――同僚のスルーガ=バルシャーが指揮している部隊の方向に変えたようだ。

 それを見てオゥナムは別動隊の撃破には失敗したが、この総旗艦部隊に対する攻撃は諦めさせたのだと誤解した。無論ダンティス軍別動隊―――ノヴァルナ達の本当の目的が、スルーガ=バルシャーの座乗艦に捕らえられている、ノア・ケイティ=サイドゥの奪回だとは知る由もない。

 誤った認識のまま、オゥナムは主君のギコウ=アッシナに進言した。

「関白家の機体の真偽はともかく、敵の別動隊は左翼のバルシャー達に任せればよいでしょう。それより敵本隊が第二陣の残存部隊と合流して、我等の前面に進出した事が問題にございます。これを速やかに叩くべきかと」

「うむ。そのようにせよ」

 総司令官であるギコウ=アッシナはこの現状を軽く考えているのか、オゥナムの進言を簡単に承認し、参謀達に振り向いて自らの命令として告げた。確かに僅か13隻の別動隊より、本陣の目の前まで強引に進出して来た、二百隻近くはあるマーシャルの本隊の方が脅威だ。
 そしてバラバラになっているとはいえ、他のダンティス軍の残存艦艇はいまだに小部隊に分かれ、それらが連携して抵抗を続けている。ここはマーシャルの本隊を一気に覆滅し、各個に抵抗する残存部隊もまとめて降伏に追い込むのが上策だった。

 だが結果論で言えば、アッシナ家はノヴァルナがいる別動隊こそを、全力で叩くべきであったのだ。

 参謀達がギコウの命令を自らが担当する各部に伝えて、前衛だけをセシル艦隊と戦わせていたアッシナ家本陣が、ようやく全力攻撃に移ろうと重い腰を上げたその時であった。

 アッシナ家総旗艦『ガンロウ』の艦橋内に浮かぶ戦術状況ホログラム上で、それぞれの部隊ごとに表示されているダンティス家の家紋『銀河に二羽飛雀』が、総旗艦『リュウジョウ』を起点として、波紋が広がるように一斉に切り替わって行ったのである。



切り替わったそれはウォーダ家の家紋、『流星揚羽蝶』だ!



 その家紋が切り替わる光景は、『センクウNX』のコクピットに展開する戦術状況ホログラムにも映し出され、景気のいい光景にノヴァルナの高笑いが被さる。

「アッハハハハハ!!」

 当然アッシナ家にとっては高笑いどころではない。この皇国暦1589年の世界では、『流星揚羽蝶』の家紋は、ヤヴァルト銀河皇国の事実上の支配者たる関白ウォーダ家の紋章だからだ。そしてダンティス軍の切り替わった家紋には、『関白ウォーダ家直参』の文字が加わっている。つまり関白直轄部隊という意味である。

「なぁっ!…なんだこれはーー!!??」

 全くの想像の埒外の事態に、ホログラムを見ていたアッシナ家の…いやダンティス家も含めた誰もが度肝を抜かれた。

 特に“ノヴァルナへの降伏を受け入れた”マーシャルの驚きは大きい。

「お、おまえ。まさか…本物なのか?」

 一気に復旧したNNLに乗員達が嬉々とする『リュウジョウ』の艦橋で、マーシャルはいまだに驚いたまま、通信スクリーンに映るノヴァルナに問い掛けた。そのノヴァルナはドヤ顔で言い放つ。

「おうよ、恐れ入ったか!」

 マーシャル=ダンティスはこのノヴァルナを名乗る少年が、関白ノヴァルナのクローン猶子である可能性に言及していたが、銀河皇国で製造される星大名などのクローン猶子には、身体的障害が発生しない範囲で、遺伝子の一部に手が加えられており、これが本人とクローン猶子の相違点を作り出して、NNLなどで識別を可能としている。

 そしてダンティス軍やカールセンの『デラルガート』で、今回のNNL不正解除に対するシステム障害のトラップデータを解析した結果、最も簡単な復旧方法はウォーダ家への忠誠を通じ、関白ノヴァルナ本人から承認を得る事だったのだ。さらにそれを突き詰めたのが、ノヴァルナが即興で作成してマーシャルに送り付けた、関白ノヴァルナへの『降伏受諾書』という訳である。

 年齢がどうであれ『センクウNX』に乗っているのが遺伝子上、本物の関白ノヴァルナ・ダン=ウォーダである事に間違いはなく、当然NNLの障害は起きたりはしない。

 NNLに何ら異常がない自分の機体でその事に思い当たったノヴァルナが、『デラルガート』から転送されたトラップの解析データを調べて、一発逆転のこの手を考え出したのだ。降伏して忠誠を誓いさえすれば、あとはノヴァルナ―――銀河皇国関白によるNNLへの直接の操作で、ダンティス家を関白直参とする事などは容易い。

 無論ノヴァルナにとって、ダンティス家の降伏は形だけのものであって、マーシャルから指揮権を奪うつもりは毛頭ない。「て事で! じゃ、あとは好きにしな!」と告げてさっさと通信を切る。だがともかくここに来て戦場の様相は大きく変わり、アッシナ家対銀河皇国関白直轄軍となったのだった。

 状況の激変について行けず、混乱と動揺で動きが止まったアッシナ家に対し、NNLの復旧に伴って超空間通信が再使用できるようになった、ダンティス軍総旗艦『リュウジョウ』からマーシャル=ダンティスの命令が飛ぶ。

「敵は戸惑っている。各艦隊司令は配下の艦艇を再掌握! 一気に押し出せ!!」

 その言葉に煽られたように、ダンティス軍の全艦艇が一斉に主砲を放ち、魚雷と対艦誘導弾を射出した。数えきれない閃光と火球がアッシナ家宇宙艦隊の前面に発生して、熱と火焔の地獄を召喚する。凄惨な光景に挑戦的な笑みを浮かべてマーシャルは告げた。

「よし来た、祭りの始まりだぜ!! 俺も『ゲッコウ』で出る! 全BSI部隊を招集しろ!」




▶#03につづく
 
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