233 / 422
第14話:天下御免のアイラブユー
#02
しおりを挟む一方その頃アッシナ家本陣でも、ダンティス軍別動隊を迎撃に向かった宙雷戦隊が返り討ちに遭って、その報告に付随したウォーダ家BSHOの攻撃に、首脳部が困惑していた。
「関白家の機体だと? そのようなものが現れたりするものか、寝ぼけるな!」
アッシナ家当主ギコウ=アッシナは、迎撃艦隊司令官からの通信に対し、自ら応答に出て怒声を発する。それは迎撃艦隊司令官自身も同じ思いなのだが、事実は事実として報告しなければならない。司令官は気圧されながらも、主君に言葉を返した。
「い、いえ。確かに戦術状況ホログラムに『流星揚羽蝶』の表示が…しかも金紋でありましたので、関白家嫡流専用機に相違ありません」
「なにを馬鹿な!」
吐き捨てるように言い放つギコウに、居並ぶ参謀の一人が尋ねる。
「ダンティス家による何かの工作ではないでしょうか?」
するとそれにギコウの側近であるサラッキ=オゥナムが、否定的な言葉で応じた。
「機体照合はNNLを使って行われる。セキュリティが何重にも掛けられたNNLに、外部から何等かの細工をするのはほぼ不可能だ。それにもしそれが可能な技術を有し、実際にそれを行ったとして、NNLに対する不正工作を星帥皇室が知れば、朝敵に認定され、銀河皇国民としての全ての権利を剥奪される。いくらダンティスの者共が窮地に立たされていたとしても、そのような愚策には出まいて」
オゥナムは参謀にそう言い、オペレーターに迎撃艦隊司令官との通信を切らせ、総旗艦『ガンロウ』の艦橋中央に浮かぶ戦術状況ホログラムに視線を遣る。こちらの迎撃艦隊を返り討ちにしたダンティス軍別動隊は、針路を本陣中央から左翼―――同僚のスルーガ=バルシャーが指揮している部隊の方向に変えたようだ。
それを見てオゥナムは別動隊の撃破には失敗したが、この総旗艦部隊に対する攻撃は諦めさせたのだと誤解した。無論ダンティス軍別動隊―――ノヴァルナ達の本当の目的が、スルーガ=バルシャーの座乗艦に捕らえられている、ノア・ケイティ=サイドゥの奪回だとは知る由もない。
誤った認識のまま、オゥナムは主君のギコウ=アッシナに進言した。
「関白家の機体の真偽はともかく、敵の別動隊は左翼のバルシャー達に任せればよいでしょう。それより敵本隊が第二陣の残存部隊と合流して、我等の前面に進出した事が問題にございます。これを速やかに叩くべきかと」
「うむ。そのようにせよ」
総司令官であるギコウ=アッシナはこの現状を軽く考えているのか、オゥナムの進言を簡単に承認し、参謀達に振り向いて自らの命令として告げた。確かに僅か13隻の別動隊より、本陣の目の前まで強引に進出して来た、二百隻近くはあるマーシャルの本隊の方が脅威だ。
そしてバラバラになっているとはいえ、他のダンティス軍の残存艦艇はいまだに小部隊に分かれ、それらが連携して抵抗を続けている。ここはマーシャルの本隊を一気に覆滅し、各個に抵抗する残存部隊もまとめて降伏に追い込むのが上策だった。
だが結果論で言えば、アッシナ家はノヴァルナがいる別動隊こそを、全力で叩くべきであったのだ。
参謀達がギコウの命令を自らが担当する各部に伝えて、前衛だけをセシル艦隊と戦わせていたアッシナ家本陣が、ようやく全力攻撃に移ろうと重い腰を上げたその時であった。
アッシナ家総旗艦『ガンロウ』の艦橋内に浮かぶ戦術状況ホログラム上で、それぞれの部隊ごとに表示されているダンティス家の家紋『銀河に二羽飛雀』が、総旗艦『リュウジョウ』を起点として、波紋が広がるように一斉に切り替わって行ったのである。
切り替わったそれはウォーダ家の家紋、『流星揚羽蝶』だ!
その家紋が切り替わる光景は、『センクウNX』のコクピットに展開する戦術状況ホログラムにも映し出され、景気のいい光景にノヴァルナの高笑いが被さる。
「アッハハハハハ!!」
当然アッシナ家にとっては高笑いどころではない。この皇国暦1589年の世界では、『流星揚羽蝶』の家紋は、ヤヴァルト銀河皇国の事実上の支配者たる関白ウォーダ家の紋章だからだ。そしてダンティス軍の切り替わった家紋には、『関白ウォーダ家直参』の文字が加わっている。つまり関白直轄部隊という意味である。
「なぁっ!…なんだこれはーー!!??」
全くの想像の埒外の事態に、ホログラムを見ていたアッシナ家の…いやダンティス家も含めた誰もが度肝を抜かれた。
特に“ノヴァルナへの降伏を受け入れた”マーシャルの驚きは大きい。
「お、おまえ。まさか…本物なのか?」
一気に復旧したNNLに乗員達が嬉々とする『リュウジョウ』の艦橋で、マーシャルはいまだに驚いたまま、通信スクリーンに映るノヴァルナに問い掛けた。そのノヴァルナはドヤ顔で言い放つ。
「おうよ、恐れ入ったか!」
マーシャル=ダンティスはこのノヴァルナを名乗る少年が、関白ノヴァルナのクローン猶子である可能性に言及していたが、銀河皇国で製造される星大名などのクローン猶子には、身体的障害が発生しない範囲で、遺伝子の一部に手が加えられており、これが本人とクローン猶子の相違点を作り出して、NNLなどで識別を可能としている。
そしてダンティス軍やカールセンの『デラルガート』で、今回のNNL不正解除に対するシステム障害のトラップデータを解析した結果、最も簡単な復旧方法はウォーダ家への忠誠を通じ、関白ノヴァルナ本人から承認を得る事だったのだ。さらにそれを突き詰めたのが、ノヴァルナが即興で作成してマーシャルに送り付けた、関白ノヴァルナへの『降伏受諾書』という訳である。
年齢がどうであれ『センクウNX』に乗っているのが遺伝子上、本物の関白ノヴァルナ・ダン=ウォーダである事に間違いはなく、当然NNLの障害は起きたりはしない。
NNLに何ら異常がない自分の機体でその事に思い当たったノヴァルナが、『デラルガート』から転送されたトラップの解析データを調べて、一発逆転のこの手を考え出したのだ。降伏して忠誠を誓いさえすれば、あとはノヴァルナ―――銀河皇国関白によるNNLへの直接の操作で、ダンティス家を関白直参とする事などは容易い。
無論ノヴァルナにとって、ダンティス家の降伏は形だけのものであって、マーシャルから指揮権を奪うつもりは毛頭ない。「て事で! じゃ、あとは好きにしな!」と告げてさっさと通信を切る。だがともかくここに来て戦場の様相は大きく変わり、アッシナ家対銀河皇国関白直轄軍となったのだった。
状況の激変について行けず、混乱と動揺で動きが止まったアッシナ家に対し、NNLの復旧に伴って超空間通信が再使用できるようになった、ダンティス軍総旗艦『リュウジョウ』からマーシャル=ダンティスの命令が飛ぶ。
「敵は戸惑っている。各艦隊司令は配下の艦艇を再掌握! 一気に押し出せ!!」
その言葉に煽られたように、ダンティス軍の全艦艇が一斉に主砲を放ち、魚雷と対艦誘導弾を射出した。数えきれない閃光と火球がアッシナ家宇宙艦隊の前面に発生して、熱と火焔の地獄を召喚する。凄惨な光景に挑戦的な笑みを浮かべてマーシャルは告げた。
「よし来た、祭りの始まりだぜ!! 俺も『ゲッコウ』で出る! 全BSI部隊を招集しろ!」
▶#03につづく
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる