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第14話:天下御免のアイラブユー
#01
しおりを挟む「おい。俺に降伏しろ!」
通信画面に映ったかと思えば、突然居丈高に言い放ったノヴァルナの言葉に、自分のBSHOで出撃寸前の、気持ちが高ぶっていた“辺境の独眼竜”も、さすがに呆気に取られた。
「はぁ!? おまえ、なに言ってんだ?」
真顔で言い返すマーシャル=ダンティスの表情は不快げだ。口調にも怒りの成分が混じっている。いや、ムツルー宙域星大名ダンティス家の当主を務める立場のマーシャルが、戦術家としての才を認めた少年であるから、ノヴァルナを名乗る子のこの少年が、単なる悪ふざけで“降伏しろ”と、わざわざ超空間通信を送って来たのではないとは分かる。
しかし自軍が壊滅しつつある今の切迫した状況で、意味不明の言葉遊びに付き合ってはいられないのが、マーシャルの本音だった。ただそれでもノヴァルナの物言いは、相変わらずの一足飛びだ。
「とにかくいま降伏文書を送るから、それにサインしろ!」
そう言ってノヴァルナは超空間通信でマーシャルの総旗艦『リュウジョウ』に、書類データを送信して来た。通信士官がそれを報告すると、マーシャルは立ったまま、司令官席の肘掛けにあるパネルを操作してホログラマーを起動させた。A4サイズほどの大きさの書類ホログラムが、マーシャルの目の前に浮き上がる。どうやら間に合わせで作った、スクリプトの簡易データのようだ。マーシャルはそこに表示された文字内容を目で読む。
降伏勧告受諾書―――
俺、マーシャル=ダンティスはノヴァルナ・ダン=ウォーダに降伏し―――
ダンティス家の全権をノヴァルナ・ダン=ウォーダに委ねるものとする―――
銀河皇国暦一五八九年九月二二日―――
ムツルー宙域星大名ダンティス家当主マーシャル=ダンティス―――
文章そのものは無茶苦茶だが、サインをすると確かに公式文書には成り得る代物だった。だがこんな子供相手に降伏ごっこをしたところで、何だと言うのだ。やっぱり訳がわからない………
「おいガキ。おまえいい加減にしろよ。俺はこれからBSHOで出なきゃならねえ。いくら関白と同じ名前を名乗るのを、俺が許してや―――」
もう我慢の限界だ…と声を荒げかけるマーシャル。だがノヴァルナは真面目な口調の言葉で、それを遮った。
「怒鳴る前に、俺の乗ってる機体のデータを見ろ!」
ノヴァルナは珍妙な降伏受諾書データに続いて、自分の機体のデータを『リュウジョウ』に送信した。それを照会したオペレーターが、振り向く顔を引き攣らせてマーシャルに報告する。
「機体照合。ウォーダ家BSHO『ECB-47センクウNX』…こ、これは皇国暦1550年代に、現関白ノヴァルナ・ダン=ウォーダ殿下がご搭乗されていた専用機です!」
「なにッ!!」
その言葉に意表を突かれたのはマーシャルだけではない。艦橋にいた者の全てが、報告をしたオペレーターに視線を向けた。まるで咎められているような気分になったのか、オペレーターは言葉に詰まりながら「ま、間違いありません!」と念を押し、照合データをメインスクリーンに転送した。艦橋前面にある大きなスクリーンに、『センクウNX』の画像と公表されているスペックが、ウォーダ家の家紋『流星揚羽蝶』と共に映し出される。
惑星アデロンでレジスタンスのケーシー=ユノーが『センクウNX』を操縦したように、本人でなくとも搭乗は可能だが、その場合は非登録者搭乗の表示と共に家紋も映し出されない。そのような疑わしい部分もない事から、今現在『センクウNX』に乗っているのが、ノヴァルナ・ダン=ウォーダである事は間違いない。
「どういう事なんだ、こいつは?」
機体データを確認したマーシャルは、訝しげな顔で通信画面のノヴァルナに問い質す。
「だから初めに会った時に名乗った通りだ。俺はノヴァルナ・ダン=ウォーダだ」
「…クローン猶子か何かか?」
マーシャルがそう推論するのも無理はない。疑似タイムスリップでここに来た34年前の本人だと理解するよりも、関白ノヴァルナが新たに造っていた、自分のクローン猶子だと考えた方が理論的だ。ただクローン猶子だとしても、三十年以上も前のBSHOを持ち出して、こんな辺境の宙域にいるのは、やはり訳が分からない。そんな困惑をノヴァルナの言葉が打ち払った。
「今はどっちだっていい。さっさと降伏しろ! 時間がねぇ」
時間がないのはマーシャルも同じだ。そもそもこっちは今まさに自らBSHOで出撃し、残存BSI部隊の全てを率いて、敵の総旗艦に突撃を仕掛けようとしていたとこなのだ。
「単刀直入にいこうぜ。降伏したらどうなる?」とマーシャル。
するとノヴァルナは、不敵な笑みをいつもより大きくして言い放った。
「俺達が勝つ!」
▶#02につづく
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