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第13話:球状星団の戦雲
#21
しおりを挟むしかしノヴァルナの思考はすぐに中断しなければならなくなった。カールセンからの通信で、敵の宙雷戦隊が接近中だと知らされたからだ。本陣からの迎撃部隊である。
「カールセン。少し早いが36宙戦は針路変更してくれ。奴等は俺が引き受ける!」
「了解した。気を付けろ!」
高性能のBSHOでも、単機で宙雷戦隊を相手取るのは危険だった。ただ、元々少ない戦力でノア救出の目的を果たすため、多少の危険を乗り越えなければならないのは、ノヴァルナもカールセンと妻のルキナも承知の上であり、引き留めるにも他に選択肢がない。
ノヴァルナが「任せろ。すぐに合流する!」と応じて『センクウNX』を加速前進させると、第36宙雷戦隊は舵を大きく左へ切った。その動きは、急速接近しつつあるアッシナ家の迎撃部隊も長距離センサーで捉えている。迎撃部隊はカールセンの言葉通り36宙戦と同じ、宙雷戦隊であったが、戦力としては軽巡5、駆逐艦14と優勢だ。
「司令。敵が針路を変更しました。左回頭、探知方位052マイナス6です」
先頭を行く戦隊旗艦の中で、オペレーターが司令官に報告する。同時戦術状況ホログラムに、ダンティス軍別動隊が右方向へ変針する状況が投影された。他愛ない奴等だ、冷やかしに来たようなものか…と思いながら、戦術状況ホログラムを自分の目で確認する司令官だが、よく見ると敵の変針点から分離して、真っ直ぐこちらに向かって来る反応があった。いや、正確に言うと、反応が現れたのは敵が変針を完了後、14秒が経過してからだ。
「おい。なんだ、こ―――?」
司令官が訝しげな表情で電探士官に尋ねかけたその時、オペレーター達が驚きの入り混じった声で報告した。
「センサーに感あり! 敵反応1。ステルスモードで接近していた模様!」
「探知方位ゼロ・ゼロ。真正面、早い!」
「こっ…この反応は、BSHOです!!」
それと同時に戦術状況ホログラムが映し出すBSHOの輝点に、相手が発する識別表示が追加される。ウォーダ家の家紋、『流星揚羽蝶』である。
逆探のモニターでアッシナ家宙雷戦隊のセンサーに捕捉された事を知ったノヴァルナは、『センクウNX』のステルスモードを解いて、いつもの不敵な笑みで呟いた。
「ふん。さすがに34年後のセンサー相手には、ステルスモードでもこの距離が限界か…だが、もう遅せぇ!!!!」
「馬鹿な…どうしてウォーダ家のBSHOがこんな所に。いや…それより我がアッシナ家は関白殿下に、忠誠を誓ったのではないのか…」
急速接近と共に、問答無用で攻撃を仕掛けて来た『センクウNX』に、アッシナ家宙雷戦隊司令は茫然となった。絶対中立のNNLが表示する搭乗機の家紋、特に将官用BSHOは、専用パイロットスーツのパーソナルデータとサイバーリンクしており、正統な所有者が搭乗していないと家紋は表示されない仕組みとなっている。そしてその表示色が金色である事は、星大名家の嫡流を示していた。
つまりアッシナ家司令官からすれば、銀河皇国関白家を敵にしている事になるのであるから、混乱の極みとなって当然である。
その間にも『センクウNX』は宙雷戦隊の各艦の間を飛び回り、エネルギーシールドを張れない艦の後部―――重力子ノズルを、超電磁ライフルで次々と撃ち抜いていく。無論、先頭きって進軍していた司令官の座乗する旗艦も、真っ先に重力子ノズルを破壊され、メインの推進力を奪われている。
「反撃は!?…反撃はいかが致しますか!!??」
動揺を隠せない様子で、艦長が尋ねた。状況が理解出来ない司令官は頭を抱えながら、傍らの参謀を振り向くが、その参謀も“私にはなんとも…”という表情で首を横に振る。どのみち推進ノズルを破壊されては、重力子フィールドの勾配偏移で移動は出来なくはないが、変針したダンティス軍別動隊を追う事は到底できない。
一方ノヴァルナは、敵の懊悩など知った事かとばかりに『センクウNX』を急降下させ、新たに駆逐艦の重力子ノズルをライフルで撃ち砕いた。
「アッハハハ! チョロいもんだぜ!」
先のアッシナ軍第四陣のBSI部隊との戦いで、相手が『センクウNX』の識別信号に動揺していたのを、ノヴァルナは見逃さなかったのだ。それならばこれを利用しない手はない。
それにノヴァルナの迎撃部隊に対する目的は、撃破ではなく足止めであるため、ここで相手に無用な血を流させる気もなかった。
「う、動ける艦は別動隊を追え!」
理由不明の関白家による攻撃を受け、苦し紛れに無理な命令を下した司令官だが、それに従ってカールセン達を追撃しようとする駆逐艦も、たちまちノヴァルナに追いつかれて重力子ノズルを破壊される。程なくアッシナ家宙雷戦隊の全艦が、その場で漂流同然となった。
▶#22につづく
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