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第13話:球状星団の戦雲
#13
しおりを挟むノヴァルナのぼやきは、単にダンティス軍の不利な状況に対して、ケチをつけているのではなかった。もう少しマーシャルの軍に踏ん張ってもらって、アッシナ軍を混乱させなければ、ノアの救助のために『デラルガート』で、艦隊の中に突入する事は困難であるからだ。
しかし、なんだこの違和感は…と、ノヴァルナは戦術状況ホログラムを見詰め続けて考えた。
それはダンティス軍第二陣の崩壊の仕方を、“妙に脆い”と思ったアッシナ家筆頭家老ウォルバル=クィンガと、同じ感覚である。
“第二陣の指揮を執るのは、ありゃあ、セシルのねーさんだな…”とノヴァルナ。
セシルの戦いぶりをこれまでに実際に見たわけではないが、副将の地位にあって、ノヴァルナと実際にBSIユニットで模擬戦を行い、その腕を認めたマーシャル=ダンティスがあれだけ信頼を置いている女性だ。それがこんな敵の単純な突撃に、後手後手に回るような対処をするとは考えられなかった。
アッシナ家第二陣が前進を開始し、セシルのダンティス軍第二陣はさらに分断、特に右翼側は押し潰されたようになっている。
ストレッチをやめて、ノヴァルナは通信担当のアンドロイドに命じた。
「マーシャル=ダンティスと連絡を取ってくれ」
もしその命令を受けたのが感情を持たないアンドロイドではなく、人間の士官であったなら、訝しげな目をノヴァルナに向けたかもしれない。一介の少年が星大名ダンティス家の当主と、当たり前のように直接通話させろと言っているのだ。しかも今は平時ではなく戦闘行動中である。
ただそこはアンドロイドの事であるから、言われた通りに、ダンティス軍総旗艦『リュウジョウ』を呼び出した。するとしばらくして本当に、メインスクリーンに『リュウジョウ』の司令官席に座る、マーシャル=ダンティスの横顔が映し出される。そのマーシャルは、険しい表情で参謀達に指示を出した。
「―――それが無理なら、連絡艇で伝令を送れ!」
そう言っておいて幾分表情を緩めたマーシャルは、スクリーンの方を振り向いて「よう」と、ノヴァルナに気さくに声を掛けて来た。それに対しノヴァルナは、いつもの不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「ずいぶん繁盛してるみてぇじゃねーか」
「ふん、おかげさまでな。千客万来だぜ」
軽口を挨拶代わりにすると、ノヴァルナは真顔になって尋ねた。
「何があった?」
ノヴァルナの真面目な表情を見て、マーシャルも口元を引き締めて応じる。
「分からん。先鋒のモルック艦隊が敵の先鋒に突破され、第二陣のセシルに押し返すのを期待したんだが、動きがおかしくてな。まるで動きがバラバラだ…あんなのはセシルの指揮じゃない。何か想定外の事が起きたとしか考えられん」
「おう。やっぱそうか。それで、セシルねーさんと連絡は?」とノヴァルナ。
「それが繋がらん。封鎖が解けたはずのNNLでも接続できん。通信回りはこっちが総旗艦で、向こうが基幹艦隊旗艦の関係上、接続状態の安定を絶対視してるはずなんだが…」
マーシャルがノヴァルナからの通信に出た時、参謀に命じていた“連絡艇で伝令云々”というのは、たぶんこの事についてであろう。
「このズリーザラ球状星団の環境が、影響してるとかはないのか? 超電磁バーストとか?」
「それだったら、おまえとも連絡出来ないはずだ。それにこっちでは、アッシナ軍の第二陣と、本陣の間の通信も傍受出来ている」
ノヴァルナがマーシャルと容易く直接通話出来ているのは、両軍が会敵する前に、ノヴァルナからマーシャルに連絡を取り、ノアがさらわれた事情を告げて、場合によってはノアの救出に、マーシャル達のアッシナ家との戦いを利用させてもらう許可を取ったからである。
逢ってすぐさま友人、というより親友となっていたマーシャルとノヴァルナであるから、マーシャルは二つ返事で了承し、支援出来る機会があれば、手助けすると約束してくれたのだ。
だが今のマーシャル達の状況は、到底協力を請えるようなものではない。むしろノアを助けるためにも、こちらからマーシャル達に手を貸す必要すらを感じる。ノヴァルナは再び戦術状況ホログラムに目を遣り、素早く思考を巡らす。
するとその時、マーシャルの座乗する『リュウジョウ』で、オペレーターが緊張感を滲ませた声で報告した。
「敵先鋒及び第二陣が、我が方第二陣を完全突破。こちらに向け接近を開始しました。最大射程圏内到達まで、およそ五分!」
それを聞いたマーシャルは隻眼を鋭く光らせて「わかった」と応じると、回線を開いたままにしていたノヴァルナに告げる。
「悪いが、俺のところも忙しくなって来た。そろそろ戦争に戻らせてもらうぜ」
回線を切ろうとするマーシャル。だがそれをノヴァルナが引き留めた。
「待った。俺に考えがある」
▶#14につづく
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