銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶

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第13話:球状星団の戦雲

#05

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 その頃、時空を超えたノヴァルナの故郷オ・ワーリ宙域では、ドゥ・ザン=サイドゥ率いるミノネリラ軍の侵攻と並行して、さらに複数の憂慮すべき事態が起こっていた。

 まずはナグヤ=ウォーダ家のアージョン宇宙城を陥落させた、イマーガラ軍の中の3個艦隊がそのまま、オ・ワーリ宙域にまで侵攻を始めた事である。
 しかもその3個艦隊を指揮しているのが、知謀に優れたイマーガラ家の宰相セッサーラ=タンゲンとなれば、彼等を追撃するナグヤ家第2宇宙艦隊の司令官代理、セルシュ=ヒ・ラティオは強張らせた顔の筋肉を緩める余裕もない。

「ええい。通信は…超空間通信はまだ、どことも繋がらんのか!?」

 第2艦隊旗艦『ヒテン』の艦橋で、セルシュは通信士官に対して苛立ちを隠せずにいた。

 0.2光年先を進むイマーガラ艦隊は、大規模な通信妨害を掛けて進撃しており、その後方を進むナグヤ艦隊は本国どころか、周辺のどの中継基地とも連絡が取れない状態にあったのだ。

 その『ヒテン』艦橋で、電探士官が報告の声を上げる。

「前方、イマーガラ艦隊に超空間転移の兆候。間もなく転移する模様!」

 その報告に、セルシュは即座に命令を下した。

「直ちに転移方向と予想距離を算出。我等もDFドライヴを行う。全艦隊に通達急げ!」

 命じ終えてセルシュは奥歯を噛み締めた。イマーガラ軍がどこに向かおうと、行き着く先まで追撃するしかない。ウォーダ家はその戦力のほとんどを、先に侵攻して来たサイドゥ軍に対する迎撃に向けてしまっているのだ。

 イマーガラ家宰相セッサーラ=タンゲンは、ナグヤ家のアージョン宇宙城を攻めるにあたり、最初からオ・ワーリ侵攻を視野に入れていたに違いなかった。

“ぬうぅ…ウォーダ家が一枚岩であったなら、サイドゥ家やイマーガラ家にこのような跳梁跋扈など、許さずに済んだであろうものを!”

 虚しき願いと分かってはいても、そう思わずにはいられないセルシュは、艦橋中央の戦術状況ホログラムが描き出すイマーガラ宇宙艦隊の転移情報を睨み据え、噛み締めていた奥歯をギリリと鳴らした………




 そしてノヴァルナの母星であるオ・ワーリ=シーモア星系第四惑星のラゴンでも、異変が起きている。

 ノヴァルナのナグヤ家が領有するヤディル大陸南西部、その地方最大の拠点フルンタール城から、海上を接近する正体不明の武装集団の急報が発せられたのだ。

 ノヴァルナが支配するナグヤ城ではこの異常事態に、今度の戦いではセルシュから待機を命じられていたノヴァルナの親衛隊、『ホロウシュ』が動き出していた。

 筆頭のトゥ・シェイ=マーディンと次席のナルマルザ=ササーラ、そしてノヴァルナに絶対の忠誠を誓っているラン・マリュウ=フォレスタや、武術では右に出る者がないヨヴェ=カージェスといった者が留守居の家老、ショウス=ナイドルの執務室に集まって来ている。

「御家老様、我等に出陣を!」と詰め寄るマーディン。

「待て、スェルモル城の方からは何も言って来ておらん」とナイドル。

 スェルモル城は当主ヒディラスの居城であり、ナグヤ家の新たな行政の中心地だ。しかしナイドルのその言葉に、カージェスが食って掛かる。

「スェルモルの連中など、腰の重い政治屋しかおりませぬ。待っていては、間に合うものも間に合いませんぞ!」

「しかしな…」

 温厚なナイドルは、額に汗を浮かべて躊躇った。するとそこに、緊張した面持ちの士官が飛び込んで来る。

「御家老様。武装集団の正体が判明しました! キオ・スー家です!」

「なに!? キオ・スー家だと!?」

 ナイドルとマーディンが、声を揃えて士官を振り向く。ナグヤではこの武装集団を、サイドゥ家かイマーガラ家辺りが、今の混乱した状況に合わせ、陸戦部隊を極秘裏にラゴンに潜入させており、それが行動を開始したのではないかと思っていたのだ。

 キオ・スー=ウォーダ家は惑星ラゴンで、ナグヤ=ウォーダ家が領地としているヤディル大陸と惑星の反対面になる、アイティ大陸を領有している。面積的にはヤディル大陸の倍ほどの広さがあり、両大陸は大洋によって隔てられていた。キオ・スー家の武装集団が海上から接近しているのなら、その集団はアイティ大陸から発進したという事である。

「はっ。偵察機が確認しました。防空護衛艦が8隻。大型の反重力タンカーが5隻。タンカーには一隻あたり6機のBSI『シデン』と、戦車8輌に兵員輸送車が8台が積まれております」

 士官が詳細を報告すると、ササーラが怒鳴るように言った。

「大部隊ではないか!!」

 ナイドルは緊張した表情で仕官に告げる。

「キオ・スーの部隊と判明したなら、即座に連絡を取れ! その部隊が応答しないなら、キオ・スー城に直接問い質すのだ!」

「り、了解であります!」

 温厚なナイドルはともかく、傍若無人の主君ノヴァルナ子飼いのマーディン達から、槍ぶすまのような鋭い視線を集中され、その士官は声を上ずらせて応答し、執務室を飛び出して行った。

 すると程なくして、執務机のインターコムが音を立てる。

「ナイドルだ」

「こちら第一通信室です。接近中の部隊の指揮官と通信が繋がりました。御家老様と直接お話ししたいとの事であります」

「よし、メインスクリーンに繋げ」

 ナイドルが急き込むように命じ、執務机の前方に、平面ホログラムのスクリーンが立ち上がった。そして部隊指揮官の顔をスクリーンが映し出した瞬間、『ホロウシュ』達の表情に怒りの炎が浮かびだす。画面に現れたのは主君ノヴァルナ失踪の原因を作ったキオ・スー家家老、ダイ・ゼン=サーガイだったからである。
 いや『ホロウシュ』だけでなく、普段温厚なナイドルもまたダイ・ゼンの顔を見て、その目に武人の光を帯びさせ始めた。ナイドルとてノヴァルナに対する忠誠心に、偽りはないからだ。

 だがダイ・ゼンはそんな視線を気にするふうもなく言い放った。

「これはナグヤのお歴々、ご苦労様ですな」



▶#06につづく
 
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