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第23話:フォルクェ=ザマの戦い 後編
#19
しおりを挟む「左舷艦底部で爆発発生! 予備第6、第8重力子ジェネレーター室大破!」
「第4陽電子加速室大破! 死傷者多数の模様!」
初弾の人気の無い個所への着弾と打って変わり、今度のダメージは小さくない。
「やはり、超空間転移技術を応用した兵器のようですね」
戦術状況ホログラムを見据えて言うナルガヒルデ。周囲をトンネル陣形の護衛艦が固めて、艦自体も八枚のアクティブシールドは健在。外殻装甲板の防御力をさらに強化する、エネルギーシールドもフルパワー状態の中、艦の内部へ直接着弾して来るとなると、超空間転移を使う以外考えられない。ナルガヒルデの言葉に動揺を隠せない参謀の一人が、問い掛けて来る。
「いかがされますか?」
前述の通り、敵本陣があると思われる小惑星フォルクェ=ザマまでは、距離がある。いま現在も最大戦速で突撃中だが、到達までまだ三十分はかかるはずだ。総旗艦級戦艦の『ヒテン』は、通常の主力級戦艦よりも大型で、艦自体の耐久性も格段に高いため、複数の着弾にも耐えられるだろうが、それとて限度がある。
“ノヴァルナ様なら、どうなされるか…”
ギィゲルトには見抜かれているが、ナルガヒルデの立場からするとあくまでも、『ヒテン』にノヴァルナが乗って指揮を執っている体で、動かなければならないのである。
「艦長」
ナルガヒルデは参謀の問いに答える代わりに、『ヒテン』の艦長へ声を掛けた。
「はっ」
初老の艦長は壮年の参謀と違って、動揺も見せずにナルガヒルデへ応じた。
「艦の運用権限は私ではなく艦長にある事を承知の上で、指示をさせて頂いて宜しいでしょうか?」
「どうぞお気兼ねなく」
どこまでも几帳面なナルガヒルデに、『ヒテン』の艦長は穏やかに頷く。するとその直後、『ヒテン』は不規則かつ急激なジグザグの回避行動を取り始めた。右へ左へ上へ下へ、六百メートルを超える大型戦艦が、まるで嵐の海の上を行く小舟のように、激しく、ランダムに動く。
そこへ『サモンジSV』が放った『D‐ストライカー』の、三発目の狙撃弾が転移して来た。ところがそれは急速移動した『ヒテン』上部外殻で実体化し、艦表面を覆うエネルギーシールドと反応して爆発した。
「上部外殻258エリアで爆発発生! 外殻装甲板第三層まで破壊」
当てられたことは当てられたが、それまでのような内部への大ダメージにはならず、『ヒテン』の艦橋内に「おお…」というざわめきが広がる。
激しく、目まぐるしく回避運動を行う『ヒテン』のBSI格納庫。ノヴァルナの専用機『センクウNX』や彼に従った六人の『ホロウシュ』の機体は無く、代わりに居たのは以前に『ホロウシュ』の筆頭を務めていた、トゥ・シェイ=マーディンの『シデンSC』と、一時的に彼の指揮部隊として編成されたASGUL小隊が待機していた。
「うぇえええええ!!!!」
荒波に揉まれる小舟状態で、ASGULの『アヴァロン』に乗るトゥ・キーツ=キノッサは、胃がでんぐり返りそうな状態に悲鳴を上げる。
「これじゃあ、船酔いするッスよぉ!!」
だが彼等の臨時指揮官であるマーディンは、小隊の通信回線を開いたまま「ハッハッハッ…」と、軽く笑い声を発するばかりだ。それを聞いたキノッサは、困惑気味に問いかける。
「よ…よく笑ってられッスねぇ。マーディン様」
マーディンはウォーダ家を出奔した事になっており、皇都惑星キヨウで情報収集を行ってはいるが、もう五年近く実戦から遠ざかっているはずである。それでありながら、この状況を笑っていられる神経が、キノッサには呆れるものだったのだ。
だがそれに対するマーディンの返答は明確だった。
「当たり前だろう。これはナルガヒルデの腕の見せ所…晴れの舞台だからだ」
久しぶりの一時復帰であっても、マーディンがウォーダ家の―――ノヴァルナの腹心であり続けている意味を、キノッサは理解した。ナルガヒルデの役目はあくまでも、ノヴァルナが『ヒテン』に乗って指揮している振りを演じる事であり、この『ヒテン』の乱暴とも言える回避行動は、まさにノヴァルナならこのような行動を命じるだろうと、考え抜いての命令に違いない。
するとそう思ううちに、再び振動が艦を震わせる。だがそれは一つ前の振動よりは、軽いものであった。『サモンジSV』からの四度目の狙撃は、『ヒテン』の艦体に接触する事なく、左舷外殻を覆うエネルギーシールド内で実体化して、そのまま爆発したのである。
「ほう…」
ウォーダ家の総旗艦『ヒテン』が、連続して『D‐ストライカー』の超空間転移銃弾の爆発を、紙一重で回避した事に、ギィゲルトは興味深げな言葉を漏らした。
「なかなかやりおるわ。この『サモンジSV』の、狙撃能力に気付いたか」
とその時、『ギョウビャク』から報告が入る。
「お館様。第五惑星の宇宙要塞から、『クォルガルード』型戦闘輸送艦三隻を含む小艦隊が、急加速で発進したと連絡がございました」
これを聞き、ギィゲルトは粘着質の笑みを浮かべる。本命のノヴァルナが指揮する別動隊だと判断したからだ。
一見すると、ノヴァルナは主隊の総旗艦『ヒテン』に居り、第五惑星の宇宙要塞から発進した小部隊は、規模的に見て陽動部隊のようである。
しかし、これまでのノヴァルナの戦い方を分析したギィゲルトと、イマーガラ軍首脳部は、協力者ヴァルキス=ウォーダからの情報とも照らし合わせ、決戦においてノヴァルナは、もう一つの専用艦『クォルガルード』を使用した、機動戦を仕掛けて来る可能性が高いと推測していた。そのため惑星ラゴンを発進した『クォルガルード』とその僚艦に対し、潜宙艦を差し向けて密かに動向を探らせていたのだ。
「動くならそろそろと思うておったが、やはりな」
ギィゲルトは、『サモンジSV』のコクピットに展開している、戦術状況ホログラムに新たに追加された、別動隊のマーカーとデータに眼を遣る。ステルス状態中の潜宙艦からの電送データであるから、詳細なものではないが、戦力編制程度は判明していた。
ノヴァルナが専用艦としている『クォルガルード』と同型艦が2隻、巡航戦艦級が4隻、巡航艦6隻、駆逐艦14隻…数からすればそれなりに揃っている。
「巡航戦艦…足の速い部隊よの。ここへの到達所要時間は?」
ギィゲルトの問いに、『サモンジSV』の機関士が所要時間を算出して答える。
「およそ三十分弱であります」
「ふむ。では芝居をもう少し続けて、引き付けておくか」
ノヴァルナの別動隊を引き付けてから一挙に殲滅する…それがギィゲルトの目論見であった。そのため気付かぬふりで、“別動隊を陽動と考えて主隊への攻撃を続ける”芝居が必要だ。
「照準数値275584‐66735。 追尾狙撃する」
機体にトリガーを引かせるギィゲルト。その超空間転移銃弾は、『ヒテン』の右舷外部装甲板内で実体化し、爆発を起こした。だが急激な回避運動を継続しているおかげで、今回も深手を負う事は免れる。ただギィゲルトにすれば、もはやどちらでもいい話だった。『ヒテン』を撃っているという、事実だけが必要なのだから。
そしてウォーダ軍のトンネル陣形も、周囲を取り囲んで同航戦を行うイマーガラ家の大軍の攻撃を浴び、次第に痩せ細っていく。このままでは中心部にいる、本陣突入部隊までが攻撃にさらされるだろう。
しかしそれでもイマーガラ軍の破綻の芽は、確かにそこに存在していた。
ギィゲルトが大して気にも留めていなかった、貨物船団の一つ…フォルクェ=ザマに近づく、三隻の中古タンカーの中に―――
▶#20につづく
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