銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第23話:フォルクェ=ザマの戦い 後編

#11

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 戦場となるであろう第五惑星と第六惑星の公転軌道の中間点に、両軍が到着するのとタイミングを合わせるように、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラの総旗艦『ギョウビャク』は、直卒の第1艦隊と共に小惑星帯フォルクェ=ザマの中へ進入した。その目標は、第八惑星ルグラに近い側で安定した軌道を持つ大型の小惑星、デン・ガークだ。

 デン・ガークは惑星ラゴンの月以上の大きさがあり、北極部に穿たれた巨大な二重のクレーターが特徴となっている。ギィゲルトは『ギョウビャク』をそのクレーターへ着底させ、周囲を第1艦隊の宇宙艦で囲んで護衛態勢を取らせた。

 艦橋の戦術状況ホログラムには、こちらの半数しかないウォーダ艦隊を呑み込もうとしている、味方の大艦隊のグラフィックが映し出されている。またウォーダ側には、恒星間警備艦隊を再編した遊撃部隊の表示も、周辺に点在。状況に応じて、戦闘に加わって来る姿勢を見せていた。
 遊撃部隊の大半は偵察用重巡航艦を旗艦とした、軽巡と駆逐艦で構成された部隊であって、戦闘力はそう高くない。ただこの中の二つの部隊は巡航戦艦と軽空母を有し、基幹艦隊に準ずる規模で危険度が高い。そのためギィゲルトは、第22及び第23艦隊を分離し、この危険度の高い警備艦隊をマークさせていた。

 さらにホログラム上には、オ・ワーリ=シーモア星系内を航行している、全ての貨物船団も表示されている。通常ならこういったものは、補助的情報として戦術状況ホログラムに直接表示はされないものだが、ギィゲルトはこれらをウォーダ軍の哨戒船だと見抜いており、その動向を監視するため、今回は表示させていたのである。それによるとここ、フォルクェ=ザマ近辺にも二つの貨物船団がいるようだ。おそらくこの本陣の位置もほどなく知られるだろうが、ギィゲルトからすればむしろ好都合である。別動隊を率いたノヴァルナが、この本陣を直接狙って姿を現すに違いなく、それを仕留める事で勝負を一気につけられるはずだからだ。

 その際一番警戒すべきだったのが、宇宙要塞『マルネー』の高出力要塞主砲で狙撃される事であったが、その要塞はイェルサス=トクルガルの艦隊が、すでに陥落させている。

“これはもう、どう見ても詰み…じゃの”

 すべてに対抗策を打たれている現状を見て、ギィゲルトは不意に、ノヴァルナを哀れに思えて来た。師父セッサーラ=タンゲンを死に追いやった憎い若造ではあったが、三宙域を支配する大々名が昨日今日当主になったばかりの子供相手に、せめて命乞いの機会ぐらい、与えてやっても良いのではないか…そう考えたギィゲルトは、通信参謀を呼び、ノヴァルナへ対し降伏勧告を発信するよう命じた。
 
“そうよのぉ…平身低頭、まことを尽くして許しを乞うなら、あらゆる人も財産も権利も剥奪してただ一人、我が領地のどこか辺境の植民惑星で平民として、暮らさせてやってもよかろう”

 通信科のオペレーターへ命令を伝える通信参謀の後ろ姿を視界に、ギィゲルトは余裕の表情で底意地悪く思考を巡らせた。そのような屈辱的な待遇の生涯に、あの尊大な若者が耐え得るとは思えないからだ。
 そうなるとこちらの降伏勧告など、無視するであろう…通信参謀の「全周波数帯での発信、完了致しました」の声に、ギィゲルトは一人納得した。無視するならするで、こちらから差し伸べた救済の手を、ノヴァルナの方が拒否した事になって、それでいい。

 全周波数帯で発信されたこの降伏勧告は、ラゴン周辺に展開中のウォーダ家全軍へ届いた。そしてこれに反応したのはノヴァルナではなく、妻のノア姫だ。
 ノアは夫の性格から、こういったものは無視せず反応するであろう事。だが現在は極秘行動中で、位置を特定される恐れがあるため、返信したくとも出来ない状況である事から、自分が夫に成り代わって返信しようと考えた。その内容は勿論、夫がこのような状況で必ず発するであろう言葉である。



「先程の降伏勧告への、返信が届きました」

 カレンディ星人の通信参謀が、ウォーダ家からの返信文を記したデータパッドを片手に、早足で近づいてくると、半ば予想が外れたギィゲルトは「ほほぅ…」と、片方の眉を軽く上げた。

「読め」

 ギィゲルトが命じるが、テントウムシのような頭を持つ、カレンディ星人の通信参謀は、口元の小さな触角をせわしなく動かしながら、「はっ…しかし…」と口ごもる。何か不都合な事でもあるのか?…と問う眼で促すギィゲルト。

「構わん、読め」

「ははっ。“発:ウォーダ家統合軍総司令部、宛:イマーガラ家宇宙軍総司令部、本文:―――”」

 そこで通信参謀は僅かに躊躇いを見せ、そして言い切った。



「やなこった!」



 それはノアが発した返信であったが、まさにこの状況で、ノヴァルナが発する言葉そのものであった。これを聞いた者すべての脳裏に、いつもの不敵な笑みを浮かべた、星の海を翔る風雲児の顔が浮かび上がる。

「ホッホホホホ!…面白い。面白いぞ、ノヴァルナ・ダン=ウォーダ!」

 高笑いを放ったのはギィゲルトだ。太った腹を揺らせながら司令官席を立ち、参謀達へ言い放つ。両軍の主力部隊は砲戦距離目前であった。

「もはや問答無用じゃ。全艦任意に攻撃開始。我のパイロットスーツを用意せよ。『サモンジSV』で出るぞ!」




▶#12につづく
 
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