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第22話:フォルクェ=ザマの戦い 前編
#02
しおりを挟む複雑な感情が入り乱れるイマーガラ家重臣達だが、それとは対照的に先鋒を仰せつかったトクルガル家のイェルサスは、意外と平然としていた。いやむしろ、来たるべき時に期待している、とすら言っていい。
会議を終え、スーン・プーラス城を辞したイェルサスは、三名の従者を連れて城下の重臣達の居住区へ向かった。ミ・ガーワ宙域の星大名のイェルサスだが、以前にも述べたように実際はイマーガラ家の人質であり、本来の本拠地であるミ・ガーワ宙域のオルガザルキ城ではなく、イマーガラ家の重臣居住区に住まわされているのだ。
しかしその扱いは丁重であり、例えば居住区にあるイェルサスの屋敷などは、筆頭家老シェイヤ=サヒナンの屋敷と、遜色ない規模のものが与えられていた。このイマーガラ家へ来て四年、ミ・ガーワ宙域の平定や、新興宗教のイーゴン教徒の叛乱鎮圧などで功を挙げ、堅実な働きでギィゲルトの信頼を得られるようになっていたのも、理由の一つである。
星空を見上げながら、徒歩で自分の屋敷へ向かうイェルサスは、視界に広がる星の海に、四年前に取引でウォーダ家からイマーガラ家へ引き渡される前、ノヴァルナと誓った事を思い起こした。
「強くなれ! 敵として会った時は、俺をビビらせるぐらいに!…そして味方として会った時は、俺が安心して背中を任せられるぐらいに!!」
その時のノヴァルナの言葉が、イェルサスの頭の中に響く。
“ノヴァルナ様は、僕を認めて下さるだろうか…”
ノヴァルナと戦う事で、トクルガル家当主に成長した自分を認めてもらいたい…それは、武に生きる者ならではの矛盾した期待感、高揚感であった。このような点では温厚なイェルサスもやはり、ひとかどの武人である。そうであるなら尚の事、全力で戦わなければならない、と思うイェルサスだ。
するとそんなイェルサスに、従者の一人が声を掛けて来る。
「若殿、随分とワクワクしておられますね」
その従者はイェルサスと同年代で、穏やかな物言いをする少年だった。
「分かるかい? ティガカーツ」
口元を緩めて応じるイェルサスが、ティガカーツと呼んだその若い従者は、ティガカーツ=ホーンダートと言い、まだ十五歳の若さながら、トクルガル家最強の称号が期待されているBSIパイロットだった。
「もう四年も御側に仕えていますからね…そのくらいは」
性格的に大らかなところがあるのか、ティガカーツのイェルサスへの接し方は、どこか主従と言うより同格の友人のようでもある。
「どのような形であれ、ノヴァルナ様とまた会えるからな。きみも頼むよ、ティガカーツ。次の戦いが初陣だろ?」
イェルサスの言葉に、穏やかな笑みを返したティガカーツは、口調もこれも穏やかに告げた。
「お任せあれ」
イマーガラ家の上洛軍が5月1日に出発するという情報は、4月の20日にはキオ・スー城のノヴァルナのもとへも届いていた。
イマーガラ家の勢力圏となったミ・ガーワ宙域だが、それでもごく少数、ウォーダ家に協力的な独立管領が存在する。その中の最大勢力ミズンノッド家は、イマーガラ家の内部に諜報部員を潜ませており、それが出発日と戦力規模を詳細に、主君のシン・ガン=ミズンノッドへと伝えて来たのだ。
もっともその諜報部員は直後に、イマーガラ家の特務保安部隊に捕らえられそうになり、自ら命を絶ったのだが。
諜報部員が入手した情報を、シン・ガン=ミズンノッドは惜しげもなく、ノヴァルナへ送った。それは四年前、イマーガラ家に滅ぼされそうになったミズンノッド家をノヴァルナが、自らも苦境の中でありながら、同盟の信義を通して救援に駆けつけて来た事により、ミズンノッド家から全幅の信頼を得るようになっていたからである。あまり表沙汰にはなっていないが、これはまさしく、ノヴァルナの信念の成果だった。蒔いた種はやはり実る…という事であろうか。
そしてその当のノヴァルナと言えば、キオ・スー城にて―――
「はぁ!? てめ、ムシャピンクの行動に、なんの文句があるんでぇ!?」
会議そっちのけで、『ホロウシュ』のジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムと、昨日観たばかりの『閃国戦隊ムシャレンジャー』第47話について、激論を交わしていた。
いやフォークゼムだけでなく、これに関しては他の若手男性『ホロウシュ』も巻き込んで大論争となっている。争点は“シン・ムシャピンク”への二段変身が可能となったムシャピンクが、第47話で父である魔王ヤミ・ショウ・グーンと再び対峙した際、元の父親に戻るよう説得もせずに、戦いを仕掛けた事への是非だ。
「少なくともあの場面に、ムシャピンクの説得シーンはあって然るべきです!」
フォークゼムの主張に、ヨリューダッカ=ハッチやイーテス兄弟、カール=モ・リーラ、ショウ=イクマが「そうだ、そうだ!」と同調する。それに対してノヴァルナは胸を反らせて反論する。
「バカてめぇ。あれは口に出さねぇところで、内心を察しろって、視聴者に訴えてるんじゃねーか!」
ノヴァルナの言葉にナガート=ヤーグマーなど、その他若手男性『ホロウシュ』が“うん、うん”と頷いた。だが不納得顔のフォークゼムがさらに反論する。
「視聴者と仰いますが、低年齢層の子供に、内心を察しろというのは…」
「いやいやいや。おめーら、子供を舐めんなよ!」
すると同席しているキノッサがポロリと言う。
「…というより、時間の都合で編集されたんじゃ―――」
「ああっ、てめ。言っちゃならねー事を!」
一斉にキノッサに食って掛かる、ノヴァルナと『ホロウシュ』達。そこでキノッサ同様、同席しているノアが堪忍袋の緒を切らせた。
「あなた達、いい加減にしなさい!!!!」
叱りつけるノアもそうなのであるが、会議には当然、他の重臣達もおり、全員がノヴァルナ達の悪ふざけに呆れた顔を向けている。実は最近になって来て、公の場でのこういった悪ふざけがまた、増えているのだった。イマーガラ家上洛軍の出発日や、戦力規模がミズンノッド家からもたらされ、事態は切迫の度合いを大きくしているばかりだと言うのにである。
「ノ、ノヴァルナ様。そろそろ、本題に戻られては?…」
筆頭家老のシウテ・サッド=リンが、ベアルダ星人の熊のような顔を困惑させて申し出る。するとノヴァルナは、会議場の壁に浮かんでいるホログラムの時間表示に眼を遣って、「おう。もうこんな時間か」と言い、重臣達を見渡して告げた。
「んじゃ、そろそろお開きにすっか。みんなお疲れー」
「え?」
重臣達が呆気に取られるのも無理はない。「こんな時間」と言う表現を、会議開始から一時間で使用するのは、如何なものか…だからだ。
「ま…まだ一時間ほどしか、経っておりませんが?」
「一時間もやりゃ、充分だろ?」
「はぁ…いえ。しかし―――」
一時間と言っても、実際にイマーガラ家の侵攻に対して、何かが話し合われたのはその半分程度の時間で、取り決めなどは全く決定されていないままだ。シウテが引き留めようとするのも無理はない。しかしかつてのような傍若無人ぶりを見せ、ノヴァルナはあっけらかんと言い放つ。
「話し合いたけりゃ、好きにしな。俺達は引き上げさせてもらうぜ」
そして自分から席を立って、『ホロウシュ』とキノッサを引き連れ、さっさと会議場を出て行こうとすると、「待ちなさいよ。ノヴァルナ!」とノアも後を追う。いい面の皮は残された重臣達だ。主君がいなければ何を話そうと意味をなさない。仕方なく自分達も解散し三々五々、自分達が戻るべき場所へ戻っていく。その道すがら口から出るのは、当然のこと、現状に対する愚痴である。
「どうしたものかのう…」
「これでは話になりませぬなぁ…」
「このような事をしておる場合では、ないというのに…」
「オ・ワーリを統一され、少しは大人になられたと思うておったが…」
「そう言われるな。イマーガラ家とのこれほどの戦力差を考えれば、投げ出したくもなるというもの」
「ううむ…これは、我等も覚悟を決めねばならんか…」
ただ重臣達のそんな愚痴をよそに、今の会議ではふざけ切っていたノヴァルナだが、背後で会議室の扉が閉まると、途端に真剣な表情になって『ホロウシュ』達に命じる。
「よし。今日もマジで勝負だかんな。模擬戦闘だからって気ィ抜くんじゃねーぞ、てめぇら!!!!」
それに応える『ホロウシュ』達も、無論、真顔であった。
「御意!!」
▶#03につづく
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※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。
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