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第21話:野心、矜持、覚悟…
#16
しおりを挟む監視カメラの映像などを踏まえた、このような怪談じみた経緯をヘルタスから聞かされ、ヴァルキスと同席していた弟のヴァルマスは、自分の二の腕を手で抱えると、悪寒を感じたような反応をする。
「こりゃあ…本当に呪いかも知れないぞ」
「そのような非科学的な事が、この時代に…」
と言うアリュスタではあるが、その端正な顔に浮かぶ表情は硬い。ただヴァルキスだけは動揺した様子も無く、淡々とした口調で告げた。
「実に興味深いな。無論、一から十まで科学的かつ、心理的に説明はつく話だが、“ドゥ・ザン様の呪い”と呼んだ方が説得力はある」
トリックとしては単純だ。ドゥ・ザンの書斎に予め、毒の入ったウイスキーを用意し、心理的に不安定となっている状態のギルターツが、亡きドゥ・ザンの居住区画へやって来たら、ドゥ・ザンのホログラムでギルターツを書斎へと誘導する。そしてそこでさらにホログラムで心理誘導をかけ、毒入りウイスキーを飲ませるのである。その後の演出は些か悪趣味だと思うが、救護に駆けつけて来た者達へ見せつけるには、効果的であろう。
しかしヴァルキスが、“ドゥ・ザンの呪い”に興味を示したのは、そこまでの事であった。二重スパイの報告から、暗殺犯はこちらの教唆に乗せられたオルグターツの、二人の側近が放った工作員の仕業であって、万が一ドゥ・ザン自身が仕掛けておいたものだとしても、結果が同じである以上、このアイノンザン=ウォーダ家当主にとって重要なのは、ギルターツ=イースキーが死亡したという事実だ。
次期当主は暗愚なオルグターツであり、イースキー家はこれで大きく揺らぐはずである。ヴァルキスの狙い通り、イースキー家がイマーガラ家のオ・ワーリ宙域侵攻に乗じて、領域の侵食を行う事は不可能となるに違いない。
“想定とは違ったが…結果は上々だ”
これほど早くギルターツが死に、オルグターツがイースキー家当主となるであろう事までは、想定していなかったものの、これでカルツェを頭目とする反ノヴァルナ派の廃滅に続き、どさくさ紛れに蠢動しようとする外部勢力も、排除する事ができた。つまり自分の敬愛するノヴァルナが後顧の憂い無く、侵攻して来るギィゲルト・ジヴ=イマーガラの大軍を全力で向かい撃ち、滅び果てる舞台が整ったという事だ。
ところがその時、ふと自分自身でも云い知れない感覚が、ドゥ・ザン=サイドゥの残した想いが、ヴァルキスの背中を撫でて行く…
“いや。まさかドゥ・ザン様は…ノヴァルナ様に、いずれこの時が来る事を予想し、ギルターツ様を死に招かれたのでは…”
もしやこのように暗躍する自分も、本当はドゥ・ザンの遺した遠大な思惑の、一部に過ぎないのではあるまいか…そのような気になったヴァルキスは、頭を軽く左右に振り、「まさかな…」と自分に似つかわしくない想像を、急いで打ち消したのであった………
一方、このギルターツの死に関して、自分達に都合のいいように捏造した者達がいた。オルグターツの側近にして愛人の二人、ビーダ=ザイードとラクシャス=イルマだ。
二人は主君であるオルグターツより、このところ目立つようになって来ていた、ギルターツの不審な行動を監視するように命じられていたのであるが、ヴァルキスが思っていたような、ギルターツを毒酒で暗殺するよう、誰かに指示を出したりはしていなかったのだ。つまりいずれは暗殺という手段に出る事も考えられてはいたが、現時点においてギルターツの死は彼等にとっても、寝耳に水の出来事だったのである。
ギルターツの暗殺という小さからざる事案の発生に、当然ビーダとラクシャスはオルグターツから報告を求められた。
だがドゥ・ザン=サイドゥが罠として仕掛けておいた、毒の入ったウイスキーを飲んで勝手に死んだという、途方もない話では論理的説明にならない。むしろ監視を怠っていた言い訳、とオルグターツに受け取られかねないと危惧した二人は、映像記録に残るドゥ・ザンのホログラムから一計を案じた。
かねてからギルターツの身辺警護として潜ませていたスパイ―――実は、ヴァルキスが放った二重スパイの報告にあった、ウォーダ家と和解しオルグターツを廃嫡して、ドゥ・ザンの実子リカード=サイドゥを養子に迎え、イースキー家の次期当主とする思惑を、ギルターツが急遽実行に移す事を決定。まずオルグターツの捕縛を命じようとしている情報を掴んだビーダとラクシャスは、主君オルグターツの廃嫡の危機を救うため、やむなくギルターツの暗殺を謀ったという話を、でっち上げたのである。
その結果、暗愚なオルグターツは、自分達の保身のためギルターツの暗殺計画をでっち上げた、ビーダとラクシャスの忠義話を大いに褒めたたえ、またヴァルキスが放った二重スパイは、自分の情報操作の成果に大いに満足するという、ヴァルキスを含む全員が、奇妙な円満終了を迎えたのであった。
だが本当に奇妙な話はまだあった―――
ギルターツの暗殺事件が起きた、イナヴァーザン城のドゥ・ザンの居住区画。そこのNNLシステムの修復作業をしている技師達の会話…
「え?…NNLのホログラム投影端末に細工がしてあったのは、ドゥ・ザン様の書斎の中だけだって?」
「はい。書斎の中のシステムのみ、対人センサーと連動して、ギルターツ様が息を引き取られたあと、他の誰かが入室して来ると自動的に、ドゥ・ザン様のホログラムが投影されるように細工されていますが、その他のシステムに異常は…」
「じゃあ、あれはなんだったんだ?…あの映像にあった、書斎の前で消えるドゥ・ザン様のお姿は………」
NNLの技師達が背筋を凍らせていたその頃、キオ・スー城のノヴァルナ・ダン=ウォーダと言えば―――
『閃国戦隊ムシャレンジャー』
第41話:ヤミ帝国の逆襲
クライマックス。武器を失い、変身も解けた生身の体で、細い空中回廊の先端に追い詰められたムシャピンク。彼女に迫るヤミ帝国の魔王ヤミ・ショウ・グーンが、地鳴りのような声で告げる。
「勝負あった。他のムシャレンジャーどもと違い、“シン・ムシャピンク”に“シン化”出来ぬままのおまえでは、ワシには勝てぬ!」
「く…」
「真に正義の心を持てぬ者に、“シン化”は出来ぬ。おまえには無理なのだ。自分でも分かっているはずだ。自分の心の奥底に潜むものが、闇であるという事を」
「あなたに何が分かると言うの!」
「分かる。おまえの父親と同じだ。かつて、おまえの父親に何が起きたか、ワシが教えてやろう」
「言われなくても知っているわ! あなたが私のお父さんを殺した! 伝説の戦士ムシャゴールドだったお父さんを殺したのよ!」
その時、一陣の風がびょうと唸り、グーンの黒いマントをはためかせた。右腕をムシャピンクに差し出し、この手を取れというような仕草でグーンは静かに告げる。
「違う……ワシが、おまえの父親なのだ」
次回に続く
「えええ!? ここで終わりですか!?」
素っ頓狂な声を隣で上げる『ホロウシュ』の、ジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムに、ノヴァルナは“こいつもだいぶ馴染んで来たなぁ…”と、生暖かい視線を送る。ドゥ・ザンの最後の従兵として仕え、ウォーダ家へやって来た当初の四角四面だった性格も、他の『ホロウシュ』達の影響で柔らかくなって来たものだ。
「おう。んで、ここからが神回の連続でなぁ」
そう言いながらノヴァルナは、リモコンホログラムを操作し、次回予告の音声をミュートにする。
「どうして音を消すんです?」
「ばーか、おまえ。こういう子供番組の予告は、盛大なネタバレになんだよ」
「なるほど」
そしてタイミングよく音声を戻すと、今しがたシリアスな演技をしていたばかりのムシャピンク役の女優が、ムシャイエロー役の女優と並んで、エンディングテーマ開始の掛け声を朗らかに告げる。
「みんなー。ムシャたいそうが、はっじまっるよーーー!」
♪ムシャムシャムシャムシャ あさごはん
♪おいしくたべる そのまえに
♪みんなでムシャムシャ ムシャたいそう
♪1・2・3・4 ムシャたいそう
♪きょうもげんきに ムシャたいそう
♪みんなもいっしょに がんばろう
♪せいぎのみかた ムシャレンジャー
「ノヴァルナ様」
「おう。なんでぇ?」
「はやく続きを観ましょう」
時代が大きく動こうとしているのもどこ吹く風。このようにして新たな『ムシャレンジャー』ファンをまた一人、作り出していたのであった………
【第22話につづく】
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