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第20話:奸計、陰謀、策略…
#16
しおりを挟む「まずもって…元典医が申し上げたる事、これ全て事実にございます」
ズバリと言うドルグの言葉は、ギルターツがリノリラス=トキの子でも、ドゥ・ザンの子でもなく、母ミオーラが不義密通によって身籠った、イナヴァーザン城の警備兵の子だと告げるものである。
「うむ…」
冷厳なる事実。だが今のギルターツには、それを正面から受け止めるだけの、充分な覚悟があった。そうでなければミノネリラ宙域星大名として、今以上の自分へ歩を進める事は出来ないと思っているからだ。
「その頃のドゥ・ザン様は、野心の塊のようなお方でした。父君ゴーロン様がお亡くなりになり、意気消沈されるどころか、これからは自分の時代だと、その意気は天をも衝かんばかり―――」
遠い眼をするドルグ。
「私やコーティ=フーマも、若ぅございました。ドゥ・ザン様に負けじとばかり…いや、これは余計な話でしたな」
そう言って苦笑いを見せるドルグの顔に、ギルターツは「若様」と呼ばれ、ドルグによく遊んでもらっていた、幼少の頃の思い出を頭によぎらせた。
「欲しいものは全て手に入れる…それが当時のドゥ・ザン様。リノリラス様の奥方にして、ミノネリラ一の美女と謳われたミオーラ様を我がものにする事。それはリノリラス様を星大名の座から追い落とし、ミノネリラ宙域征服の証でもあったのでございます」
「では、母が宿していた我は?…」
「その時は、リノリラス様とミオーラ様を脅すための道具…それ以上でも、それ以下でもございませんでした」
冷淡なドルグの言葉だが、ギルターツに動揺は無い。“国を盗んだ大悪党”にして“マムシのドゥ・ザン”ならば、当然の考え方であるからだ。
「そうであろうな…」
落ち着き払って、ギルターツは一つ頷いた。
「だがそれならば、なぜドゥ・ザン殿は我を生かし、口約束通りに次期当主の座を与えようとしたのか? 二人のクローン猶子を造ったばかりか、年若いオルミラと再婚し、実子のリカードとレヴァルも生まれた以上…我の優先順位は最下位となっても…いや、“マムシのドゥ・ザン”ならば廃嫡した上、命を奪ってもおかしくはなかっただろうに」
それはギルターツがドルグに尋ねたかった、本題の一つであった。ドルグはやはりその事か…という表情で瞼を閉じ、静かに告げた。
「それは偏に、哀れに思われたからにございましょう…」
「哀れに?…あのドゥ・ザン殿が、他人の子の我に情けを掛けたと申すか?」
“哀れ”という言葉に怒りというより、意外そうな表情を浮かべるギルターツ。他人の赤子に情けを掛けるなど、他の誰かならともかく、“マムシのドゥ・ザン”からは想像もつかない行為だ。
「或いは、他人の子であったからかも知れませぬ」
そう応じるドルグの言葉は不思議なものだが、なんとなくギルターツに納得を与えた。酔狂とは違う何か…他人には無いドゥ・ザンならではの感覚が、そうさせたのかも知れない。するとさらに告げるドルグの物言いが、それを確信に変えた。
「ドゥ・ザン様は本当は、ご自分の跡を…星大名の座を継ぐ者は誰でもよいと、思われていたのでございましょう。なにぶんご自分も自らの力で、星大名の座を奪い取られたのですから。つまり誰の子であろうと、力ある者が頂点に立つべきだと」
「なるほど…」
さらにドルグは感慨深げな表情を見せて述べる。
「あの時…ギルターツ様のご謀叛の報をお聞きになられた時。ドゥ・ザン様はどこか、嬉しそうにしておいででした」
「…!」
それまでの話を聞き、ギルターツはその時のドゥ・ザンの気持ちを、正確に理解した。漫然と当主の座を受け継がせるより、誰かが奪い取りに来た方が、自分には相応しいと思っていたのだろう。そしてその一番手がギルターツであった事が、心のどこかで嬉しかったに違いない。業が深いと言えば深い話ではあるが。しかしドルグが次に口にした言葉が、ギルターツの心を鋭く貫いた。
「おそらくドゥ・ザン様はその時、ギルターツ様を真に我が子と、認められたのでございましょう」
「!!!!」
これを聞いてギルターツはテーブルに両手をつき、膝から崩れ落ちそうになるのを、かろうじて防いだ。実力ある者こそが我が子…そこには、自分の血を分けた子や、クローン猶子といったものも関係ない。それがドゥ・ザンの信奉する“マムシの道”であったのだ。そういった意味でドゥ・ザンを斃した事で、自分は本当のドゥ・ザンの子となれたのである。
“ドゥ・ザン殿こそが、我が父であった―――”
うつむいたギルターツから、テーブルの天板に一粒…二粒と涙が落ちた。探し求めていたものを、自分の手で葬り去ってこそ得られたとは、“マムシの道”とはなんと因果な道であろうか。そんなギルターツの耳に、ドルグ=ホルタの声が静かに響いて来た。
「お話はこれまでにて。今後もご政務にお励み下さい………」
▶#17につづく
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