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第20話:奸計、陰謀、策略…
#15
しおりを挟む通信ホログラムスクリーンに映る義兄、ルヴィーロ・オスミ=ウォーダが、父ヒディラスの若かりし頃もそうだったであろう笑顔で、ノヴァルナに語り掛ける。
「いやぁ。やっぱり強いね、ノヴァルナは」
「義兄上こそ、少ない戦力でお見事でした」
父ヒディラスを、イマーガラ家の深層暗示による洗脳で殺害して以来、ほとんど表立つ事は無いルヴィーロだが、ノヴァルナは昔からこの義兄が好きであった。年齢差もあって早くから離れ離れに暮らして来てはいたが、奇行を重ねるノヴァルナの本質を見抜き、穏やかな眼で見守ってくれた理解者だったからだ。したがってノヴァルナもルヴィーロに対してだけは、はじめから言葉遣いも丁寧だった。
「義兄上の戦いぶり、参考にさせて頂きます」
「そう言ってもらえると光栄だ」
「そうだ、今度…ノアや妹達と一緒に、夕食などいかがですか?」
さりげなく食事に誘うノヴァルナ。しかしルヴィーロは「ありがとう。考えておくよ…」と応じるにとどまる。いまだにイマーガラ家に洗脳された自分が、会食の席で父ヒディラスを殺害したという負い目…そしていまだその洗脳が完全には解けておらず、心の奥底では、ノヴァルナを殺したいと思う葛藤が、今も息づいているからである。
“コイツは今回も、フラれちまったな…”
ホログラムスクリーンの向こうで孤高な微笑みを浮かべる、義兄の表情を見て、ノヴァルナは苦笑いを交えて告げる。
「では。また明日の演習で…」
だがノヴァルナは無論、惑星ラゴンのキオ・スー市で起きている、キノッサとネイミアの窮地を知る由もない。
しかもノヴァルナの座乗する総旗艦『ヒテン』の貴賓客用キャビンには、二人を捕えたクラード=トゥズークの主人、カルツェ・ジュ=ウォーダが付家老カッツ・ゴーンロッグ=シルバータと共にいた。
演習を終えた第1艦隊が、泊地へ移動するため、陣形を第一航行序列に再編していく光景を展望窓から眺めるカルツェに、シルバータは生真面目な声で言う。
「皆…気合が入っていましたな。良い動きでした」
現在のシルバータはカルツェの付家老だが、ノヴァルナの実力を認めて、臣従を誓っている。そのためカルツェとクラードら、反ノヴァルナ派にとっては今や煩わしい存在となっており、現在進行している計画からは完全に外されていた。何も知らないシルバータは、さらにノヴァルナの手腕を褒める。
「ノヴァルナの采配もお見事。日々の御研鑽の賜物でありましょう」
シルバータからすればもはやカルツェに、ノヴァルナに対して叛旗を翻す意志は無いと思っているため当然の賛辞だ。それに対し、カルツェは素知らぬ顔で、「そうだな…」とだけ言葉を返した。
またこの同じ日、ミノネリラ宙域との領域境界面近くの、オ・ワーリ宙域辺境部にある、放棄された植民惑星で一つの会見が行われようとしていた。今は立場こそ違えど旧サイドゥ家の人間…ギルターツ=イースキーと、ドルグ=ホルタの会見である。
この植民惑星は元来、皇国貴族の荘園惑星となるはずだったのだが、約百年前に第一次植民が終了した直後、『オーニン・ノーラ戦役』が勃発し、領有していた貴族が断絶。移民達もほとんどが、周辺のウォーダ家植民惑星へ逃げ出して、現在の人口は惑星上に三ヵ所ある交易ステーションに居住する従業員とその家族が、合計で五百人足らずだけだった。
ギルターツとドルグの会見の場は、その交易ステーションの一つに用意されている。この惑星は領有していた貴族の断絶後の現在は、銀河皇国植民管理省の管理下にあって、ウォーダ家の支配下ではない。つまりは中立地帯での会見という事になる。
ロビーの一画に置かれたソファーセットに座っていたドルグは、自分に向けて歩いて来るギルターツに姿を認め、立ち上がって一礼した。
「わざわざお越し頂き、恐縮にございます。ギルターツ様」
貨物船へのコンテナ積み替え所に隣接する、簡易宿泊施設のロビー…そこが会見の場所だ。ギルターツは護衛が僅か二人、ドルグに至っては本人のみという、双方の身分の重さに比して、不用心と言えば不用心な人数である。
「いや。こちらが無理を言ったのだからな。どこへでも出向くが筋…」
ギルターツはそう言って、ドルグの向かい側のソファーに座った。
「壮健そうで何よりだ。ホルタ」
愛想は良くはないが、ギルターツは穏やかな口調で述べる。
「ギルターツ様こそ、ミノネリラ宙域の統治も順調なように聞いております。ご立派な星大名となられましたな」
「其方に認められるのは、嬉しいものだ」
それはかつての父殺しの謀叛人と、背かれた父の重臣という関係からすると、敵意ではなく懐かしさに包まれた、奇妙な空間だった。そしてしばし、世間話をしたのち、ドルグはこの会見を求めて来たギルターツの目的を自ら口にする。
「ところで…例の元典医に、お会いになられたとのこと」
「うむ…」
「となると、次にお会いになりたく思われるのは、この私でしょうな」
自分の出生の秘密を知ったギルターツは、いずれ自分に会おうとするだろうと、ドルグには予想がついていたようだ。ギルターツは巨躯の背中を丸め、神妙な面持ちでドルグに告げた。
「話を聞かせてくれまいか?…ドゥ・ザン殿の」
▶#16につづく
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