銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第18話:未来への帰還

#17

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「キヨウへ軍を入れたまま何もせず、何を考えてるかもわからねぇミョルジ家や、好き放題やってやがるアクレイドの連中を追い出す。そんでもってテルーザ陛下を中心とした、皇国の政治体制を立て直すのさ」

「しかし殿下はなぜ、それが可能だと思われるのですか?」

 自らの想いを告げたノヴァルナに、ナルガヒルデ=ニーワスはさらに落ち着いた声で尋ねた。その口調は、聞きようによっては冷淡で、ノヴァルナを批判しているようでもある。
 だが実際は、ナルガヒルデはノヴァルナの周囲が今以上に敵だらけであった頃から、すでにノヴァルナの本質とその将来性を信じ、全面的に支持して来た女性家臣であった。したがってこの問いもむしろ、ノヴァルナの想いを皆に伝えさせるための、手助けの問いかけだったのだ。それを理解してか、ノヴァルナも陽気な声で応じる。

「決まってんだろ。俺達が一番、キヨウのあるヤヴァルト宙域にけぇからだ!」

 体質から来るNNLとの不調和を解消するため、眼鏡型の端末をかけているナルガヒルデは、知的な顔立ちと相まって女教師のような印象を与える。そのナルガヒルデが、ノヴァルナの言葉に頷く様子は、まるで生徒の解答を評価しているように見えた。

「それはつまり、他家に対するアドヴァンテージ…戦略的優位という事ですね」

「そうだ。オ・ワーリはヤヴァルトまではそう遠くない。コイツは非常に重要な要素だ。遠ければ遠いほど、キヨウを目指すには金と時間と労力がかかる。他に対外政策に積極的で、キヨウを目指す可能性があるタ・クェルダ家やウェルズーギ家、モーリー家なんかを見ろ。連中が実際にキヨウを目指すには、準備の大変さは俺達の比じゃねぇだろ」

 それを聞いてナルガヒルデは「確かに仰る通りです」と同意する。そしてナルガヒルデが有能なのは、そこで余計な追従口を叩くのではなく、反対派の家臣の懸念も踏まえた問いを続けるところだ。

「ですが我々家臣一同が懸念しておりますのは、我がキオ・スー=ウォーダ家を取り巻く現状が、殿下のご構想の実現を、許さぬ状況である事でございます。先程からの家臣達の問答も、これを案じての事。殿下に手立てがございましたら、その一端でもお聞きできれば、我等も安心できるものにございます」

 ナルガヒルデの問いにノヴァルナが「なるほどそうか」と応じると、他の重臣達は、彼女の要領の良さに称賛の眼を向けた。
 
「まず、イル・ワークランは、ぶっ潰す!」

「!!!!」

 いきなり言い切ったノヴァルナに、重臣達は顔をサッ!…と緊張させる。その中で会議に参加しているノヴァルナのいとこ、ヴァルキス=ウォーダだけは小さく頷いた。オ・ワーリ=カーミラ星系を本拠地とするウォーダの宗家、イル・ワークラン家は、ノヴァルナだけでなく反ノヴァルナ派にとっても邪魔な存在であり、これと雌雄を決する事に関しては、方向性は同じであった。

「カダールがイル・ワークランの実権を握ってからは、強引な植民惑星開拓計画の実行や、立て続けの増税で、領民達も苦しんでいるって言うからな。その救済も含めて、そろそろ潰すべき頃合いだろうぜ」

 ノヴァルナがそう続けると、BSI総監のサンザーも大きく頷く。

「向こうも同じように考えておるでしょうし、戦機は熟した、と言ったところでございましょうな」

「次にイマーガラ家だが、カーネギー姫とキラルーク家の和平協定に加え、もう一つ二つ…足止めの手を考えてある」

「足止めにございますか?」

「そうだ。なにも滅ぼす必要はねぇ。それに連中は星帥皇室と血縁の、名門貴族だからな。俺達が上洛軍を編制したのが、星帥皇陛下の意向だと知れば、邪魔はしないはずさ」

 それを聞いて、重臣達の何人かは“なるほど…”といった表情をし、顔を見合わせた。アスルーガ家の血統に連なり、星帥皇室の支援者であるイマーガラ家であるから、その星帥皇がウォーダ家に上洛軍の編制を命じたのであれば、妨害行為などは星帥皇室への叛逆となるため、行わないはずである。

「そんでもって、イースキー家に対しては、だが―――」

 そう切り出したノヴァルナは、重臣達を見回して口元を大きく歪め、不敵な笑みを浮かべたまま言い放った。

「そいつはここじゃ、マジ言えねぇだろ!」

 ノヴァルナの言葉ももっともであった。反ノヴァルナ派をはじめ、この会議場にいる家臣の中には、イースキー家に通じている疑いがある者が、幾人も混じっているからである。「てなわけで―――」と言いながら傲然と胸を反らせたノヴァルナは、会議の終了を告げた。

「個々の指示は追って沙汰する。今日はここまで! みんなお疲れー!!」

 言うが早いか『ホロウシュ』達を引き連れ、さっさと会議場を退出してゆく主君に、重臣達はそれぞれの反応を見せる。もはや突拍子の無さに慣れて来た者…いまだ慣れられない者…そして、それ以上に反感を抱く者。その一端、クラード=トゥズークは何事かをカルツェに耳打ちし、取り巻き達に別室に集まるよう指示を出した………




▶#18につづく
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