378 / 508
第18話:未来への帰還
#09
しおりを挟む船室の向かい合わせのソファーにノヴァルナとノア、キノッサとネイミア。まずノヴァルナが口を開き、皇都惑星キヨウでトゥ・シェイ=マーディンと、カーズマルス=タ・キーガーから入手した情報を開示した。
ノヴァルナとノアが飛ばされた皇国暦1589年の世界。それを引き起こしたと考えられる、トランスリープを発生させた『超空間ネゲントロピーコイル』は、ルキナ=エンダーとノアの考察から、このシグシーマ銀河系の中心に対し直角となる正六角形を描く、六つの恒星系の中の一つの惑星に直径三十キロにも及ぶ、パーツコイルが建設されていると推測されていた。そしてそのパーツコイルの一つが、ノヴァルナとノアが不時着した、未開惑星パグナック・ムシュに存在していたのである。
ただパグナック・ムシュには、ムツルー宙域でダンティス家と覇権を争う星大名アッシナ家に手を貸し、自らの領地獲得を狙う恒星間マフィアのボス、ピーグル星人のオーク=オーガーが営む、麻薬草ボヌリスマオウの大規模農園もあった。
するとノヴァルナはオーガーの機動城『センティピダス』内に潜入した際、帳簿データに侵入し、このボヌリスマオウ農園を造園したのが、『ラグネリス・ニューワールド社』という植民惑星開拓企業である事を知る。
この『ラグネリス・ニューワールド社』はマーディンの話によれば、植民惑星開拓業界では五・六番手を争う比較的新興の企業で、本社をセッツー宙域のオ・ザーカ星系第四惑星ガルシナに置いていた。
問題の第一はこの惑星ガルシナである。惑星ガルシナは近年、勢力を急速に拡大しつつある新興宗教、イーゴン教の総本山の『イシャー・ホーガン』があり、両者の関係性に疑わしいものを感じさせる。
問題の第二は、この『ラグネリス・ニューワールド社』がムツルー宙域の恒星間運輸会社、『グラン・ザレス宙運』の隠れ蓑なのではないかという疑い。オーガーの一味が、ボヌリスマオウの輸送に使用していた中古貨物船の舷側に、古びれて消えかけた『グラン・ザレス宙運』の文字があったのは、偶然とは思えない。
問題の第三は、ビーダ達がメイアに打った麻薬が、皇国暦1589年のムツルー宙域で売買されていた、ボヌリスマオウから抽出される麻薬“ボヌーク”の開発段階のものであり、しかもそれを開発しているのが『アクレイド傭兵団』だったという事だ。
これらの情報を並べてみると、確定的な証拠はないものの、全てが繋がっているように思えて来る。そしてその中心にあるのが、イーゴン教団と『アクレイド傭兵団』だった。二つともその実態が正確には把握されていないという、共通した胡散臭さを有している。
ノヴァルナが列挙した事項を聞き、ノアが自分の思うところを口にする。
「確定的な事とは言えないけど、やっぱり…『アクレイド傭兵団』が“ボヌーク”を開発したのなら、『ラグネリス・ニューワールド社』や『グラン・ザレス宙運』は、『アクレイド傭兵団』と繋がっていると考えるのが、妥当だと思うわ」
「だよな」と頷くノヴァルナ。
「カールセンさんの話だと、“ボヌーク”はピーグル星人が、銀河皇国に持ち込んだ事になってるけど、もしかしたら『アクレイド傭兵団』が開発した“ボヌーク”とボヌリスマオウを、『グラン・ザレス宙運』がムツルー宙域まで運んでピーグル星人達に渡し、その栽培農園を、『ラグネリス・ニューワールド社』が造園したんじゃないかしら?…これなら、筋も通ると思うんだけど」
「しかしなぁ、なんでそんなまわりくどい事をする必要が、アクレイドの連中にあるんだ? ピーグル星人どもなんて間に挟まず、直接“ボヌーク”の販路を作りゃいいんじゃね?」
「そうかもしれないけど、ムツルー宙域はここから五万光年以上あるのよ。向こうで使えそうな勢力と手を組んで、任せておいた方が効率はいいでしょ?」
ノアの回答に「なるほどな」と、ノヴァルナも納得顔になる。やはりノアがいると話が早く進む。
「その『アクレイド傭兵団』の本隊は、『イーゴン教』の総本山があるオ・ザーカ星系から、自治星系のザーカ・イー周辺にいるって話だからな。そうなると、ザーカ・イーの商工業組合もグルだと、考えるべきか…だとすると資金力も頷けるってもんだ。連中の本隊は、自前の艦で編制した大艦隊らしいし」
自治星系ザーカ・イーは圧倒的な経済力を誇り、一つの星系しか有していないものの、運営予算は一つの宙域国並みであった。それだけの経済力を持った彼等が、『アクレイド傭兵団』を支援していても不思議ではない。事実、ザーカ・イーは自分達の利益のためミョルジ家によるキヨウ侵攻を支援し、『アクレイド傭兵団』の皇都惑星に対する略奪行為をそそのかしたという情報。そしてこれらの仲介を行ったのが、『イーゴン教団』の宗大師ケーニルス=イーゴンだという情報を、カーズマルスから得ている。
「うーん。ミョルジ家に『アクレイド傭兵団』に、『ラグネリス・ニューワールド社』と『グラン・ザレス宙運』…それに『イーゴン教団』にザーカ・イー自治星系かぁ。関係性は想像以上に複雑そうね…」
情報を得れば得るほど複雑化して来る状況に、ノアも困惑気味だった。そしてさらに例の、『超空間ネゲントロピーコイル』の問題が加わるのだ。
するとそれまで黙って話を聞いていたキノッサが、不意に口を開いた。
「それってホントは、もっと絞り込めるんじゃないッスか?」
▶#10につづく
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
空色のサイエンスウィッチ
コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』
高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》
彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。
それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。
そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。
その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。
持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。
その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。
そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。
魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。
※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。
※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。
※2022/10/25 完結まで投稿しました。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
融合大陸(コンチネント・オブ・フュージョン)メカガール・コーデックス
karmaneko
SF
融合大陸(コンチネント・オブ・フュージョン)において機械文明は一定の地位を確立している。その地位の確立に科学力と共に軍事力が大きく影響することは説明するまでもないだろう。
本書ではその軍事力の中核をなす人型主力兵器についてできうる限り情報を集めまとめたものである。
戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~
川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる
…はずだった。
まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか?
敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。
文治系藩主は頼りなし?
暴れん坊藩主がまさかの活躍?
参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。
更新は週5~6予定です。
※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。
フィーバーロボット大戦~アンタとはもう戦闘ってられんわ!~
阿弥陀乃トンマージ
SF
時は21世紀末……地球圏は未曾有の危機に瀕していた。人類は官民を問わず、ロボットの開発・研究に勤しみ、なんとかこの窮地を脱しようとしていた。
そんな中、九州の中小企業である二辺工業の敷地内に謎の脱出ポッドが不時着した……。
爆笑必至の新感覚ロボットバトルアクション、ここに開戦!
聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。
「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」
と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。
鋼月の軌跡
チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル!
未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!
『エンプセル』~人外少女をめぐって愛憎渦巻く近未来ダークファンタジー~
うろこ道
SF
【毎日20時更新】【完結確約】
高校2年生の美月は、目覚めてすぐに異変に気づいた。
自分の部屋であるのに妙に違っていてーー
ーーそこに現れたのは見知らぬ男だった。
男は容姿も雰囲気も不気味で恐ろしく、美月は震え上がる。
そんな美月に男は言った。
「ここで俺と暮らすんだ。二人きりでな」
そこは未来に起こった大戦後の日本だった。
原因不明の奇病、異常進化した生物に支配されーー日本人は地下に都市を作り、そこに潜ったのだという。
男は日本人が捨てた地上で、ひとりきりで孤独に暮らしていた。
美月は、男の孤独を癒すために「創られた」のだった。
人でないものとして生まれなおした少女は、やがて人間の欲望の渦に巻き込まれてゆく。
異形人外少女をめぐって愛憎渦巻く近未来ダークファンタジー。
※九章と十章、性的•グロテスク表現ありです。
※挿絵は全部自分で描いています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる