355 / 508
第17話:風雲児 都の星で ひと暴れ
#06
しおりを挟むクーケンの懸念は的中していた―――
待ち伏せ部隊のいる浄水・空調施設に最初に突入したのは、ノヴァルナの直属部隊ではなく、彼に協力するカーズマルス=タ・キーガー率いる、元ロッガ家の特殊部隊だったのだ。ラン・マリュウ=フォレスタがノヴァルナに提案したのは、このカーズマルスに助力を要請する事であった。
ノヴァルナの認可を受けたランの要請に対し、カーズマルスは二つ返事で了承。全面的な協力を約束し、即座に部下達を招集して、突入作戦を立てると『クォルガルード』より先行して出動するという、手際の良さを見せたのである。
これはビーダとラクシャスが待ち伏せ場所を、『ゴーショ行政区』の外れにあるこの『ゴーショ東第二工場区』にした事も大きい。
『ゴーショ行政区』と他の行政区の境界地帯『カ・クーシャ』の中で、カーズマルスとその部下が支配している『デノアンカー区』は、この工場区の近くにあったのだ。さらに彼等が根拠地にしているのが、荒廃で無人状態となっていた警察署であり、周辺地域の構造物の情報は容易く収集が可能だったため、その浄水・空調施設の詳細な情報を入手、『クォルガルード』へ提供までしていた。
そして準備を済ませて出動したカーズマルス隊は、クーケンの見張り員が『クォルガルード』の接近を察知した時にはすでに、別ルートから施設内に潜入を終えていたのである。
アサルトブラスターライフルを手に片膝をついた、カーズマルス=タ・キーガーの、複合型ヘルメットに部下達から報告が入る。
「バイパー22。ルーム3制圧」
「バイパー26。ルーム5、クリア」
その報告がマーカー表示となって、カーズマルスの左手首に巻かれたリストバンド型NNL端末が展開する、施設の構造ホログラムに記された。
「バイパー210。ルーム8制圧。敵は一般兵の模様」
その報告を聞いてカーズマルスは、敵の中核である特殊部隊のいる位置が、ほぼ予想通りであろうと判断する。施設内の中央やや後方にいるのが特殊部隊で、増援の一般兵がそれを半ば囲むように配置されている。こちらが行っているのがノア姫の奪還作戦であるから、姫の発信器の反応がある中央管理棟付近まで引き付け、迎撃するつもりに違いない。周りに置かれた一般兵は、こちらの動きを知るための囮にされているのだ。
なかなか現実的な判断をする敵の指揮官だと、カーズマルスは思う。しかし彼等も予想していないであろう情報を、カーズマルスは持っていた。それはこの施設の構造図内に示された、個々の敵兵の位置である。突入直前にノヴァルナの『クォルガルード』から与えられた最新情報だった。
そしてカーズマルスが驚いたのは、この情報を入手したのが、ノヴァルナの二人の妹の仕事によるものだという事だ。
ノヴァルナの二人の妹マリーナとフェアンは、まだ十八歳と十七歳の若さで、異世界で言う“ゴスロリファッション”を愛する冷静沈着な姉と、赤・白・ピンクがファッションの基本で無邪気な妹という、見た目も性格も対照的な姉妹だったが、それぞれに異才を放つものがあった。マリーナの冷静な状況分析力、フェアンのコンピューター操作―――ハッキング能力がそれである。
ノアの発信器の信号が、『ゴーショ東第二工場区』の浄水・空調施設にいる事を確実にし、カーズマルス=タ・キーガーからその施設の構造図データが届いた際、マリーナはこれを使えば、内部にいる人員の位置が、把握できるのではないかと考えた。最初から敵兵がどの位置にいるかが判明していれば、こちらが俄然有利になるのは間違いない。
そこでマリーナが話を持ち掛けたのが、高いハッキング能力を持つ、妹のフェアンだった。フェアンは先日の惑星ルシナスの海洋レジャー施設で、クーケン達に襲われた時、展示されてあった旧時代の潜水艦をハッキングで行動可能にし、全員の脱出を成功させたのをはじめ、これまでの幾度かの危機を、その才能で救ってきた実績がある。
カーズマルスから、『クォルガルード』の艦橋内に送信されて来た、ワイヤーフレームで内部構造まで表示された浄水・空調施設のホログラムを前に、この事を閃いたマリーナは、落ち着いた口調で傍らのフェアンに問い掛けた。
「イチ。思いついたのだけれど、この構造図に敵の兵士を一人ずつ、表示できないものかしら?」
「ん? どゆこと?」
事態が事態だけに、姉に訊き返すフェアンも、言い回しはいつも通りだが、口調は真剣だ。マリーナはホログラムを指さして告げる。
「別で敵兵の位置をハッキングして、この構造図とリンクさせるの。はじめからノア義姉様と、敵のいる位置が分かれば、全然話も違って来るでしょ? あなたなら出来るわよね?」
「そうだけど…楽じゃないよ。ここは軍事施設とかじゃないから、そこまでは複雑じゃないとは思うけど、それでもセキュリティの監視システムを、直接ハッキングするには時間がかかるから、長引きそうで自信無いなぁ…」
首をかしげるフェアン。しかしマリーナの閃きはその上を行くものだった。
「監視カメラや対人センサーは、ハッキングしなくていいの」
「なんで?」
そう言って訝しげな眼を向ける妹にマリーナは、彼女のトレードマークである、左腕に抱く人相の悪い犬の縫いぐるみの頭に右手を軽く置くと、口元に僅かだが笑みを浮かべて告げた。
「あなたがハッキングするのは、消防システムなのだから」
▶#07につづく
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】聖女ディアの処刑
大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。
枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。
「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」
聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。
そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。
ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが――
※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・)
※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・)
★追記
※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。
※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。
※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる