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第17話:風雲児 都の星で ひと暴れ
#02
しおりを挟む「話が違うじゃない。ノアを保護するんじゃなかったの!?」
ゴーショ行政区の中、途中停車したトレーラー車のコンテナに乗り込んで来た、イースキー家嫡男オルグターツの二人の側近、ビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマを相手に抗議の声を上げたのは、ノアを罠に陥れる役目を負わされる形となった、ソニア・ファフラ=マットグースである。ノアとメイア=カレンガミノ、そしてソニアの三人は現在、イースキー家陸戦特殊部隊が入手したトレーラー車のコンテナに乗せられ、兵士達に囲まれて立体庭園から移動を始めていた。
ソニアがゴーショ行政区の立体庭園にノアを誘い出したのは、学生時代の親友のノアを旧サイドゥ家の生き残り家臣達に保護させ、サイドゥ家が滅んで行き場をなくしたノアを、政略結婚としての利用価値がなくなったものとして虐待している、婚約者のノヴァルナのもとから逃がすためだと、思い込んでいたからだ。
そのノアの保護理由は、ビーダ=ザイードの持つ、一種のマインドコントロール能力である、“メンタルドミネーション”で誘導されたものであったのだが、さすがにノアの連れて来た途端、銃を構えた兵士達に取り囲まれては、その不自然な流れに、マインドコントロールも解けて来るというものである。
「あぁら、ちゃんと“保護”したじゃなァい、こうやって。それにアタシ達が旧サイドゥ家の人間なのも、本当よぉ。今はイースキー家の人だけどぉ」
女装趣味のビーダは、コンテナ内の空気の悪さに閉口したように、金箔仕上げの扇で、大きくはだけた胸元をゆっくりと仰ぎながら、わざとらしく言い放つ。
「そんな!―――」
ノアのサイドゥ家が分裂して、今のイースキー家を名乗るギルターツ派閥が、ノアの両親を攻め滅ぼした事は、親友の事情という事でソニアも知っていた。さらに抗議の言葉を続けようとするソニアに、ノアは固い口調で告げる。
「信じ込まされていたのよ…ソニア」
そしてノアはビーダとラクシャスに向き直った。当然面識のある二人だ。二人が個々に持つ能力も知っている。
「あなた達の仕業ね。ザイード、ハルマ」
それに対し、スーツを着た男装のラクシャス=ハルマは無言で礼儀正しく一礼。一方のビーダ=ザイードは外連味もたっぷりに、芝居じみたお辞儀をする。発言したのもビーダだ。
「ご無沙汰しておりますノア姫様。相も変わらぬお美しさと凛々しさ。まことに羨ましい限りですわ」
「ノヴァルナ様狙いで私を捕らえたのなら、無駄な事です。ノヴァルナ様には星大名の責務があり、それは私の命と引き換えにされるものではありません!」
きっぱりと言い切るノア。だがその言葉の中には幾分不安もある。あの愛しい馬鹿はかつて、自分を助けるために星大名嫡男の身を投げ出し、命を懸けた“前科”があるからだ。
ただビーダにはこの男なりの思惑があるようで、扇で口元を隠し、「フフフ…」と含み笑いを漏らす。
妖しく微笑むビーダの隣でスキンヘッドの女性、ラクシャスが特殊部隊指揮官のキネイ=クーケン少佐へ声をかける。
「少佐。首尾はどうか?」
どこかイロモノ感のあるビーダとラクシャスと対照的に、クーケンは腰のベルトに取り付けた複数のホルダーの一つから、大昔のAV機器のリモコンを思わせる小型の解析装置らしきものを取り出し、生真面目な表情で応じた。
「手筈通り、一人は逃がしました」
そう言ったクーケンは、解析装置の先をノアに向ける。この男が口にした“一人逃がした”とは、隙を見て脱出したマイア=カレンガミノの事だった。すると解析装置は小さいが甲高く聞こえる発信音を発する。
「うふん…超小型の電波発信デバイス」
広げた扇で口元を隠したまま、流し目でノアを見るビーダ。クーケンはノアの着衣に、緊急時に作動する事が出来る、超小型電波発信器が装着されている事を見越した上で、マイアをわざと逃がしたのだった。マイアに状況を報告させ、ノヴァルナをおびき寄せるためだ。
オルグターツ=イースキーから、ビーダとラクシャスに与えられた任務はノアを捕らえる事だが、クーケンらがイースキー家当主ギルターツから与えられた本来の任務は、ノヴァルナの殺害だからである。そしてビーダとラクシャスも横槍を入れた立場上、クーケンの任務を無視はできなかった。
ビーダは扇をパチリと閉じ、それをナイフに見立てて突き出す。
「姫様を餌に、大うつけちゃんをおびき寄せて…グサリよ!」
無言で睨みつけるノアに、ラクシャスが丁寧な言葉遣いで告げる。
「ルシナスでこのクーケンらの部隊が襲撃した時より、我等が率いてきた部隊の合流で戦力は増強されております。BSI部隊も追加されましたので、ノヴァルナ様に勝ち目はありません…残念ですがお諦めください」
そこに体をくねらせながら、要らぬ言葉を加えるビーダ。
「うぅん。アタシ好みのイケメンなのに、死なせちゃうの勿体ないわぁ」
ビーダの余計な物言いに、ラクシャスは小さく舌打ちしてクーケンに問う。
「で…ノア姫様だけを連れて行く訳には、いかないんだな?」
「はっ。こういった場合の発信器は、迂闊に外すと、発する信号が変わる可能性があります。おびき寄せるのに、無用な情報を与えるべきではないと…」
「わかった」
そこでまた口をはさんで来るビーダ。
「ちゃんとやってね、少佐。アタシ達は姫様を、オルグターツ様のもとに届けるのが、第一の任務なんだから」
「了解であります」
そう応じるクーケンの声は、感情らしきものは感じられないものの、どこか苛立ちを纏っているように冷たく響いた………
▶#03につづく
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