銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す

#15

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「行くぞ!!!!」と叫ぶガーヒュ。

 その直後、『ジャゴーGE』を含むガーヒュ一味のBSIユニットの、全機の足元で白い水柱が大きく吹き上がった。ホバリング出力を高めて、戦闘距離を取るために高速移動を開始したのだ。蜘蛛の子を散らしたように、一斉に散開する33機のBSIユニット。
 だがヴォクスデンの『ミツルギCC』だけは動かない。コクピットの戦術状況ホログラムが映し出す、惑星上空を周回する個人所有の監視衛星からの、敵の移動状況を確認しながら、ノヴァルナ達との通信回線を開く。

「ではお客人。見届け役、宜しくお願い致します」

 ヴォクスデンはノヴァルナの名を口にせずに、“お客人”と呼んだ。ここにいるのがノヴァルナ・ダン=ウォーダだとガーヒュが知れば、功名心に駆られてノヴァルナにまで危害を加えかねない…と考えたからである。

「大丈夫なのか、カラーバ殿。時間さえ稼いでくれれば、今からでも私の機体を積んだ船を呼び寄せるが?」
 
 ノヴァルナが懸念したのは、敵の数もそうなのだが、機種が陸戦仕様機であるという点だ。ヴォクスデンの『ミツルギCC』は通常の宇宙戦仕様のままであり、量産型よりは多少マシとは言え、地上戦ではさらに不利になる。しかしヴォクスデンは、落ち着いた口調で応じるだけであった。

「心配はご無用」

 そう言ったヴォクスデンの『ミツルギCC』は、ノールックで不意に超電磁ライフルを握る右腕を真横へ突き出し、トリガーを引く。するとその一弾は、雨の中で水柱を上げながら射点を得ようと走る、一機の敵BSIを早くも捉えた。閃光と爆炎が起こって、転倒した敵機がドーン!…とさらに大きな水柱を上げる。

 そこに別の敵機が、三方向から取り囲むように射撃。

 だがそれに対するヴォクスデン機は、僅か三メートルほど左へ機体をスライドしただけだ。三方向から来た銃弾は移動した『ミツルギCC』を、ギリギリのところで通り過ぎる。しかもその間に『ミツルギCC』も銃撃を三方向へ、目にも止まらぬ速さで次々と返した。降りしきる雨の向こうで閃光が三つ。続いてドガガガン…という三つ重なった爆発音が、遅れて響いて来る。

「すげぇな…BSHOじゃねぇのに、三機の敵の動きを同時に読んでる」

 呟きながら息を吞むノヴァルナ。BSHOと量産型BSIユニットにおける、ソフトウェア面での大きな違いはここであった。サイバーリンク深度の深いBSHOであれば、複数の敵の動きをダイレクトで、パイロットの意識の中へ送り込んでくれるが、誰でもが乗れる量産型BSIユニットでは一機ずつの情報が、順次意識に認識させるしかないのだ。

 これは機体性能ではなく、パイロットのサイバーリンク適性によるもので、専属搭乗者向けにカスタマイズされた親衛隊仕様機でも、処理速度こそ速いがパイロットの適性限界の差で、認識できる敵の動きはやはり一機ずつであった。つまり今の三機の敵の動きを同時に把握したのは、機体性能ではなくヴォクスデンの“読み”によるものだという事である。

 とその時、初めてヴォクスデン機は大きく動いた。後方へ全速でホバリング移動する。次の刹那、ヴォクスデン機のいた位置に、数え切れないほどの白い水柱が屹立した。敵BSIユニットの集中射撃だ。ヴォクスデンの『ミツルギCC』はそのまま、フィギュアスケートの選手のように、後ろ向きで華麗にカーブを描いて湿原を右へ左へ滑る。その後を追いかけて来る、敵の銃撃による水柱の連続。だが当たらない。反撃のライフルを構える『ミツルギCC』。
 
 一度動き出したヴォクスデンの機体は止まらない。雨量はさらに増え、ノヴァルナ達は近くに生える、白い幹が印象的な樹木の下に移動し、観戦を続けた。

 敵のBSIユニットはガーヒュのBSHO『ジャゴーGE』を含め、まだ29機もいる。それらがヴォクスデンの『ミツルギCC』を捕捉しようと、個々に高速移動しながら、しきりにライフルを放つのである。ヴォクスデン機もライフルを構えているが、回避の方が忙しく、反撃の機会が無いように見える。

 ガーヒュという異星人パイロットは、粗野ではあるが、考える脳が無いわけではないらしい…と、ノヴァルナは感じた。

 地上戦を選んだのはおそらく、ヴォクスデンの回避方向を限定するためだろう。宇宙戦だと三次元方向の機動が可能だが、地上戦だと上へ跳躍する以外は、前後左右の動きだけに限定する事が出来るからだ。伝説のパイロットを相手にするとなると、動きを限定出来るのは大きい。それをさらに数の力で、効果を高めようというのに違いない。


だがしかしヴォクスデンも無論…そのような事は承知の上のはずだ―――


 そしてその兆候は早くも現れた。湿原の上を複雑な軌跡を描いて高速移動する、ヴォクスデン機の周囲に屹立する水柱の数が、一気に減り始めたのだ。

“なに?…何が起きている?”

 雨に煙る戦場の向こうに目を凝らすノヴァルナ。そしてこの状況の変化は、ヴォクスデンと戦うBSI部隊を指揮している、ガーヒュにとっても想定外で、神経を苛立たせるものだった。

「どうした!? 攻撃が甘いぞォ! もっと追い込め!!」

 コクピットの座席シートを揺らしながら、ギザギザの歯が並ぶ口を大きく開いて怒声を上げるガーヒュ。そこに陸戦仕様『ミツルギ』の複数のパイロットから、通信が入る。

「駄目だ! 味方のBSIが射線上にいる!」

「こっちもだ。このままじゃ撃てねぇ!」

「下手に撃ったら、同士討ちになっちまう!!」

 それはヴォクスデンの恐るべき機動だった。敵のBSI部隊の銃撃から逃げ回っているだけ、と見せかけていたのは陽動であったのだ。ヴォクスデン機を追い込もうとBSIユニットが集まった結果、その動きに誘われ、複数の機体がヴォクスデン機に対する射線上に重なり、後方にいる機体は同士討ちの可能性を恐れて、銃撃できなくなってしまっていたのである。

 しかもそれはヴォクスデンの反撃に絶好の効果をもたらした。超電磁ライフルを放つヴォクスデンの『ミツルギCC』。その一撃は瞬間的に一列に重なっていた、三機の敵BSIの頭部を貫通。まとめて粉々に砕いた。




▶#16につづく
 
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