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第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す
#06
しおりを挟む同じ頃、ゴーショ行政区の外縁部、帯状になったスラム街の『カ・クーシャ』に向かったノヴァルナと、ササーラ、ランの三名は。あろうことか銃撃戦に巻き込まれていた。
ガルワニーシャ重工のキヨウ出張所から、オートタクシーで出発したノヴァルナ達だったが、入力した行き先の『デノアンカー』という地区より、二区画も手前でオートタクシーが停車し、それ以上進まなくなったのだ。
タクシーのコンピューターをチェックした結果、その理由は停車した場所より先に、NNL(ニューロネットライン)が存在していないからであった。辺境の開拓中惑星であるならばどもかく、銀河皇国の中心である皇都惑星で、その社会基盤の一つのNNLが稼働していないなど、信じられない話だが事実である。
仕方なく徒歩で『デノアンカー』に向かう事にしたノヴァルナ達は、必然的にスラム街の『カ・クーシャ』の一部を通り抜ける事になった。そこでノヴァルナ達はそれぞれの区画を牛耳る、有力者同士の抗争に遭遇したというわけだ。
「おう、ササーラ! 敵の数は!?」
火災で崩れた廃屋の壁に背を預けたノヴァルナは、ハンドブラスターを手に、少し離れた位置に身を伏せるササーラに問い掛けた。
「右に六。左に三にございます!」
姿は見えないが、ササーラの声が、前方の倒壊したビルに潜む敵―――敵対する組織との抗争中のマフィア構成員の数を報告して来る。双方のマフィアとも紛れ込んで来たノヴァルナ達を、それぞれ相手の組織の構成員だと勘違いし、問答無用でブラスターを撃って来たのだ。このため先に進むには、ノヴァルナ達も応戦せざるを得ない状況に陥っている。
「ラン集中。左の三人に! ササーラと俺。右の六人! じゃ、あとでな!」
前方の壁の焼けた店舗に潜んでいるはずの、ランにも聞こえるよう大声で指示を出したノヴァルナは、ハンドブラスターを両手で持って、斜めに倒れ掛かったセラミック塀の陰を前屈みに進む。だがそれは発言にあった右ではなく左方向だ。
そして数分後、ランの陽動に引っ掛かった三人のマフィア構成員が、ノヴァルナとササーラに背後から撃たれ、瓦礫の上に横たわっていた。ハンドブラスターのスタンモードで撃たれたため、気を失ってはいるが死んではいない。
マフィア側にも聞こえるような大声で、ノヴァルナが出した今しがたの指示は、『ホロウシュ』の間で使っている、語順を入れ替える“簡易暗号”で、本当の意味は、“俺とササーラとランで左の三人を集中的に狙い、右の六人はあとにする”というものだ。
自分に向かって来るのが一人だけだと思った三人の敵は、ランからの銃撃に気を取られた直後、別ルートで忍び寄ったノヴァルナとササーラに、狙撃されたのだった。そして右側にいる六人は、ノヴァルナとササーラを待ち伏せしたのが、空振りに終わったのを知る。焦った六人は三人の仲間がいた場所―――ノヴァルナ達がいそうな位置に銃撃して来るが、すでにそこにはノヴァルナ達の姿は無い。
六人のマフィア構成員の銃撃を回避したノヴァルナ達は、別の建物の陰に入り込んで、次の手を考える。ただ敵の数は残ったその六人だけではない。銃撃戦を演じる二つの組織に、どれぐらいの人数がいるかも分からない状態だ。事実、こうしている間でも、そこかしこで抗争の銃撃音が聞こえて来ている。
「ったく、面倒臭ぇなあ!」
「こんな所で時間を喰ってる場合では、ありませんからな」
ハンドブラスターを手に敵の位置を確認しながら、ノヴァルナとササーラが言葉を交わす。確かに、自分達は別にマフィア退治に、この『カ・クーシャ』に来たわけではないのだ。ここへ来た目的は―――
とその時、耳に届く銃撃音に変化が起きた。
漫然と銃を撃ち合っていた感のある銃撃音に、規則的な短連射音が幾つも混じり始めたのである。そしてその短連射音は、ノヴァルナ達に近づいて来ているのか、次第に大きくなっていった。
「ノヴァルナ様?」
やや前方にいるランが、振り返ってノヴァルナに声を掛ける。頷いたノヴァルナは、対峙している六人のマフィアをなぜか放置し、銃を上着の下の脇に提げたホルスターに戻した。
「ササーラ、もういい」
そうササーラに命じるノヴァルナの言葉の直後、六人のマフィアがいる辺りで、アサルトブラスターライフルの短連射音が響いた。“ここへ来た目的”が、向こうから迎えに来てくれたのである。
すると不意に、完全武装した都市迷彩服姿の兵士が八名、周囲の物陰からアサルトブラスターライフルを構えながら駆け出して来て、ノヴァルナ達を取り囲んだ。落ち着き払って両手を挙げるノヴァルナ。八名の兵士は即座に銃を降ろし、一斉に片膝をついて、敵意が無い事と非礼を謝罪する態度を取る。
そこへやって来たのは二人の兵を従えた、指揮官と思しき男。こちらもノヴァルナの前へ進み出ると、従えた二人の兵士と共に片膝をついた。データリンクゴーグルとガスマスク付きフェイスガードを外す。ヒト種ではない。ヒト種に近くはあるが、肌の色は淡いベージュ色で、さらに被っていたヘルメットを取ると現れた角刈りの髪は紫色。耳の形も三日月型の異星人だ。恭しく頭を下げて、挨拶の言葉を口にする。
「まずは御身に銃を向けたる、非礼をお許しください。ノヴァルナ殿下」
ノヴァルナは無論、そのような事など気にするふうも無く、「おう!」と短く応じ、いつもの不敵な笑みを浮かべて言葉を続けた。
「気にせず立ってくれ。他の兵もな。出迎えありがとうよ。久しぶりだな、カーズマルス=タ・キーガー」
▶#07につづく
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※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。
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