銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
上 下
329 / 508
第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す

#06

しおりを挟む
 
 同じ頃、ゴーショ行政区の外縁部、帯状になったスラム街の『カ・クーシャ』に向かったノヴァルナと、ササーラ、ランの三名は。あろうことか銃撃戦に巻き込まれていた。

 ガルワニーシャ重工のキヨウ出張所から、オートタクシーで出発したノヴァルナ達だったが、入力した行き先の『デノアンカー』という地区より、二区画も手前でオートタクシーが停車し、それ以上進まなくなったのだ。
 タクシーのコンピューターをチェックした結果、その理由は停車した場所より先に、NNL(ニューロネットライン)が存在していないからであった。辺境の開拓中惑星であるならばどもかく、銀河皇国の中心である皇都惑星で、その社会基盤の一つのNNLが稼働していないなど、信じられない話だが事実である。

 仕方なく徒歩で『デノアンカー』に向かう事にしたノヴァルナ達は、必然的にスラム街の『カ・クーシャ』の一部を通り抜ける事になった。そこでノヴァルナ達はそれぞれの区画を牛耳る、有力者同士の抗争に遭遇したというわけだ。

「おう、ササーラ! 敵の数は!?」

 火災で崩れた廃屋の壁に背を預けたノヴァルナは、ハンドブラスターを手に、少し離れた位置に身を伏せるササーラに問い掛けた。

「右に六。左に三にございます!」

 姿は見えないが、ササーラの声が、前方の倒壊したビルに潜む敵―――敵対する組織との抗争中のマフィア構成員の数を報告して来る。双方のマフィアとも紛れ込んで来たノヴァルナ達を、それぞれ相手の組織の構成員だと勘違いし、問答無用でブラスターを撃って来たのだ。このため先に進むには、ノヴァルナ達も応戦せざるを得ない状況に陥っている。

「ラン集中。左の三人に! ササーラと俺。右の六人! じゃ、あとでな!」

 前方の壁の焼けた店舗に潜んでいるはずの、ランにも聞こえるよう大声で指示を出したノヴァルナは、ハンドブラスターを両手で持って、斜めに倒れ掛かったセラミック塀の陰を前屈みに進む。だがそれは発言にあった右ではなく左方向だ。

 そして数分後、ランの陽動に引っ掛かった三人のマフィア構成員が、ノヴァルナとササーラに背後から撃たれ、瓦礫の上に横たわっていた。ハンドブラスターのスタンモードで撃たれたため、気を失ってはいるが死んではいない。
 マフィア側にも聞こえるような大声で、ノヴァルナが出した今しがたの指示は、『ホロウシュ』の間で使っている、語順を入れ替える“簡易暗号”で、本当の意味は、“俺とササーラとランで左の三人を集中的に狙い、右の六人はあとにする”というものだ。
 自分に向かって来るのが一人だけだと思った三人の敵は、ランからの銃撃に気を取られた直後、別ルートで忍び寄ったノヴァルナとササーラに、狙撃されたのだった。そして右側にいる六人は、ノヴァルナとササーラを待ち伏せしたのが、空振りに終わったのを知る。焦った六人は三人の仲間がいた場所―――ノヴァルナ達がいそうな位置に銃撃して来るが、すでにそこにはノヴァルナ達の姿は無い。
 
 六人のマフィア構成員の銃撃を回避したノヴァルナ達は、別の建物の陰に入り込んで、次の手を考える。ただ敵の数は残ったその六人だけではない。銃撃戦を演じる二つの組織に、どれぐらいの人数がいるかも分からない状態だ。事実、こうしている間でも、そこかしこで抗争の銃撃音が聞こえて来ている。

「ったく、面倒臭ぇなあ!」

「こんな所で時間を喰ってる場合では、ありませんからな」

 ハンドブラスターを手に敵の位置を確認しながら、ノヴァルナとササーラが言葉を交わす。確かに、自分達は別にマフィア退治に、この『カ・クーシャ』に来たわけではないのだ。ここへ来た目的は―――

 とその時、耳に届く銃撃音に変化が起きた。

 漫然と銃を撃ち合っていた感のある銃撃音に、規則的な短連射音が幾つも混じり始めたのである。そしてその短連射音は、ノヴァルナ達に近づいて来ているのか、次第に大きくなっていった。

「ノヴァルナ様?」

 やや前方にいるランが、振り返ってノヴァルナに声を掛ける。頷いたノヴァルナは、対峙している六人のマフィアをなぜか放置し、銃を上着の下の脇に提げたホルスターに戻した。

「ササーラ、もういい」

 そうササーラに命じるノヴァルナの言葉の直後、六人のマフィアがいる辺りで、アサルトブラスターライフルの短連射音が響いた。“ここへ来た目的”が、向こうから迎えに来てくれたのである。
 すると不意に、完全武装した都市迷彩服姿の兵士が八名、周囲の物陰からアサルトブラスターライフルを構えながら駆け出して来て、ノヴァルナ達を取り囲んだ。落ち着き払って両手を挙げるノヴァルナ。八名の兵士は即座に銃を降ろし、一斉に片膝をついて、敵意が無い事と非礼を謝罪する態度を取る。

 そこへやって来たのは二人の兵を従えた、指揮官と思しき男。こちらもノヴァルナの前へ進み出ると、従えた二人の兵士と共に片膝をついた。データリンクゴーグルとガスマスク付きフェイスガードを外す。ヒト種ではない。ヒト種に近くはあるが、肌の色は淡いベージュ色で、さらに被っていたヘルメットを取ると現れた角刈りの髪は紫色。耳の形も三日月型の異星人だ。恭しく頭を下げて、挨拶の言葉を口にする。

「まずは御身おんみに銃を向けたる、非礼をお許しください。ノヴァルナ殿下」

 ノヴァルナは無論、そのような事など気にするふうも無く、「おう!」と短く応じ、いつもの不敵な笑みを浮かべて言葉を続けた。


「気にせず立ってくれ。他の兵もな。出迎えありがとうよ。久しぶりだな、カーズマルス=タ・キーガー」




▶#07につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

処理中です...