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第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す
#02
しおりを挟むノヴァルナと当時のナグヤ=ウォーダ家が、ミョルジ家のキヨウ侵攻に関わった事実―――マーディンがキヨウで得た情報から判断すると、以下の通りである。
それは三年前の皇国暦1555年。ノヴァルナが当時のナグヤ=ウォーダ家と敵対する、同じウォーダ一族の宗家である、イル・ワークラン=ウォーダ家の内情を探るため、中立宙域の惑星サフローを経由し、その勢力圏へ入ろうとした時の事であった。
ヨッズダルガとモルタナ率いる宇宙海賊『クーギス党』との遭遇を通じ、ノヴァルナは、彼等『クーギス党』のかつての領地である、イーセ宙域シズマ恒星群の海洋惑星に住む水棲ラペジラル人が星大名キルバルター家に捕らえられ、イル・ワークラン=ウォーダ家を介して労働奴隷として、オウ・ルミル宙域星大名ロッガ家へ人身売買されている事実を知る。
その売買目的はオウ・ルミル宙域星大名ロッガ家が、買い取った水棲ラペジラル人を、宇宙艦やBSIユニットの重力子ジェネレーターに使用する特殊鉱石、『アクアダイト』の極秘採掘に従事させるためであった。
ロッガ家はキルバルター家とともに星帥皇室の強力な支援勢力の一つであり、極秘裏に採掘した『アクアダイト』で、宇宙艦やBSIユニットを建造し、それらを皇国軍に供与。ミョルジ家に察知される事無く、戦力の増強を進めていたのだ。
だがナグヤ=ウォーダ家と敵対するイル・ワークラン=ウォーダ家の暗躍と、水棲ラペジラル人の人身売買に怒りを覚えたノヴァルナは、この人身売買ルートをぶち壊す事を決意。『クーギス党』と協力してロッガ家の艦隊を撃破し、ルートの分断に成功する。
この一件は表向きには、当時のイル・ワークラン=ウォーダ家の嫡男カダール=ウォーダが、ロッガ家の名を騙って中立宙域を荒らし回っていた、宇宙海賊の船団を討伐した事になっていた。
だがロッガ家が関わっている時点で、ミョルジ家の情報部は詳細に情報を収集・分析し、ロッガ家の建造・整備した戦力が皇国軍に供与されて、対ミョルジ戦用の戦力が増強されようとしている事実を突き止めたのである。
これに驚いたミョルジ家当主ナーグ・ヨッグは、ヤヴァルト宙域侵攻の次期を急遽繰り上げる旨を命じた。そして増強された皇国軍に対抗するため、規律の取れた正規軍並みの装備と練度を持つ最上級部隊から、略奪行為すら行うならず者同然の最下級部隊まで、大量に招かれたのが『アクレイド傭兵団』だったのだ。
水棲ラペジラル人を助けるためノヴァルナ達のとった行動が、巡り巡って、皇都キヨウを占領する部隊の中に、ならず者同然の最下級『アクレイド傭兵団』を加える結果となったのである。
マーディンの説明を聞いたノヴァルナは、苦虫を嚙み潰したような顔になる。
「俺達とモルタナ姐さんのした事が、『アクレイド傭兵団』の奴等を皇都に呼び込んだってのか?…あん時は、そんな先の事まで分かるワケ無かったからな。しょうがねぇだろ」
「無論です」
ノヴァルナの主張にマーディンは即答した。オ・ワーリ宙域の統治を巡って争っている状況で、当時の皇国中央で起きつつあった事まで見通すなど、予知能力でもない限りは無理筋な話だ。ただ伝えておくべき事は伝えなければならない。
「…しかしながらミョルジ家も、それだけの数の『アクレイド傭兵団』を全て雇うほどの財力は、持ち合わせてはおりませんでした。そこで雇用条件として、下級の傭兵達については―――」
マーディンがそこまで言うと、ノヴァルナはその先を察して口を挟んだ。
「キヨウに対する略奪行為を、容認した…ってワケか?」
「そういう事です。このゴーショ行政区や、ミョルジ家側についた貴族の直轄地区には、手出ししないという条件はついていますが」
「なるほど…」
ため息交じりに応じたノヴァルナは、椅子の背もたれに上体を預けて、コーヒーをひと口啜った。
キヨウの表面が焼け焦げた箇所と、異常の無さそうな箇所でモザイク模様のようになっていたのは、そういう理由だったのだ。それに到着した当日、略奪集団の一つを叩いて、捕らえた連中を警察機構に引き渡したが、引き渡された警察機構の担当者が有難迷惑な表情をしていたのは、自分達では処理出来ない案件だったからに違いない。
それを告げると、頷いたマーディンは「おそらく今頃は、釈放されていると思われます」と淡々と返し、ノヴァルナの顔をしかめさせた。
「そんでもって…誰も何も動かないから、星帥皇陛下が直々に、お戦いあそばしていらっしゃる、ってワケか?」
回りくどく敬語を使ったノヴァルナ。無論、それだけが星帥皇テルーザの直接戦う理由ではない事は知っている。しかしそんな中でも疑問に思う事はあった。
「略奪集団がミョルジ家と裏で繋がってんなら、なんでミョルジ家はテルーザ陛下に戦わせてんだ?…ミョルジ家も陛下は必要なんだろ? 確かに陛下はべらぼうに強ぇえが、万が一って事もあるぜ」
ノヴァルナがテルーザとBSHOで対決した際、テルーザと交戦していた略奪集団との通信を傍受したノヴァルナは、略奪集団のリーダーが“テルーザを葬れば星大名の座も含めて報酬は思いのまま”と、言っているのを聞いていた。そうであるならミョルジ家だけに、そんな力があるとも思えない。
しかしこの件については、マーディンも詳しくは分からないらしい。ビジネスマンとして皇都に潜入しているのであるから、そういった話は探るのが難しい部分なのだろう。それにマーディンには別の情報を探らせている。植民星開拓業者の『ラグネリス・ニューワールド社』についてである。ノヴァルナはマーディンの眼を見据えて、報告を求めた。
▶#03につづく
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