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第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す
#00
しおりを挟むソニア・ファフラ=マットグース―――
没落した下級貴族に、荒廃した皇都惑星の社会が浴びせる風は冷淡だった。礼儀作法や貴族の典礼、芸術・芸能ばかりを習得し、接客や金勘定の一つすら身に着けていない下級貴族が、一般社会に職を求めても、溢れた失業者が我先に勤務という取り分が減ったピザを奪い合う中で、それは無理な話というものだ。
職もなく、屋敷を二束三文で売ったソニアが、そんな社会状況で幼い兄弟を養っても、程なく経済的に逼迫するのは自明の理であった………
「え?…貴族さん?…なら要らないよぉ。どうせお高く留まって、平民のお客様を見下すような真似しか、しないんだから」
「帰った、帰った。貧乏貴族なんて雇ってたら、逆に一般人のお客が、寄り付かなくなっちまうぜ!」
「申し訳ございません貴族様。当社のようなしがない小企業に雇われたとなると、かえって貴族様の名が泥を被るだけですので―――」
時には冷たく、時には批判的に、時には丁寧に、職を求める自分をのけ者にする店主や社長達…今日も仕事は見つからない。帰ればお腹をすかせた幼い妹と弟が、自分を待っている。NNLのマイページホログラムを立ち上げたソニアは、画面を預金口座に切り替えて残高を確認した…その額を見ても、落ち込むだけだと分かってはいるのだが…
そんな時、ソニアの背後から、男の野太い声がかけられた。
「貴族のお姉さん。仕事をお探しですか?」
振り向いた先にいたのは、どこのものともつかない軍装をした小太りの男。男は柔和な笑顔でソニアに告げた。
「うちでしたら、貴族の女性向けの良い仕事を、ご用意させて頂けますよ。如何です?…お話だけでもお聞きになりませんか?」
そして数時間後…傭兵達の欲望の捌け口となったソニアは、廃ビルの冷たい床に、全裸で横たわっていた―――
貴族の女の柔肌を堪能した傭兵の男達が、満足げに煙草の煙をくゆらせる姿を背後に、ソシアはぼんやりとした意識の中で、口座ホログラムを開く。自分の体と引き換えに得た金額は大した額ではないが、妹と弟と三人で人並みの生活が一週間は遅れる額だ………
だとしても―――
一筋の涙が頬をつたうソニアに、強引に淫欲を注ぎ込んだ男達が、薄笑いを浮かべて冷たく言い放った。
「この星はすでに、俺達が支配してる。警察に訴えても無駄だぜ」
「それより、生活に困ってるんなら俺達と仲良くした方がいいぜぇ。なんせ貴族の女はそれだけで、田舎の星から出て来た傭兵やミョルジ家の下級兵どもには、たまんねぇってもんだからな。“仕事”はいくらでもあるぜ」
「なに心配すんな。そういう貴族の女は、今の皇都に何人もいるからよ…」
▶#01につづく
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