318 / 508
第15話:風雲児VS星帥皇
#15
しおりを挟むノヴァルナとテルーザが戦っている間に、略奪集団の部隊はノヴァルナの『ホロウシュ』と、戦闘輸送艦『クォルガルード』の攻勢に大損害を出し、ほうほうの体で逃げ去っていた。
「手応え無き盗賊どもを相手にするよりは、ずんと楽しませてもらったぞ。ウォーダのノヴァルナ」
そう言って『ライオウXX』に、『センクウNX』を解放させたテルーザは、若者らしい笑みを浮かべた。その表情には怒りや非難と言った表情はない。良き敵と逢って愉悦を感じるあたり、やはりテルーザという若者は、根本的に武人気質なのだろう。
宇宙に解き放たれたノヴァルナは、機体を『ライオウXX』に向き直らせる。するとその背後に『ホロウシュ』の乗る四機の『シデンSC』が一列に並んだ。
「ご無礼の段、平にご容赦を」
ノヴァルナが謝罪の言葉を述べ、『センクウNX』にお辞儀をさせると、四機の『シデンSC』もそれに倣う。コクピットの中で鷹揚に頷いたテルーザは、落ち着き払って応じた。
「よい。ナクナゴンから聞いた通りの、面白き者よ。気に入った」
その言葉を聞いてテルーザとノヴァルナ以外の、この場にいる全員が安堵した。特にハッチら四人の『ホロウシュ』は、ノヴァルナが成敗された場合、主君の親衛隊として仇を討つため、銀河皇国星帥皇と戦うべきか否かの判断を、この場で迫られたであろうからだ。
対するテルーザは以前、ノヴァルナと親交のある貴族の、ゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナからノヴァルナという若者について、オ・ワーリの若き星大名の奇妙な人柄を聞かされていた。とにかく相手の本質を見極めるためには、命懸けの悪ふざけを仕掛けて来るという―――
「それで相手が怒りに任せて殺そうとしたら、どうするのだ?」
その時のテルーザの、ゲイラへの問いである。
「なんでもその時は、自分の見込み違いだったと、殺されてゆくと…」
「黙って殺されるというのか。どういう事だ?」
「自分が悪ふざけを仕掛ける意味を考えようともせず、その場の怒りに任せてしまう程度の器量でしかない相手であったなら、それはそんな相手を信じた自分の過ちであるから、仕方のなき事だそうで」
「むぅ…では手加減すればよいのだな?」
「いえ、それこそノヴァルナ殿にとっては、失望…」
「ひねくれの極みではないか!…ではどうしろと!?」
途中からゲイラの言葉が、自分がノヴァルナと会う日の事を言っているのだ…と気付いたテルーザは、煩わしそうに尋ねた。ところがゲイラの答えは「御身にままに…」と雲を掴むようなもの。無言で顔をしかめたテルーザにしかし、ゲイラは最後にこう付け加えたのである。
「ただ申し上げられます事は、ノヴァルナ殿は陛下にとって、真のご友人となる事ができる方にございます………」
そんなゲイラの言葉を思い起こしたテルーザは、僅かに口元を緩める。
「ナクナゴンから皇都を訪れるとは聞いていたが、まさかこのような謁見になるとは、思ってもみなかったぞ」
テルーザがそう言うと、ノヴァルナは淡々として口調で告げた。
「この方が、私がどのような者か知らせるに、手っ取り早いと思いまして」
「ほう」
なるほど、ゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナの言った通りの、変わった男だ…とテルーザは思った。だが確かに嫌いではない。
「そうまでして、余に話したい事があるか」
「腹蔵無く」
間髪入れずに応えるノヴァルナに、テルーザは笑顔を浮かべる。すでに命懸けの得物の打ち合いを行った相手であるから、その資格は充分ある。テルーザも間を置かずに「よかろう」と頷いた。
「話は通しておく。三日後、ゴーショ=ウルムの余の所に参れ」
ノヴァルナは「御意」と言葉を返し、さらに些か不遜ではあったが、付け加えて尋ねる。銀河皇国の頂点に立つ者と正式に拝謁するには、何日も待たねばならないのではないか…と思っていたのだ。なにぶんキヨウへ来るまで道草だらけで、いつ到着できるかも分からない状況になったため、先行した外務担当家老のテシウス=ラームも、アポイントメントの取りようが無かったからである。
「三日とは、ずいぶん早いですな」
すると不意にテルーザは皮肉めいた表情になって、乾いた笑いと共に告げた。
「はは…どうせヒマだからな」
こうして無事、テルーザとの繋ぎを取ったノヴァルナだったが、正直なところ、自分自身は不満であった。理由は単純、テルーザに負けた事だ。“トランサー”を発動させてまで戦いながら、ノーマル状態のテルーザと互角に戦ったのが精一杯。テルーザが“トランサー”を発動させると、手も足も出なかったのである。前回の『ヴァンドルデン・フォース』のベグン=ドフにも苦戦し、今回は惨敗。さすがに自尊心も傷つこうというものだ。
そしてさらに面白くないのが、ホテルに帰っても、またノアが居ない事だった。行き先は言うまでも無く、キヨウ皇国大学の研究室である。戦いの前には意識の片隅にしまい込んだ葛藤も、また頭をもたげて来る。とは言え、さしものノヴァルナも、今日は迎えに行く気にもならない…が、そうなるとまた、あのスレイトンとかいう男の存在が気になり始めていた。
“人が命懸けで戦ってるってのに―――”
戦いの汗を流してシャワールームから出て来たノヴァルナだが、それが自分の一方的で理不尽な思いだと分かってはいても、晴れぬもやもやとした気持ちに、バスタオルで濡れた髪を手荒に掻き撫で、それをソファーの背もたれへ、力任せに叩きつけたのだった………
▶#16につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる