316 / 508
第15話:風雲児VS星帥皇
#13
しおりを挟む味方が次々と葬られるこの状況に、業を煮やしたのは敵の首領だった。
「ヤツを二重包囲しろ。機体ナンバー奇数は外側。偶数は内側。外側の機体は援護射撃。内側の機体は格闘戦だ。同士討ちを恐れるな。ヤツを斃せば、冗談抜きで一生遊んで暮らせるぞ!!」
そんな通信を傍受するノヴァルナは、『センクウNX』を宇宙に漂わせながら、思考を巡らせる。銀河皇国を支配するはずの星帥皇を殺害しても、罪を問うどころか星大名の座を与え、一生遊んで暮らせるだけの褒賞を、渡す事が出来る存在について…である。
“普通に考えりゃ、こないだまで星帥皇室と対立していたミョルジ家だが、果たしてそれだけの問題…とは思えねぇな”
ただ当のテルーザは、そのような事に構う気はないのか、すでに何かを知っているのか、この戦いのはじめに「誰に頼まれた?」と問い掛けただけで、この局面でも委細構わず、敵に立ち向かっていく。
二重包囲の外側のグループが超電磁ライフルを射撃し、内側のグループがポジトロンパイクやポジトロンランスを手に、『ライオウXX』へ直接仕掛けた。その数は二十機を超える。
対する『ライオウXX』は恐ろしいほどの回避機動を続けながら、三発、四発と超電磁ライフルを放った。それは後方で援護射撃を行っていた、二機のBSIの胴体を撃ち抜く。そしてその時には『ライオウXX』は機体を大きく翻し、刃を包むポジトロンフィールドをオーバーフローさせたツインランスを、“8に字”に素早く振り抜いた。
するとオーバーフロー状態の陽電子が、青白いビームの刃となって、格闘戦を挑もうとしていた敵機へ向けて飛び出す。それはパイロットが「うわ」と叫び声を上げきるより早く、乗っていた機体を真っ二つに断した。“ビームスラッシャー”と呼ばれるそれは、搭載する対消滅反応炉の余剰出力が、余程大きくないと出来ない芸当だった。
「なんだ、こ―――」
別のパイロットも驚愕の声を口走る前に機体ごと引き裂かれ、さらに隣の機体も胸元から両断されると、『ライオウXX』と格闘戦目的の敵機群の間合いは、もう斬撃可能距離だ。まずポジトロンランスを装備するBSIが、『ライオウXX』へ突き掛かる。だが『ライオウXX』はむしろ、自分から踏み込んでツインランスを右へ、左へ薙ぎ払い、突き出された槍を次々と切断してしまった。
その間にポジトロンパイクを持つ敵機が接近。最初の一機が『ライオウXX』に背後から斬りかかるが、『ライオウXX』はノールックで左腕の超電磁ライフルを向け、トリガーを引く。この一撃は敵機の胸板を貫通し、バックパックも貫いてその背後にいた、もう一機の敵BSIをも撃ち抜いた。
高威力の超電磁ライフルにバックパックまで撃ち抜かれた敵機が、液化反転水素の蒸発放出が間に合わず大爆発を起こす。それに巻き込まれた二機の敵BSIも、頭と腕を吹き飛ばされた。だが『ライオウXX』は全くの無傷で、斬りかかる敵を次々と倒していく。
援護射撃を行っている敵BSI部隊も、首領の言葉通り味方を撃つのも有りで、銃撃を加えるが当たらない。それどころか『ライオウXX』は、ツインランスで突き刺した敵の機体を、敵の射撃に対する盾代わりにして防ぎながら、接近戦を挑んで来る敵機に、超電磁ライフルのゼロ距離射撃を浴びせる。盾にされた敵の『ミツルギ』はすでにハチの巣状態で動かない、いわゆる人形同然というやつだ。
援護射撃は効果が無いと判断した首領は、残る全機で接近戦を仕掛けるように、命令を下す。
「外側グループ。援護射撃はもういい。ライフルを撃ちながら間合いを詰め、全機で接近戦を仕掛けて倒すんだ!」
その直後、『ライオウXX』は盾代わりにしている敵機の腰部背後に、ライフルの銃口を押し当ててトリガーを引いた。高威力ライフルは、すでに味方の銃撃で穴だらけになっていた敵機の腰部を粉々にし、そのまま首領の乗る親衛隊仕様『ミツルギ』の、コクピットがある腹部に大穴を開ける。無論、幾つかの肉片以外、その穴の中に首領の姿は存在しない。
「首領が斃されたぞ!」
「構わねぇ、総攻撃だ!!」
首領が戦死しながらも、略奪集団に諦める様子はなかった。元からそれほど権限のある首領ではなかったのか、或いはパイロットが薬物を使用しているのだろう。
ところが、略奪集団の残存BSIユニットが、『ライオウXX』に総攻撃を仕掛けようと得物を構え直したその時、別方向から猛射撃が開始される。ノヴァルナ配下の四機の『ホロウシュ』である。さらに『クォルガルード』も仮装巡航艦部隊に対して、遠距離射撃を開始し始める。当然ノヴァルナの命令だ。
虚を突かれた形の敵BSI部隊は、これにはさすがに後退した。そこに突撃を仕掛ける『ホロウシュ』達。やがて戦いを妨げられた『ライオウXX』の前へ、『センクウNX』がゆっくりと接近して来る。テルーザはそこで初めて、自分の前に近づいて来た機体のショルダーアーマーに描かれた、『流星揚羽蝶』の家紋に気が付いた。
「その方…オ・ワーリ宙域のウォーダの者か?」
「キオ・スー家のノヴァルナ・ダン=ウォーダ。お初にお目にかかりまする」
テルーザの問いに答えるノヴァルナは、言葉こそ丁寧な武家言葉だが、口調には挑戦的な響きが含まれている。
「ほほう…噂の“オ・ワーリの大うつけ”か。手出し無用と申したはずであるが、なぜ手を出した?」
それに対するノヴァルナは、不敵な笑みと共に告げた。
「されば、陛下のお命。このノヴァルナが頂戴つかまつる………」
▶#14につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる