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第15話:風雲児VS星帥皇
#11
しおりを挟むおかしな距離感が生まれ始めたノヴァルナとノア…ノアの思ったように、出撃の際にノヴァルナにいつもには無い、ノアに対する妙な躊躇いのようなものが、生じていたのは確かであった。
昨夜もノアに“疲れたから寝る”とは言ったものの、瞼を閉じれば昼間、窓越しに見たノアとスレイトンとかいう男が笑顔で向き合っている光景が、何度もフラッシュバックして、なかなか眠りにつく事が出来なかったノヴァルナである。そしてそのノアの笑顔が愛想などではなく、心からのものである事が分かると来れば、なおさらだ。
ただし…そんな鬱屈した気持ちも、今は意識のごく片隅へ身を潜めていた。
スクランブル発進した『クォルガルード』は、白い雲海を抜け、青から黒へと向かうグラデーションの空を駆け上がっていく。
「艦載機発艦準備! 艦載機発艦準備!」
『クォルガルード』の格納庫内にアナウンスの声が響き、ノヴァルナは『センクウNX』のコクピットの中に滑り込んだ。その向こうではヨリューダッカ=ハッチが自分の機体に乗り込もうとしており、反対側ではキュエル=ヒーラー、ジュゼ=ナ・カーガ、キスティス=ハーシェルの女性『ホロウシュ』三人が、こちらも自分の機体へと向かっている。この三人はノア達と先行してキヨウへ来たため、『ヴァンドルデン・フォース』との戦いには参加しておらず、再度『クーギス党』の輸送艦『ラブリードーター』から移動させたため、機体が使用可能だった。
被ったヘルメットの気密を確認したノヴァルナは、ポン…と軽くヘルメットを叩き、艦橋とのインターコム回線を繋ぐ。
「ノヴァルナだ。『センクウ』に火を入れた。敵のデータを転送してくれ」
ノヴァルナの指示に艦長のマグナーが応答する。
「了解。戦術情報システム、リンク」
その言葉が終わるとすぐに、コクピット中央の戦術状況ホログラムが、『クォルガルード』とリンクした最新の情報に更新された。航路管理局から送られて来た、キヨウの月の陰から接近する略奪集団船隊の情報が表示される。数は十六隻。昨日よりかなり数が多い。
「今度のヤツらの、一番確率が高い予想降下位置は、北半球のクラヴァとかいう行政区だが…フェイントかもしれねーな」
戦術状況ホログラムを見詰めて、ノヴァルナは呟いた。略奪集団に地表へ降下されてしまうと面倒なため、宇宙空間で撃破しておきたい。
「ウイザード中隊。全機状況報せ」
ノヴァルナは通信回線を『ホロウシュ』達の機体に切り替えて問い掛けた。
「ウイザード06発進準備完了」とハッチ。
「ウイザード11発進準備完了」とジュゼ。
「ウイザード15発進準備完了」とキュエル。
「ウイザード19発進準備完了」とキスティス。
中隊と言っても今はこれだけしかいないが、それでも僚機がいるのは心強い。報告に頷いたノヴァルナは告げた。
「敵の数は多いが、積んでるのが陸戦仕様のBSIなら、宇宙じゃ出してもほとんど使えねぇ。捕捉次第すぐに出るぞ!」
ところが略奪集団の船隊は、ノヴァルナも思いもしなかった動きを見せた。衛星軌道に入る前―――月軌道を離れたばかりの位置から、キヨウの地表に向けて砲撃を開始したのだ。
「なんだと!?」
マグナー艦長から報告を受け、ノヴァルナは虚を突かれた声を上げた。
「着弾しているのは市街区、商業区、港湾区…武装貨物船の小口径ビーム砲による砲撃のため、いずれも爆発規模は大きくはありませんが、火災が発生しており、地表層の住民に被害が出ていると思われます」
さらに続けられたマグナーの言葉に、ノヴァルナは舌打ちする。
「どういう事だ、遊び半分ってヤツか?…いや、それにしたって…」
訝しげに自問自答するノヴァルナ。宇宙海賊などの略奪集団が植民惑星を襲撃する場合、略奪前の景気づけに植民惑星を砲撃する場合はある。しかしそれであっても今回のように、月軌道辺りから砲撃する事はほとんど無い。景気づけにするには月近くからでは間延して盛り上がりに欠けるだけであるし、何かを狙撃するには、武装貨物船の貧弱な射撃センサーでは遠すぎるだけだ。ただこの砲撃で地表に損害が出ているのは事実である。
「…どっちにしろほっとけねぇ。艦長。警告通信と主砲射撃で、こちらに注意を引き付けろ。それと少し遠いが俺達も出る」
マグナーが「仰せのままに」と通信を終えると、ノヴァルナは『ホロウシュ』達と発着艦管制室に連絡した。
「ウイザード中隊、出るぞ。管制室、整備兵を下がらせ次第、格納扉を開け!」
ノヴァルナがその言葉を言い終えるや否や、『クォルガルード』は略奪集団に対して主砲を放つ。それと同時に警告通信。
「前方の略奪集団に告ぐ。こちらはキオ・スー=ウォーダ家巡航艦『クォルガルード』である。ただちに停船し、武装を解除せよ。繰り返す。前方の―――」
マグナーが言わせたのであろう、ハッタリの“巡航艦”という言葉に、ノヴァルナはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。そこへ段取り良く発着艦管制室から連絡。
「整備兵退去完了。ウイザード中隊、発艦位置へ」
「了解した。みんな、行くぞ」
「御意!」と応じる声は、今回は女性『ホロウシュ』の方が数多いため、いつもより華やいだ印象だ。格納庫内の気圧がゼロになると両舷の外殻扉が開いて、漆黒の宇宙空間が視界に広がる。
「ウイザード01、出撃!」
発艦位置についた『センクウNX』は、バックパックに黄色い重力子の光のリングを輝かせ、宇宙へと飛び出した。それに続く『ホロウシュ』の四機の親衛隊仕様『シデンSC』。
とその時、後方―――惑星キヨウから急速接近する、小型船の反応センサーが捉えたと『クォルガルード』から連絡が入った。眉をひそめるノヴァルナ。
「キヨウから小型船? なんだ?」
反応のあった小型船はみるみるうちに、『センクウNX』や『ホロウシュ』達に接近して来る。しかも尋常ではない速度だ。
「全機、警戒しろ」
『センクウNX』に超電磁ライフルを構えて後ろを振り向かせた、ノヴァルナの言葉に応じて『ホロウシュ』達の『シデンSC』も、同様の体勢を取る。ところが次の瞬間、マグナー艦長の「お待ちください、ノヴァルナ様」という言葉と共に、『クォルガルード』からのリンクデータが更新されると、戦術状況ホログラムを眼にしたノヴァルナも思わず呆気に取られて呟いた。
「なに?『聖銀河御紋』…星帥皇室だぁ?」
戦術状況ホログラムの小型船の表示に重なるは、銀河皇国星帥皇室のものである事を示す御紋。流線形をした小型船は、高速クルーザーを改造したものであるらしく、猛烈な速度でノヴァルナ達の機体から少し離れた位置を、通過して行く。その先にいるのは略奪集団の船隊だった。
この状況にノヴァルナは、「ふふん…」と鼻から軽く笑い声を漏らす。そして略奪集団の船隊へ直進してゆくクルーザーを見詰め、内心で呟いた。
“こいつは思ったより早く、お目通りが叶いそうだぜ…”
▶#12につづく
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