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第15話:風雲児VS星帥皇

#08

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 結局のところ、ノヴァルナ達による略奪集団の制圧は短時間で完了し、避難途中の住民に多少の負傷者は出たものの死者は皆無だった。自分の船隊に見捨てられ、地上に取り残された首領の男は、機体の腰から下を『センクウNX』に破壊されて投降。他に捕らえた略奪者達と共に、所轄の警察機構に引き渡された。これにて一件落着…といったところである。

 しかし、『クォルガルード』へ帰還したノヴァルナの顔には、どこか気に入らなそうな陰影があった。その表情のままパイロットスーツを脱いで執務室へ入り、行儀悪く両脚を投げ出してソファーに寝転がると、考える眼で天井を見る。

 そして主君のこういった様子に、察しがいいのがキノッサだ。 

 補佐官(雑用係)のキノッサは、同じ職のネイミアと共にノヴァルナを格納庫に出迎え、そのまま執務室まで同行すると、ソファーに寝っ転がったノヴァルナに、あえて軽い口調で問い掛けたのだ。

「どうかしたんスか? 御大将おんたいしょう

 キノッサの問いにノヴァルナは、仰向けに寝転がったまま不満そうに言う。

「どーも、面白くねぇ…」

 それに対しキノッサと連携するように、ネイミアが尋ねる。

「どうしてですか? 盗賊退治、上手くいったじゃないですか?」

「まーな…」

 煮え切らないノヴァルナの返事である。するとランと二人で同じくノヴァルナに同行し、執務室へ戻って来ていたササーラが口を開いた。

「もしかして、やはり助けた住民達の反応が、お気に召しませんでしたか?」

 ササーラが口にしたのは、略奪集団からノヴァルナ達が救った、ファシーミ行政区の住民達の態度についてである。命を救われたはずの彼等だが、ノヴァルナ達をひどく恐れ、保護する前に大半が逃げ去ってしまったのだ。逃げ遅れた女性をランが問い質したところ、どうやらノヴァルナ達を別の略奪集団だと勘違いし、一連の戦闘を、略奪集団同士の抗争が起きたものと思ったらしい。

 事実、そういった略奪集団同士の抗争も、今のキヨウでは結構あるようで、仕方ないといえば仕方ない話であろう。しかしノヴァルナの不満はそれとは違うのか、「んなんじゃねーよ…」と否定する。

 内心、ノヴァルナが不満だったのは、捕らえた略奪集団を引き渡した際の、警察機構の担当官の有難迷惑そうな反応と、どこかに余裕を感じさせる、首領の男の態度だったのだ。二人の様子を対比すると、どうにも裏に何かある気がして、それがノヴァルナの意識をもやもやとさせていたのである。

 そしてここでまた余計なひと言を、言ってしまうのもキノッサだ。

「やれやれ、やっぱ御大将って、ノア様がいないと面倒臭さマシマシっすね」

 それを聞いたノヴァルナはピクリと眉を吊り上げ、勢いよく上半身を跳ね起こして言い放った。

「うっせー。サル!」
 
 キヨウに来て早々に、また思わぬ寄り道をしたノヴァルナ一行であったが、ファシーミ行政区を離陸してしまえば、南半球から北半球のゴーショ行政区までの移動であり、ものの十五分もかからない。

 ところがその南半球から北半球までの移動中に、ノヴァルナの表情はさらに曇っていった。キヨウは僅かに残る海洋部を除き、ほぼ全土が都市化されているのであるが、『クォルガルード』の飛行コースから見下ろせる範囲だけでも、かなりの地区が焼け焦げていたからだ。
 それらは百年前の『オーニン・ノーラ戦役』によるものであったり、三年前に起きたミョルジ家の侵攻によるものであったり…そして、それ以来キヨウを荒らすようになった、略奪集団が火を放った跡であった。さらにその幾つかは、ごく最近のものなのか、まだ数条の黒煙が立ち上っている。

 ノヴァルナはそれらを見て、不愉快な気分になった。宙域とそこに存在する植民惑星を統治する者…星を統べる者として、だ。

 星大名とそれに従う兵が互いに奪い合い、殺し合うのは、自分も含めて勝手すればよい事であった。しかし一般市民がそれに巻き込まれ、被った損害に対し、何の手当も行わないのは、統治者としての責務を放棄している事に他ならない。ノヴァルナはそれが許せなかったのである。展望室で地上の様子を眺めるノヴァルナは、小さく舌打ちして胸の内で呟いた。

“あー、なんかイライラする!”

 この旅に出て、最初の寄港地である惑星ルシナスで、何処かの特殊部隊の襲撃を受けたのはともかく、惑星ガヌーバの温泉郷での『アクレイド傭兵団』の暗躍や、先日の『ヴァンドルデン・フォース』との戦いの後味の悪さ。そして目的地に着いた途端の略奪集団との遭遇と、放置されたままの戦痕広がる皇都惑星の光景が、元来感受性の高いノヴァルナに苛立ちを与えていた。

 そして到着したゴーショ行政区。ここには他の地区で見たような、黒く焼けた戦いの痕跡が、全くと言っていいほど存在していない。やはり星帥皇室の中央行政府である、『ゴーショ・ウルム』が置かれているため…という事なのだろう。

「ノヴァルナ様。間もなくゴーショの宇宙港に到着します。ご準備ください」

 マグナー艦長から連絡があり、ノヴァルナは不快感を意識の奥にしまい込んで、「へー、へー」と間の抜けた声で応答すると、展望室をあとにする。ノヴァルナにすれば、まぁともかく、これでノアと合流する事が出来るわけであって、顔を見れば気も晴れるはずだという想いであった。
 
 ところがその日の正午過ぎ、『クォルガルード』がゴーショ宇宙港に到着してみると、ノヴァルナを出迎えたのは二人の妹マリーナとフェアンに、外務担当家老のテシウス=ラーム。そして三人の女性『ホロウシュ』と、彼女達をキヨウまで送り届けた『クーギス党』の首領ヨッズダルガであり、ノヴァルナが一番顔を見たかったノアの姿が無い。

「にいさまー!」と笑顔のフェアン。

 離着陸床に着陸した『クォルガルード』を降りて来たノヴァルナは、フェアンが嬉しそうに抱き着いて来るに任せて、少し遅れて歩み寄って来たマリーナに、いきなり問い掛けた。

「おう、マリーナ。ノアの奴は?」

 その物言いにマリーナは嫌そうに眉を寄せる。あまり感情を露わにする事はないマリーナだが、それでもその表情には、ノアに対する嫉妬心が見え隠れしていた。少々の意地悪も交えてわざと丁寧に、先に『ヴァンドルデン・フォース』との戦いの労をねぎらう。

「その前にまずは兄上、ご無事の合流にこのわたくし、安心致しました。お疲れ様にございます」

「お…おう。さんきゅ、な」

 マリーナの口調にノヴァルナは、自分の落ち度に気付いて態度を改めた。それならば…とノアの居場所を告げるマリーナ。

「ノア義姉様ねえさまは、皇国大学の研究室に行っておられます」

「研究室ぅ?」

 ノヴァルナが絡みつくような口調で不満げに言うと、抱き着いて来ていたフェアンが軽い調子で応じた。

「そうだよー。このところずっと毎日、行ってるの」

「ふぅん…」

 不納得顔で声を漏らすノヴァルナ。しかしこの態度は筋違いではある。もともと今回の旅では、ノアは母校のキヨウ皇国大学で、『超空間ネゲントロピーコイル』についての情報収集を、集中的に行うのが目的であり、それはノヴァルナも認めていた事なのだ。その事をマリーナが注意する。

「兄上。申し上げておきますが、研究室の使用は、予約制となっておりますので、いつ到着されるか分からない兄上に、都合を合わせる訳にはまいりません。その事はご承知おきください」

「わ、分かってるって…」

 いつもながらの、人の思考に先回りするようなマリーナの指摘に、ノヴァルナは顔をしかめた。そして視線を逸らして小さく、「ちぇっ…」と不貞腐れた声を漏らす。そんな兄の心を知ってか、腕を組んだフェアンは明るい声で告げた。

「ノア義姉様、夕方には帰って来ると思うから。兄様、一緒にお昼ご飯食べよ。いい店見つけたんだぁ」

 無邪気なフェアンに幾分気を取り直したノヴァルナは、「仰せのままに、姫様」と応じる。そして何かを思いついた眼になると、一緒に艦を降りていたマグナー艦長を振り向き、指示を出した。

「艦長。俺のバイク、降ろしといてくれ」




▶#09につづく
 
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