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第13話:烈風、疾風、風雲児

#17

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 アイオニアス星系へ戻った第24恒星間防衛艦隊は、苦闘の末にミョルジ家艦隊を撤退させた。だがラフ・ザスはアイオルバムからの通信に何ら応答する事なく、引き続いて各都市を衛星軌道上から艦砲射撃。惑星全土を火の海に変えて、そのまま立ち去ったのであった。

 その後、現在のリガント星系を根拠地に定めた、第24恒星間防衛艦隊残存部隊は、『ヴァンドルデン・フォース』を通称とし、戦力を再編。周辺の植民星系を武力と恐怖で支配し始めたのである………



 元第24恒星間防衛艦隊の士官であったベアルダ星人の男は、ラフ・ザスについての過去を語り終えると、重苦しい空気の中で付け加えた。

「わしも…妻と息子を、留守中に殺された…だがわしは、閣下のように考えられなくてな。いやわしだけでなく、かなりの将兵が、アイオルバムへの艦砲射撃を命じられた時、閣下のもとから離れていった…」

 半ば独り言となったベアルダ星人の男の言葉を、ノヴァルナは無言で聞いた。

「かつての閣下は、僅かな不正も見逃さない高潔な方だったよ。よく訓練された我が第24恒防は、皆の誇りだった…それゆえ、許せないものがあったんだ」

 語るうちにベアルダ星人の男はいつしか、ラフ・ザスを再び“閣下”と呼ぶようになっていた。まだ幾ばくかの忠誠心が残っているのか、もしくは軍人としての感覚が蘇ったのか、最後はノヴァルナに訴えるように告げた。

「もしあなたが本気なら、どうか閣下を止めてください。閣下と残った将兵は皆、自分達のやっている事は承知の上なのです。全てを承知の上で、現状に失望し、抵抗する気を失わさせるほどの、絶対的な武力と恐怖による支配こそが、社会に秩序を生む事を示そうとしているのです………」



 回想から現実に戻ったノヴァルナは、あのベアルダ星人の男は、ラフ・ザスの司令部で近くにいた人間…おそらく、参謀の一人だったのだろうと思った。

 そして話を聞いたノヴァルナは、そこからラフ・ザスの冷酷さは、軍略家として計算したものであり、狂気との狭間にあってもいまだ武人の心を残しているなら、正面対決を望めばそれに応じるはずだと考えたのである。それはノヴァルナが、惑星イスラハに略奪と破壊の限りを尽くした、このラフ・ザスと似た武将を知っているからだ。

 その男の名はセッサーラ=タンゲン。イマーガラ家の前宰相にして、ノヴァルナの宿敵だったドラルギル星人だ。タンゲンは五年前、初陣のノヴァルナに戦いに対するトラウマを植え付けるためだけに、植民惑星キイラの住民五十万人をすべて焼き殺したのである。つまりラフ・ザスという男はタンゲンと同じく、人の命を単なる数字として見る事が出来る精神を持っているに違いない。

 だがこれは精神に異常をきたしているのではなく、戦略上必要と考えた結論によるものだ。そうであるなら正面対決を望むこちらに対し、他の植民星系を襲い、無用な血を流すような真似はしないだろうと、ノヴァルナは読んでいたのである。
 
「話が付いた以上、一度そっちへ戻ろうと思うんだけど…大丈夫かい?」

 通信ホログラム内のモルタナが尋ねて来る。モルタナは輸送艦『プリティ・ドーター』に乗り、ユジェンダルバ星系最外縁部にいたが、いずれにせよ『ヴァンドルデン・フォース』の侵攻に備え、ノヴァルナと合流する必要がある。

「おう。だが一応、警戒プローブは放出しておいてくれよ」

 ノヴァルナの言葉に、モルタナは小さく頷いて応じた。

「わかってるよ。それを済ませたらすぐ戻る」

 ノヴァルナは「頼んだぜ」と告げて通信を終え、席を立つ。そこへ待ちぼうけていたネイミアが、「あのー…」と声を掛けて来た。

“あーそっか、コイツがいたんだっけ…”

 モルタナからの通信と、敵の事に意識を集中させていたノヴァルナは、ネイミアの事をすっかり忘れていたのだ。右手でボリボリ…と頭を掻いたノヴァルナは、彼女に振り向いて「ま、いっか…」と呟くと、家臣となる事を認めた。

「オーケー。とりあえずキノッサと一緒に、俺の補佐官…平たく言やぁ、パシリの雑用係をやってろ。嫌なら来るな」

 それに対するネイミアの反応は明白だった。

「ありがとうございます! 頑張ります!!」

 めげずに元気一杯に応えるネイミアに、ノヴァルナは“やれやれ…”とばかりに再び、片手で頭を掻いた。そして『ホロウシュ』のモ・リーラに通信回線を繋ぎ、指示を出す。

「シャトルを用意しろ。ザーランダ兵の訓練状況を視察する」

 惑星ザーランダ出身の兵士は七百人弱。ノヴァルナは結論として彼等を、『ヴァンドルデン・フォース』から奪った三隻の軽巡航艦へ配置した。少ない人員で全部の艦を半自動化にして運用させるより、三隻の軽巡航艦を完全に戦力化した方が良い…という判断からだった。そして彼等は現在すでに、『クォルガルード』艦長のマグナー大佐のもとで訓練を開始している。

「ラン。コイツをキノッサのところに連れて行ってやれ。手続きその他諸々もろもろも、よろしく頼まぁ」

 ノヴァルナはランを振り向いて、ネイミアを指さし、そう命じた。そしてランが「かしこまりました」と応じた時には、もう執務室を出て行こうとしている。敵が話に乗ってきた以上、やらなければならない事は山ほどあった。執務室の扉が自動で開くと、歩きながらNNLの通信ホログラムを立ち上げて、『ホロウシュ』のヨリューダッカ=ハッチを呼び出す。閉じた扉の向こうでは、遠ざかって行くノヴァルナの声が響いていた。

「おう、ハッチか。今どこだ?……そか、俺ァ今から訓練の視察に、マグナーんとこ行ってくっから、おまえ、評議員の連中集めといてくれや……場所?…そだなー…おめーに任せっから、決まったらまた………」




▶#18につづく
 
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