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第13話:烈風、疾風、風雲児
#12
しおりを挟むキノッサが口にした通り、ノヴァルナはかつて壊滅寸前に陥っていた、『クーギス党』の窮地を救った恩人…彼等からすれば英雄である。そうであるなら、その英雄が母船を訪れて、歓迎されないわけがない。ましてや『クーギス党』は、家族的繋がりの強い集団であり、ノヴァルナに対する接し方は、懐かしい親戚が帰って来たようなものだった。
そのような中を歩き進んだノヴァルナは、通りの突き当りとなる隔壁のエレベーターを使って、隔壁の中ほどの高さに張り出した作業台へ上がった。全員に訓示するためである。まず最初に口を開いたのは、『クーギス党』の副頭領モルタナだ。
「みんな聞きな! キオ・スー=ウォーダの殿様から、話があるよ!!」
胸を反らして凛とした声で宣するモルタナ。立場は副頭領だが、実質的な宇宙海賊『クーギス党』の指導者である彼女の声の勢いは、その地位に相応しく、居住区の通りに集まった『クーギス党』の兵士はもちろん、初対面のザーランダの兵士達の背筋を、伸ばさせるのに充分だった。
そしてノヴァルナが進み出る。普段、腕まくりや胸のボタンを外して着崩している、ウォーダ家の紫紺の軍装だが、今はきちんと整えられていた。
「オ・ワーリ宙域星大名キオ・スー=ウォーダ家当主。ノヴァルナ・ダン=ウォーダである!―――」
ノヴァルナのその声を聞いて、特にササーラ達直臣一同は、表情に緊張の度合いを高める。こういったパターンの場合のノヴァルナは、いきなり突拍子もない事を言い始めて聞き手を混乱させ、その間に言いたい事を言って終えるのが普通だったからだ。それが今回は違う。話す言葉も武家言葉だった。
「―――我はこの度、惑星ザーランダ臨時行政府からの要請を受け、中立宙域で悪逆非道の行為を繰り返す、『ヴァンドルデン・フォース』討伐の指揮を執る事と相成った。我が将兵はザーランダの、そして『ヴァンドルデン・フォース』の悪政に置かれた惑星の民の苦しみを、自らの苦しみとして事に当たれ!」
それを聞いてマグナー大佐以下『クォルガルード』の乗組員と、『ホロウシュ』達が無言で頷く。
「また、自らの命の危険を顧みず、我の応援要請を快諾してくれた、シズマ恒星群独立管領クーギス家には、心より感謝の言葉を述べる。ザーランダの民をはじめ同じ中立宙域で生きる者として、『ヴァンドルデン・フォース』の悪行を許さぬその心意気、まこと賞賛されるべきものである!」
ノヴァルナのその言葉に、『クーギス党』の人々からは「おおお…」と、控え目だが力強さを感じさせる声が、さざ波のように広がった。そこからノヴァルナは、ひと固まりでいるザーランダの兵士達へ向き直る。
「さて…ザーランダの兵士諸君―――」
ノヴァルナにしては、また珍しい呼びかけ方をして一拍置き、兵士一人ひとりの眼を見るようにしながら続ける。
「己が意志で故国を守らんとするその士魂、このノヴァルナ、感服の極みである。そして諸君こそが、此度の戦いの主役とならなばならぬ事は、充分承知しているはず。なぜなら、ザーランダとユジェンダルバ星系を守った英雄は、オ・ワーリから来た我ではなく、ザーランダの民である、諸君らがならねばならないからだ!」
口では力強くそう言いながら、ノヴァルナは胸の内で“…ったく”と、愚痴をこぼした。こういう煽り方は、自分の本意ではないからである。ただ、このタイミングで司令官として何も言わないわけにもいかず、さりとてノヴァルナという人間を知らないザーランダの兵士達に、いきなりいつものマイペースぶりを見せても、不安にさせて、逆に戦意を喪失させるだけだろうという思いから、このように“ありきたり”な訓示となっていたのだ。
「諸君。死を恐れるな…とは言わない。いや、むしろ我は命じる。“生きろ”と。だがそれは退く事であってはならない。戦場では背中を見せた者は、生き残れないからだ。だから命じる、前へ進めと! 前に進んで自分の手で生を掴め。自分達の守らねばならぬもの、守るべきもののために、生き、そして勝利するのだ!!!!」
訓示を終えたノヴァルナが、右手に拳を作って軽く掲げると、ザーランダの兵士達は、『クーギス党』の人々以上に「おお!」と強い口調で声を上げ、双眸を輝かせた。ノヴァルナ自身の気持ちはともかく、ザーランダの兵士達が士気を高めたのは間違いない。
ノヴァルナが去ってもしばらくの間、居住区では士気の高まった兵達から、何度か声が上がっていた。それを聞きながら歩くノヴァルナはササーラに、ザーランダの兵の中で、最上位の階級の者を会議室に集めるように命じる。訓示を終えても、忙しくなるのはこれからだった。
『クォルガルード』と『クーギス党』の戦闘力は把握しているものの、士気は上がっても実際はどこまで使えるか分からない、ザーランダの戦力を加え、早急に作戦を練らなければならないのだ。事実、ラフ・ザスの宣告メッセージを観て以来、いや、『ヴァンドルデン・フォース』の未使用艦を奪って以来、ノヴァルナはひと休みもせず、動き回り、考え続けていたのだ。そこにランが問いかける。
「ザーランダの士官が集まるまで、いかがされますか?」
シミュレーターで作戦の原案を試す。休んでるヒマはねーからな…そう応じようと思ったノヴァルナだが、不意に別れ際のノアの“ちゃんとご飯、食べるのよ”という言葉を思い出して考え直す。
「んー…メシを喰う」
それを聞いたランは、一瞬意外そうな目をしたあと、小さく微笑んだ。
▶#13につづく
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