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第12話:風雲児あばれ旅

#17

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 広大な小麦畑を飛び越えた『クォルガルード』は、六角形の外壁に囲まれた市街地の中心にある宇宙港へ降下した。アルボートというこの街が、惑星ザーランダ最大の都市である。
 ただ最大の都市と言っても、人口は3万人を少し超えたぐらいしかない。これは第一次産業植民惑星ではよくある事で、行政と流通の中心機能だけが求められ、工業製品などは他惑星からの輸入に頼っているのだ。

 そういった事もあってアルボートには、高層建築物が全くと言っていいほど存在せず、せいぜい五階建ての建物が所々に建てられている程度だ。
 ノヴァルナ達が降り立った宇宙港の周囲にも、細長い箱のような、無骨な倉庫ばかりが立ち並んでいた。全て輸出用の産出品を一時保管しておくためのものだ。

 しかしながらそれ以上にノヴァルナ達が気になったのは、宇宙港の人気ひとけの無さである。ネイミアの言う事によれば、出力の高い通信機器はおろか、皇国人民の生活基盤の一つであるNNL(ニューロネットライン)までが、皇国軍残党に押収されて、使用出来なくなっているという。
 そのためネイミアの父親に、自分達が味方となった事を伝えるすべがなく、いきなり押し掛ける事になるのだが、それにしても宇宙港内に人影が全くと言っていいほど見られないのだ。

「おうキノッサ。どういう事でぇ!? 人っ子一人、いねーじゃねーか!」

 誰もいない宇宙港のロビーにこだまする、ノヴァルナの声。キノッサはまるで通訳のようにネイミアに尋ね、その回答を伝える。

「ネイミアの話では、たぶん見慣れない宇宙船が降下して来たんで、みんな逃げ出したんだろう…と」

 それを聞いてノヴァルナは、ため息交じりに「なるほど」と言い捨てた。期待はしていなかったが、出迎えが一人もいないのは、派手好きな自分にはなんともやるせない状況だ。

「ネイミアが、家まで案内してくれるそうッス」

 不満そうなノヴァルナの気配を読み取って、キノッサがすかさずフォローを入れる。それを聞いて「おう。頼むぜ」と機嫌を直したノヴァルナは、『クォルガルード』のマグナー艦長に連絡を入れる。

「艦長。俺達のバイクと車を用意してくれ。ネイミアの家まで行って来る」

 このような状況はある程度予想していたのか、マグナー艦長の指示が出て比較的早くに、『クォルガルード』の底部格納庫扉が開き、二台のバイクと一台の反重力車が降ろされた。バイクに乗るのはノヴァルナと護衛のラン。車はササーラが運転しキノッサとネイミア、そして彼女の連れの男二人が乗り込んだ。

 出発間際にノヴァルナはマグナー艦長に指示しておく。

「万が一、敵の見回りみたいなもんが来るかも知れねぇ。この星系にゃ早期警戒システムなんてねーから、艦の発進態勢は維持しておいてくれ」

 それに対するマグナー大佐の応答は、旧サイドゥ家で実戦経験を重ねただけあって、短くも頼もしいものだった。

「心得ております」
 
 ネイミアの両親が暮らす家は街を抜け、見渡すばかりの農地を二時間ほど走り続けた、なだらかな丘の上にあった。強化加工された木造の家は、高さは二階建てだが、広さはちょっとした御殿ほどもある。ただそれでも、この惑星有数の大農場を経営している有力者の家としては質素に見えた。

 通信手段が皇国軍の残党に寸断されているため、突然の帰宅に驚いたネイミアの両親だったが、それ以上に驚いたのは娘が助っ人に連れて来たのが、星大名の現役当主だという事だった。

「ほ…本当に、オ・ワーリのノヴァルナ様ですか?」

 屋敷のエントランスでノヴァルナ達を出迎えた、白髪に白い髭を蓄える、人の好さそうな中年男性。ネイミアの父親ハルートが目を見開いて尋ねる。ハルートの隣には妻のスラマが立ち、こちらも大きな眼を見開いていた。

「さよう」

 こういった時のノヴァルナは武人、平民を問わずちゃんと行儀がいい。小さくお辞儀をして、丁寧な言葉を続ける。

「ネイミア殿の請願を受け、及ばずながら、力をお貸ししようと参った」

 そこでネイミアの両親は自分達の方が、驚きのあまり礼を失していた事に気付いて、慌ててノヴァルナの前にひざまずいた。その行動にネイミアもノヴァルナのもとを離れ、両親と並んでひざまずく。

「我々のような者に、なんと勿体ない。イチかバチかで娘を送り出したのですが、よもやお聞き届け下さる方が…しかも、ご領民でもない我々のために、星大名様御自らお越し頂けるとは…」

 そこまで言うとハルートは言葉を詰まらせ、嗚咽を始めた。それに対するノヴァルナは、星大名の威厳を帯びさせつつも、穏やかな口調で告げる。

「領民であろうとなかろうと、同じ皇国のたみに変わりはなし。その民が難渋しているのを、見過ごすわけにはいかぬ。安心するがよかろう」

「あ、ありがとうございます!」

 感涙にむせびながら礼を言うハルート。ノヴァルナからすればある程度、リップサービスを含んだ言葉ではあったが、一般市民を苦しめる連中を許せない気持ちは本心だった。事実、ノヴァルナは自分が支配するキオ・スー=ウォーダ家の領民に対して、乱暴者のイメージとは真逆の善政を敷いており、この二年で領民達の評価は上がって来ているのだ。無論、ノヴァルナ自身が悪党相手に、暴れ回りたいというのも本心ではあったが。

「そういうわけで…早速だが、連中に関しての詳しい話を聞きたい」

 今は何より重要なのが敵の情報である。一息つく間もなく、ノヴァルナは行動を開始した。




▶#18につづく
 
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