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第12話:風雲児あばれ旅
#08
しおりを挟む思いもしなかった星大名家当主…しかも名乗りを上げた風雲児ではなく、問題児として名を知られたノヴァルナの出現に、『アクレイド傭兵団』内は動揺を隠せなかった。
その口が言った通り、旅館主達を強硬策で奪い返されたレバントン達が、裏をかくつもりで襲撃を早めて来るに違いない、とノヴァルナは読んでいたのだ。そのため自分とノアは『クォルガルード』で、テシウス=ラームと打ち合わせを行うと同時に、『センクウNX』と『サイウンCN』で出撃出来るようにしていた。
そして温泉郷には『ホロウシュ』と保安科員を配置。襲撃があった場合は即座に、他の旅館の従業員や宿泊客も合わせて天光閣へ避難させ、急行した『クォルガルード』のアクティブシールドで、天光閣をカバーする手筈を取っていたのである。
「おい、レバントン。どういう事だ!?」
まるでお前のせいだと言わんばかりのウォドルの声に、レバントンはこめかみにながれる汗を感じながら、全周波数帯通信でのノヴァルナに呼びかける。
「ノッ!…ノヴァルナ殿下!」
それを聞いたノヴァルナは、『センクウNX』のコクピットで、不敵な笑みを浮かべながら応答した。
「おう、レバなんとかってオッサンか? 恐れ入ったなら、尻尾を巻いてとっとと帰りやがれ!」
お得意の挑発的なノヴァルナの物言いに、ギリリ…と歯を噛み鳴らすレバントンだったが、それでも下手に出て、この場を収めようとする。
「そうも参りません。私どもは星帥皇室様より正式な認可を頂いて、この土地を買い上げる事を許されたのです。いわば私どもは星帥皇室の代理人。いかにノヴァルナ殿下とて、その星帥皇室の代理人に弓を引くような真似は、お控えになられた方が宜しかろうと、存じますが?」
「へぇえ?…星帥皇室の認可ねぇ」
笑いを噛み殺した表情でノヴァルナが言うと、レバントンは例の立退き交渉代理人の認可証をホログラム展開し、指で押さえて通信ホログラムへドラッグする。転送された認可証ホログラムは、『センクウNX』のコクピット内の、通信ホログラムと並んで表示される。
「これ、この通り、本物にございます」
自慢げに言うレバントン。ただこれは天光閣の『オ・カーミ』に、とうに見せてもらっている。ノヴァルナはこんなもん!…とばかりに、心底愉快な様子で高笑いした。
「アッハハハハハハハ!!!!」
「な、何をお笑いになる!?」
その笑い声に嘲りの成分を感じ取って、憤慨するレバントン。ノヴァルナは口元を歪めながら言い放った。
「そいつが本物であっても、欠陥品だって事ァ、調べがついてんだよ!」
「!!」
ギクリと身じろぐレバントン。一方天光閣の中で傍らのササーラから、通信ホログラムを聞いている『オ・カーミ』のエテルナと、避難して来た他の旅館主達も目を見開く。ノヴァルナは、『センクウNX』の右の手のひらを返し、そこにレバントンが転送した認可証を、大型ホログラムで映し出した。
「天光閣の『オ・カーミ』からコイツを見せられた時は、分からなかったんだが…俺の家臣に星帥皇室に詳しい奴がいてなぁ―――」
ノヴァルナが言ったのは、この旅に同行しているテシウス=ラームの事である。認可証が星帥皇テルーザの押印がなされた本物だという点は、最初にこれを見たノアの判断した通りだが、念のためにラームに見せたところ、星帥皇室を含む外務を担当する家老だけあって、この認可証が銀河皇国星帥皇室公式なものであるための要件を、満たしていない事に気付いたのだ。
「こういうお役所の書類っていやぁ、いつの時代も分かりにくくって駄目だな。ウチの領地も気を付けねーとな」
そう無駄口の前置きをしておいて、コクピット内の認可証のホログラムに正対するノヴァルナは、「ここだ」と告げ、その右隅の小さな空欄に指で円を描く。するとそれは、『センクウNX』の手の平に浮かぶホログラムの同じ位置に、赤い丸印となって出現した。
「この小せぇ枠に印がねぇだろ。ここは、星帥皇室監察院の上奏審査通過章が表示される場所だ。それがねぇって事ぁ、監察院を通さずに、不正に星帥皇陛下が押印する書類の中に、紛れ込まされたってワケだ!」
「む…く!」
ノヴァルナの指摘に、レバントンは明らかに痛点を突かれた顔をする。
星帥皇室監察院とは、星帥皇室と貴族院の間に位置する、完全独立の監察機構であった。その職務は、星帥皇からのNNLを介さない勅命の発布前、そして貴族や星大名家からの各種申請の上奏前に、その内容を審査し、矛盾や不正が発見された場合は、発布の一時停止と上奏の却下を行うものだ。そしてその審査を通過した書類にのみ、勅命または上奏審査通過章が与えられるのである。
テシウス=ラームの見立てでは、この立退き交渉代理人認可証は、『アクレイド傭兵団』が一方的に作成し、何らかの手段…おそらく有力貴族の誰かが、直接星帥皇のもとを訪れ、隙を見て他の上奏書類に紛れ込ませ、星帥皇の押印がなされた後で、データを丸ごと抜き取ったのだろう、という事であった。
「つまぁーり!…こんなモンは、こうしても何の問題もねぇってこった!」
そう言ってノヴァルナは『センクウNX』に、手の平に浮かぶ認可証のホログラムを握りつぶす仕草で消滅させる。それを見て膝から崩れ落ちたのは、天光閣の窓からこの光景を見ていたエテルナだ。自分達を苦しめていた認可証が、虚構だったと分かったからだった。
「さぁ、どうする悪党ども。このまま“恐れながら…”と銀河皇国に申し出りゃ、困るのはてめーら、『アクレイド傭兵団』だぜ!」
傘に掛かって言い放つノヴァルナに、追い詰められたレバントンは、我慢の限界へ達する。ここでキオ・スー=ウォーダ家当主のノヴァルナを討ち滅ぼせば、後はどうにでもなる上に、イースキー家やイマーガラ軍といった、ノヴァルナを敵視している星大名家に、大きな貸しを作る事も出来るだろう。意を決してBSI部隊に命令を発した。
「こうなったら構わねぇ。みんな、やっちまえ!!」
▶#09につづく
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