銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
上 下
238 / 508
第12話:風雲児あばれ旅

#03

しおりを挟む
 
 二機の蜘蛛のようなロボットは、機体前方の二本の脚を突き出して、先端部に装備されている、切断や溶接に使用するレーザートーチを作動させた。暗い縦穴の中に、青白い光が剣のように伸び出して来る。少し触れただけで人間など真っ二つに焼き切れる代物だ。

 自分達に向かって来る多脚ロボットに、明かな悪意を感じ取ったノヴァルナは、懐からハンドブラスターを取り出してトリガーを引く。しかし武骨な建設用重機そのもののボディは、ブラスターで穴をあけられたぐらいでは止まらない。しかも操縦席を狙おうにも、太長い脚が盾のように操縦席をカバーしている。その間を狙撃するような余裕などない。

「やべぇ! 早いとこズラかれ!!」

 こんなものに構ってられっか!…とばかりに、自分のバイクに飛び乗ったノヴァルナは、さっさとエンジンをスタートさせる。別に臆病風に吹かれた訳ではない。そうしなければ自分の親衛隊である『ホロウシュ』達が、自分の身を盾にして主君を守ろうとするからだ。追って来た多脚ロボットが、置き去りにしたササーラのバイクを蹴り飛ばした。跳ね上げられたバイクは宙を舞い、管理棟の外壁に激突。ひしゃげて落下する。

 ノヴァルナ達は縦穴を地上へ向かう、螺旋状の坂道を登り始めた。本来ならバイクを反重力走行モードに切り替えて、路面の影響を受けずに速度を上げたいところだが、自分らが守るべきエテルナ達を乗せたトラックは昔ながらの、車輪走行しか出来ないタイプであり、置き去りにするわけにはいかない。ノヴァルナはトラックと運転席の横で並走すると、ハンドルを握るササーラに大声で告げる。

「急げササーラ!」

 上り坂とはいえ相手は脚で走行するタイプである。急げば追いつかれる事は無いはずだった。ところが多脚ロボットは螺旋状の坂道を追って来るのではなく、レーザートーチを作動させていないあとの六本の脚を使い、縦穴の切り立った岩壁を先端の鋭い鉤爪で突き刺し、真っ直ぐによじ登り始めたのである。

「マジか!!??」

「ウソでしょ!?」

 バイクを運転しながら、ノヴァルナとノアはこの光景に驚きの声を上げた。もしかしたらあの多脚ロボットには、重量を軽減するための反重力補助機関が、装備されているのかも知れない。宇宙空間と兼用で使えるものに見られる機能だ。
 そして問題は地上への坂道が、縦穴の内壁を螺旋状になっているため、ショートカットで真っ直ぐに登って来る多脚ロボットのコースと、重なる箇所があるという点だ。

“こいつはマズいぜ…”

 臍を噛む思いのノヴァルナ。自分達はともかくトラックをこれ以上急かして、事故でも起こされては元も子もない。
 
 そして恐れていた事態は、ものの三分も経たないうちに訪れた。ノヴァルナ達と二機の多脚ロボットのうちの一方との、コースが重なったのである。ノヴァルナ達の目の前で、螺旋状の坂道に巨大な蜘蛛型の半身を潜り込ませて来る。ネジ穴のような形状の岩壁をえぐって作り上げた坂道は、高さがそれぼどもなく、多脚ロボットは脚が長すぎて全身を入れられないのだ。それがノヴァルナ側のアドバンテージと言える。

「止まれ、迎え撃て!」

 ノヴァルナは声を上げて命じた。バイクのスピードを上げれば、何台かは擦り抜ける事が出来るだろうが、守るべきエテルナ達を乗せたトラックは、道路幅もあってそうもいかない。
 這いつくばるようにし、螺旋状通路の中へ体を挟みこんで来た多脚ロボットと、ノヴァルナ達の距離は五十メートルほど。多脚ロボットはレーザートーチを装備した前脚を伸ばして、こちらへ斬り掛かろうとする。ノヴァルナの号令でノアと『ホロウシュ』は、一斉にバイクを横向きにして停車すると、ハンドブラスターを両手で構える。

「照準はコクピットだ。集中攻撃! ともかくヤツを追い払え!!」

 ノヴァルナの指示で『ホロウシュ』達は、次々にハンドブラスターを撃ち放ち始める。一斉射撃ではなく、敵ロボットのコクピットに対する間断ない射撃で、撃退しようというのだ。一種の我慢比べである。レーザートーチを振りかざして接近しようとする多脚ロボットに対し、ノヴァルナ達は落ち着き払った様子で、ハンドブラスターのトリガーを引く。

 コクピットのある頭部への射撃の集中に、さしもの多脚ロボットもたじろぎを見せた。中に人間が乗っており、それが主君のためであるなら、命を懸ける事をものともしない『ム・シャー』ではなく、報酬第一で命を惜しむ傭兵であるなら、ひるむであろうというノヴァルナの判断だ。

 そしてその目論見は正解であった。

 雨あられとコクピット周りへ攻撃を喰らった多脚ロボットは、ジリジリと後退を始める。巨大であっても軍用ではなく土木作業用であるから、ごついフレームの脚部はともかく、本体には装甲など施されていない。だが油断は禁物。多脚ロボットは後退しながらも長い前脚を突き出した。危うくレーザートーチの一撃を喰らいそうになり、ノヴァルナとモ・リーラは咄嗟に身を翻して回避する。

「ヤツの外部カメラを潰せ!」

 多脚ロボットはコクピットのある頭部前面に、広角レンズのついた四つのカメラアイが取り付けられていた。ノヴァルナはそれを破壊して、敵の視覚を奪おうと考えたのだ。ブラスターのビームが集中し、カメラアイは次々に砕け散った。




▶#04につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

処理中です...