銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第11話:銀河道中風雲児

#13

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「つくづく貴方って、面倒ごとに首を突っ込みたがるのね」

 エテルナから半ば強引に協力の許可を取り付け、事務所を辞したノヴァルナに、ノアは後を追いながら呆れたように言う。

「こんなもんはなぁ―――」

 首を振り向かせて告げるノヴァルナに、ノアの言葉が先回りする。

「ノリだって言うんでしょ?」

「お…おう」

「私達は皇都に行く途中なのよ。関わる必要なんてないんじゃない?」

 あえて冷たい物言いをするノアに、ノヴァルナは「ふん…」と、鼻を鳴らして言い放つ。

「俺がそういうヤツだったら、惚れたりしねーだろよ?」

 やっぱり…という表情のノア。確かにその通りだった。二人が飛ばされた皇国暦1589年のムツルー宙域でも、あちこちでノヴァルナが首を突っ込んだため、とんだ冒険の日々を送る事になったのだが、その際に示したノヴァルナの行動力が、ノアを強く惹き付けたのも間違いない。

 廊下の片側一面の窓からは、夕方のアルーマ峡谷の景色を眺める事が出来た。するとノヴァルナとノアは、そこから見える風景に違和感を覚える。峡谷の岩肌に建てられている温泉旅館の半分以上に、明かりが灯っていないのだ。
 エテルナから聞いた通りである。太陽が出ている昼間は気にならなかったが、夕刻になると営業を停止した旅館は当然、真っ暗なままで、一気に寂寥感が加速する感じだ。これでは、いま来ている客もリピートに不安があるのは否めない。

 それにこのアルーマ天光閣も、他にほとんど客はいないようだ。ノヴァルナとノアが廊下を抜け、エントランスホールに出るまで、誰ともすれ違う事も誰かを見掛ける事もない。
 部下達全員を集められる広い場所という事で、ノヴァルナはNNLを使ってこのホールに全員を呼び寄せた。そしてノアと一緒に皆が来るのを待つ間、ノヴァルナは初めて自分達以外の客の姿を目にする。出迎えの従業員に案内され、新たにやって来た三人一組だ。純朴な感じの可愛らしい若い女性と、朴訥な感じの二人の中年男性という、些か妙な組み合わせである。

 三人は従業員の説明に従い、受付のタッチパネルディスプレイに自分達のデータを入力した。それを終えると三人は再び従業員に案内され、自分達の部屋に向かい始める。とその時、廊下の向こうから小走りで来るキノッサと、鉢合わせした。

「きゃ…」

 小さく声を上げる若い女性。対するキノッサは「おおっとと!」と頓狂な声を発して、大袈裟に身を翻す。そしてすぐさま頭を下げ、女性に「こりゃ、失礼!」と詫びを入れた。

「い、いえ!」

 キノッサの矢継ぎ早な動きに気圧された女性も、慌てて大きな声を出す。その声に釣られるように顔を上げたキノッサは、女性と正面から顔を合わせ、思わず見とれてしまった。化粧はあまりしていないようだが、それが逆に可憐な印象を与え、パチリとした眼は健康的だった。
 
「てめキノッサ。よそ様に迷惑かけんじゃねーぞ!」

 ノヴァルナにそう言われ我に返ったキノッサは、ノアからすかさず「貴方が言っていい台詞じゃないわよ、それ」とツッコミを喰らっているノヴァルナを振り向いて、「申し訳ございません!」と返事をする。そして再び若い女性に向き直ると、「では」ともう一度頭を下げて、ノヴァルナのもとへ駆けて行った。

 やがてマリーナとフェアンも含め、全員がエントランスホールに集合すると、ノヴァルナはエテルナから聞いた話を打ち明け、最後に告げる。

「なんか困ってるみてーだし、奴等は気に入らねーし、潰してやろーぜ」

 簡単に言ってのけるノヴァルナの言葉を聞いた部下達は、さっきのノアとは別の表情で、“また始まった…”という反応をした。どうも我等が主君は“揉め事”という名のスイッチを目の前にすると、押さずにはいられないらしい…

「潰すのはよろしいのですが…」

 と用心深く発言したのは『ホロウシュ』筆頭代理のササーラである。その言葉を外務担当家老で、ここでは年長者のテシウス=ラームが繋ぐ。

「我等は皇都キヨウへ向かう身。そうでなくとも、この前の惑星ルシナスで敵と遭遇したため、予定が遅れて来ております。あまり遅くなると、この旅をご支援頂いたナクナゴン卿への面目が立たなくなります」

 テシウスの言は正しい。今回のキヨウ行きは受け入れ側で、皇国貴族のゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナが骨を折ってくれている。星帥皇のテルーザ・シスラウェラ=アスルーガへの拝謁が叶うかどうかは未定だが、少なくとも銀河皇国の中枢部、『ゴーショ・ウルム』を訪れる許可は得られるだろう。そういった経緯もあり、あまり遅参を重ねて迷惑はかけられない。

「分かってるって。チャチャッと片付けるさ」

 ノヴァルナがそう言うと、ランがさっそく問題点を指摘する。

「でも、立ち退き交渉については星帥皇室が、認可を与えてしまっているのではありませんか?…下手をすれば我等は星帥皇室へ向けて、弓をひく事になる可能性も考えなければ」

「それは大丈夫っぽいぜ―――」とノヴァルナ。

「星帥皇室が認可を与えたのは、市長に土地買収交渉の代理人となる事だ。直接この辺りの温泉旅館に立ち退き命令を出したわけじゃねぇ。てなわけで、市長に交渉を諦めさせ、認可を星帥皇室に返上させりゃいいんだよ」

 あっけらかんと言うノヴァルナだが、自分自身でもそう簡単に事が運ぶとは思っていない。これはむしろ『ホロウシュ』達に、今回の行動の指針を示すためのものだった。するとそれに従って若手『ホロウシュ』達からも意見が出始める。

「短期決戦なら、こちらから仕掛ける事になりますね」

 ヨリューダッカ=ハッチの言葉に、カール=モ・リーラが応じた。

「ならここを警護する必要もあるな」
 
 ノヴァルナからすれば、『ホロウシュ』達が自主的に考えるようになった事を、高く評価していた。自分の手で探し出して来た平民上がりの彼等は、単なる自分の親衛隊ではなく、将来的には自分の政権の中枢を担って貰いたい、と思っているからだ。

「それに、なんでこの峡谷を狙ってるのか、理由を知らないと」

 キスティス=ハーシェルが自分の考えを述べると、セゾ=イーテスも思い付きを口にする。

「宇宙港にいる『クォルガルード』のコンピューターで、連中のコンピューターに探りを入れてみようか?」

 それを聞いて手を挙げたのは、フェアンだった。

「はいはーい。ハッキングでしょ? だったら、あたしに任せてー!」

 普段の無邪気さからは想像のつかない、折り紙つきのフェアンの電子戦の才能を知る『ホロウシュ』達は、みな納得顔で頷く。

「よし。今日できる事は今日やっといて、明日から本格的に取り掛かっぞ!」

 自分から面倒事をしょい込んでおいて、むしろいきいきとし始めるノヴァルナの表情に、ノアは“まぁ、この方がこのひとらしいか…”と、苦笑いを向けた………





▶#14につづく
 
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