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第11話:銀河道中風雲児
#03
しおりを挟む高速道路は鉱山のある衛星都市から採掘した鉱石を、中央都市へ輸送するトラックの数が圧倒的に多い。衛星都市ザブルナルへ向かうノヴァルナ達の周囲は、逆に鉱石を受け取りに向かうトラックが無数に走っていた。また高速道路と並走する形の高速鉄道も、鉱石運搬用の貨物列車がほとんどである。
ザブルナルで産出される主要鉱物はサルフ・アルミナ。“透明アルミニウム”とも呼ばれる鉱物で、この惑星ガヌーバで最も多く産出される。サルフ・アルミナは精製すると透明になり、現代社会ではガラスの代わりの建材として、高層建築物や宇宙船に使用されている重要鉱物だった。
バイクを駆るノヴァルナは速度を上げながら、トラックとトラックの狭い間を、スルリスルリと華麗に抜けてゆく。この辺りのバイクテクニックは一級品で、他の『ホロウシュ』達は置き去りだ。
もっとも『ホロウシュ』達には、テシウス=ラームらが乗る車の護衛も命じてあるため、このノヴァルナの単独行動は彼等にとって迷惑な話である。
しかしそんなノヴァルナに、ピタリと追随して来るバイクがいる。ノアだった。ノアには専属の護衛である、メイアとマイアのカレンガミノ姉妹が終始付いているはずなのだが、いかんせん、ノヴァルナのもとへ来てから乗り始めたバイクのテクニックはいまだノアに及ばず、ノアに振り切られてしまっていた。と言うよりノアの操縦技術の習得能力が天才的なのだが。
「ノバくん!」
ノヴァルナに追いついて来たノアが、ヘルメットの通信機能を使って、連絡を入れて来る。
「ノバくん言うな!」
いつもの返答のノヴァルナに、ノアは構わず尋ねた。
「また敵が襲って来たら、どうするの?」
「は?…そん時は、そん時だ」
「そんないい加減な話でいいの?」
速度をさらに上げ、ノアはノヴァルナのバイクに並走する。ノアの問いに答えようとしたノヴァルナだが、一台のトラックが割り込んできたため、二人はトラックを両側から追い抜いてから再び合流。ノヴァルナはそこで返事した。
「いや。たぶんこの星じゃ連中、襲って来ねぇ」
「どうしてよ?」
「奴等はルシナスで、あんだけ大きな仕掛けをしてたんだ。失敗した場合に備えてこの惑星でも、同じような仕掛けをしているとは思えねーからな」
「じゃあ、この星は安全てこと?」
「まぁ…七:三てトコだがな」
ノヴァルナの読みは正しい。ノヴァルナの殺害を目的とするキネイ=クーケンの部隊は、惑星ルシナスで失敗した場合、この惑星ガヌーバで強襲を仕掛ける思惑であった。つまりノヴァルナの読みの三分の方だ。ところが、オルグターツ=イースキーの命であとからやって来た、ビータ=ザイードとラクシャス=ハルマが全てをひっくり返して、ノヴァルナの読み通りの行動を取ってしまったのだ。
ただ正直なところ、今のノアには敵の作戦がどうとかは、あまり関心が無い。旅行という特殊な環境に置かれているせいか、ランのいる『ホロウシュ』やカレンガミノ姉妹といった護衛を振り切って、ノヴァルナと二人だけで先行している、この状況こそが―――些か俗っぽいものの、ノヴァルナを独り占めしている今の状況こそが、ノアには大切な時間だったのだ。
バイクのコンピューターに記憶させた目的の温泉旅館への道順が、ヘルメットのバイザーに半透明のガイドマーカーで示される。それに従って高速道路を終点で降り、ノヴァルナ達はザブルナル市へと入った。
ザブルナル市は鉱山業に加え。温泉保養地としても栄えているようで、インターチェンジから降りた途端、道路の両側に様々な温泉旅館が、自らをPRするホログラムスクリーンの看板を掲げている。こういった情緒は大昔の温泉宿と、あまり変わりがない感じだった。
この惑星ガヌーバ有数の大火山バンクナスの麓にあるザブルナル市では、間近にそびえるバンクナス大火山が、まさに天を衝くほどの迫力を与えて来る。巨大火山がほとんど無い、ノヴァルナの故郷の惑星ラゴンでは見られないものだ。
「スゲーな…」
ほぼ真上を見上げなければ、頂上付近を視界に捉える事が出来ず、ノヴァルナはバイクを運転しながら感嘆の呟きを漏らす。
「ノア。おまえの星には、こんなでっかい火山はあんのか?」
バンクナス大火山を見上げながら、ノヴァルナは自分と並走するノアの故郷、惑星バサラナルムの事を訊いた。
「そうね…南半球の海の中には、三つ連なった大きな海底火山があるけど…こんなに大きな、火山はないかな」
するとノヴァルナは少し間を置いて、再びノアに問い掛ける。
「ノア…」
「うん。なに?」
「バサラナルムに帰りたくなったり、しねーか?」
ノアがノヴァルナのところへ来て、早くも三年の月日が流れた。そしてその三年の間、ノアは一度も故郷のバサラナルムへ帰った事がない。いや、父母が義兄のギルターツ=イースキーの謀叛に遭って命を落としてからは、帰れなくなったと言っていい。そしてもはや戻ったところでギルターツに捕まり、いいように利用されるだけだ。
ただノヴァルナがそんな事を訊いているのではないのは、ノアも理解していた。いま尋ねているのは、ノアのバサラナルムに対する郷愁の気持ちだ。
「大丈夫だよ―――」
ノアはヘルメットの中で目を細めてそう告げ、さらに続けた。
「―――今の私の居場所は、貴方の隣だもの」
ノアは気が強い分、こういった言葉を躊躇いなく口にする事が出来る。そしてそれに対するノヴァルナの返答は、ノアが望んでいたもの…そのものだ。
「おう。じゃ…まぁ、ずっと俺の隣に居てくれ」
いつもの歯切れの良さに比して、少々照れを感じさせるノヴァルナの声に、ノアは嬉しそうに、ノヴァルナの強気な口調を真似て応じた。
「おう。任せとけ」
ところで、彼等が目指す温泉旅館―――キノッサの言うところの“穴場”は、思いのほか遠かった。予約を取った温泉旅館は、ザブルナル市からさらに一般道でバンクナス大火山の、裏側へ向かわなければならないらしい。
ノヴァルナはヘルメットの通話機能を、ノアとのプライベートモードから全員と通話するオープンチャンネルへ切り替え、後続する車に乗るキノッサに問い質す。
「キノッサ、えらく遠いじゃねーか!?」
「すいません。なんせ、穴場なもので」
とその時、前方やや左斜めの丘陵地の向こうから、轟音と共に一隻の宇宙船が姿を現した。全長は百メートル弱、五個の大型コンテナを細長い船体の下部に並べて固定した、『プリーク』型貨物船である。貨物船は高度をゆっくりと上げながら、道路を走るノヴァルナ達の頭上を通過していく。
その光景にノヴァルナとノアは一瞬、皇国暦1589年のムツルー宙域へ飛ばされた時の事を思い出した。
未開惑星パグナック・ムシュに不時着し、まだ口を開けば喧嘩ばかりしていたノヴァルナとノアの前に現れたのが、この『プリーク』型貨物船であり、元の世界に戻るきっかけとなった出来事だ。もっともあの時の『プリーク』型貨物船は、今とは逆に、着陸態勢だったが。
ただノヴァルナは、その思い出をひとまず頭の片隅に押しやり、再びキノッサに強めの口調で尋ねた。
「おう、キノッサ!」
「なんスか?」
「てめ、今の貨物船…この先に宇宙船が降りられるような、他の宇宙港があったんじゃねーだろな?」
ノヴァルナがキノッサに質問を浴びせたのは、結構距離がある中央都市アロスクルの宇宙港ではなく、この近くに『クォルガルード』を降ろせるような、別の宇宙港があるのではないか?…と、今の離陸直後と思われるコンテナ貨物船を見て、思い立ったからである。
しかしノヴァルナに後続する車の中で、キノッサは「いやぁ、そんなコトはないばずなんスけど―――」と首を捻った。
「地図データを見ても、この先にあるのは小さな温泉街だけでして…」
そしてその理由はほどなくして判明した。貨物宇宙船が航過した丘陵を回り込んで走るノヴァルナ達の視界に、比較的大きな鉱山の採掘施設が飛び込んで来たからだ。それはアロスクル市から見ると、バンクナス大火山のちょうど裏側になり、銀色に輝いていた。まだ建設されてそれほど経っていないらしい。敷地の一角に貨物宇宙船の離着陸用プラットホームが設けられている。今の貨物船はそこから発進したようだ。
「おかしいッスね。あんなの、地図データには載ってないッスよ」
ホログラムスクリーンに地図データを投影させたキノッサが言う。
「見たところ新しそうだし、まだ載ってねぇんじゃね?」
そう口を挟んできたのは『ホロウシュ』のセゾ=イーテスだ。確かにあり得る話である。ただノヴァルナはその鉱山採掘施設の姿に、どこかに違和感を覚えた。たとえ地図データに乗らなくても、あれほどの巨大施設なら道路標識で案内があっていいはずだ。
しかしこの時はまだ、ノヴァルナもそれ以上は深くは考えず、“初めての土地で見落としでもしたか…”と結論付け、走り去って行った………
▶#04につづく
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※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。
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