銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第10話:花の都へ風雲児

#16

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 キルラメルラの市警本部に収容されたノヴァルナ達は、事情聴取を受け、ようやく身元が確認された。ただノヴァルナに身元が判明したらしたで、市警本部は戦々恐々とし始める。オ・ワーリ宙域の暴れん坊の悪名は三年前、実際にロッガ家相手に中立宙域でひと悶着起こした事もあって、この惑星にも届いていたからである。

「なに?…襲って来た連中の身元が、判明しないだと?」

 そして翌日、広い応接室の中、ササーラがガロア星人の厳つい顔をグイ!…と突き出して問い質すと、彼等への応対を命じられているスキンヘッドの、太った警部が額に汗を浮かべた。実年齢から言えば二十三歳のササーラに対し、警部は父親ほどの年齢差があるのだが、迫力的に気圧けおされており、顔を引き攣らせて報告する。

「は…はい。発見した襲撃者の死体を調べたのですが、身元の手掛かりとなるような物は、何一つ所持していませんでした」

「奴らの装備はどうなんだ? 光学迷彩の装備や武器から、情報は得られなかったのか?」

「製造番号から元を辿りましたが、三年前にヤヴァルト宙域で消失した、皇国軍陸戦隊の装備品で、装備者は戦闘で死亡しているという事しか…」

「つまりは…死体から剥ぎ取ったって事か?」

 腕組みをして椅子にふんぞり返るノヴァルナは、怪訝そうに警部に尋ねた。別にそんな横着な態度を取る必要はないのだが、向こうが勝手に慄いているのなら、それを利用して優位に立っておくに、越した事は無いからだ。

 相手の警部は一つ頷いて「恐れながら…」と告げ、ノヴァルナの質問を肯定すると、ヤヴァルト宙域とその周辺の現状を伝えた。

 三年前の皇国暦1555年10月。アーワーガ宙域星大名ナーグ・ヨッグ=ミョルジは、隣接するカウ・アーチ宙域などの星大名や独立管領の中で、現状の星帥皇室と貴族達の在り方に不満を持つ者を糾合し、その改革を大義名分にヤヴァルト宙域へ侵攻した。
 約百年前の『オーニン・ノーラ戦役』以来、低迷の度合いを深める一方であった皇国の行政能力は、この争乱で完全にとどめを刺された状態になり、争乱後の処理もろくに行われていないのが現実である。そのために、このような戦死者から奪い取った装備から、修理可能な艦船にBSIユニットまでが、闇ルートを通じて大量に売り捌かれて傭兵組織や、宇宙海賊などの略奪集団の手に渡っているらしい。

「…ですので、今回のように装備者が誰か判明しただけでも、“御の字”というべき結果としか申し上げられないのが現状でして」

 恐縮しながら言い終えた警部に、ノヴァルナは「わかった。気にすんな」と応じた。自分でも最初から期待はしておらず、こんな事で身バレするような連中なら、最初から襲撃などして来ないと思っていたのだ。
 
 そして翌日、ノヴァルナ一行は二日遅れで惑星ルシナスを離れた。

 星大名家当主に対する襲撃であるから、キオ・スー=ウォーダ家に敵対するいずれかの勢力の襲撃である事は確実であったが、ノヴァルナはキルラメルラ市警本部とルシナス行政府に対し、中立宙域で活動する略奪集団による襲撃として、処理・発表するよう要請した。ルシナス側の態度に、彼等の主人であるこのアンソルヴァ荘園星系を領有する貴族が、キオ・スー=ウォーダ家と敵対勢力の争いに巻き込まれてしまうのではないか…と、懸念している様子がありありと見られたからだ。

 戦闘輸送艦『クォルガルード』のラウンジで、後方ビュアーに映る惑星ルシナスの青い姿を眺めながら、ナルマルザ=ササーラは苛立ちを帯びた口調で述べた。

「まったく…ルシナスの行政府にも、呆れたものですな。どこかの盗賊共の襲撃にしておけ、という殿下のご提案に、ああも簡単に同意するとは。事なかれ主義もいいとこで」

 ソファーに寝そべったノヴァルナは、軽く欠伸をしながら、大して興味も無さそうに応じる。

「まぁ、そう言ってやるな。今の貴族共には大した権力…いや、実力だな。それがねーから、下手に首を突っ込んで、とばっちりは喰らいたくないだろうしな。俺達の貸し切りにしてたから、一般客に死人も出なかったんだし、大目に見てやれや」

 するとその会話に、テーブルの上を片付けていたキノッサが加わった。

「そうそう。この中立宙域は名門貴族でもある星大名の、ロッガ家の意向に大きく影響されていますからねぇ。そしてノヴァルナ様は、ロッガ家と何かと因縁がお有りになる…となると、もし襲って来たのがロッガ家の手の者だった場合、事を荒立てたくはない。しかしそうなると今度はロッガ家と敵対し、今現在実質的に皇国中央を支配しているミョルジ家に、この星系の領有貴族はロッガ家と通じている、と思われてしまうのではないか…それが不安だというわけでして」

 それを聞いて、同席しているイーテス兄弟の兄の方、ヴェールが思った事をそのままノヴァルナに尋ねる。

「て事は、襲って来たのは、ロッガ家の奴等ッスか?」

「さぁなァ。なんせ疑わしいヤツは、山ほどいるかんな」

 冗談ぽく、あっけらかんと返すノヴァルナだが、それは紛れもない事実であり、寝そべるノヴァルナの隣に座るノアは、やれやれ…と首を軽く振る。

 実際にノヴァルナへの襲撃を画策しているのは、ノヴァルナの弟カルツェの側近クラード=トゥズークに、ミノネリラ宙域星大名ギルターツ=イースキーのラインだが、ノヴァルナ側の視点で見ると、襲撃して来る相手としてこの他にイル・ワークラン=ウォーダ家、ロッガ家、イマーガラ家とその従属勢力、旧キオ・スー派残党、敵対的独立管領…等が浮かび上がり、身に覚えがあり過ぎるのが現状だ。

 そして当のノヴァルナはそんな現状など、どこ吹く風。寝そべったまま良からぬ事を考えたのか、ノアの太腿に手を伸ばしたところを、“人前ではやめなさい!”とばかりに、ペチリ!と平手打ちを喰らって冷たく跳ねのけられていた………




▶#17につづく
 
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