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第10話:花の都へ風雲児

#13

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 分厚い水密シャッターを焼き切るのは、ブラスターの連続照射でも容易な事ではない。ジリジリと焦げるような時間が流れる。
 エネルギーパックが空になり、「ブラスター貸せ!」と後ろにいたランに命じるノヴァルナ。ランはエネルギーパックの入ったハンドブラスターをノヴァルナに渡すと、代わりに受け取ったブラスターに、新たなエネルギーパックを素早く交換した。ササーラの方はキノッサがハンドブラスターの交換役を務めている。

「次!」

 エネルギーはすぐに尽き、新たな銃を要求するノヴァルナ。流入する海水は青黒い水面をさらに上昇させた。ノヴァルナ達のいるフロアにまで浸水が始まり、潜水艇展示場へ通じるエスカレーターを飲み込み始める。

「姉様。水が来たよ…」

 怯える気持ちを表に出すまいと必死に堪える様子のフェアンが、水面を見詰めたままで、腕を組む姉のマリーナへ言う。対するマリーナはいつもと変わらぬ表情ではあったが、それでも声の端に緊張を感じさせながら応じた。

「落ち着きなさい。イチ」

 そんな二人の肩をノアは広げた両腕で包むように支え、柔らかな笑みを浮かべて励ましの言葉を口にする。

「ええ、大丈夫。貴女達の兄様なら、きっと上手くやるわ」

 そのノヴァルナは再びランに、ブラスターの交換を要求した。

「次だ!」

 水密シャッターの蝶番型可動部は左右に二箇所。だがそれぞれの幅は120センチほどもある。ブラスター1丁の連続照射で、焼き切れるのは20センチ程度。今はようやく半分程度といったところだ。ブラスターの放つ高熱で、ノヴァルナの額に玉の汗が浮かぶ。若いとはいえ星大名家の当主なのであるから、配下の誰かにやらせばいいのだろうが、危機に際して先頭に立つのが生来の性格なのだ。

「次だ。急げラン!」

「はい!」

 まるで鼓舞するように、強い口調でブラスターの交換を要求するノヴァルナ。いや事実、若き主君のその強い口調に、『ホロウシュ』達の士気は少しも衰える事は無い。ササーラも負けじとキノッサにブラスターの交換を要求する。

「こっちもだ。キノッサ!」

「承知!」

 そしてさらにササーラは、あらたなブラスターを発射しながら、『ホロウシュ』筆頭代理としての指示を出した。

「ハッチとモ・リーラ。それにイーテス兄弟はシャッターが開いたら、俺と先に突入。ランはキュエルとジュゼ、キスティスと共にノヴァルナ様らをお守りしろ」

 それは展示場内で敵が待ち伏せしていた場合に備え、自分達男性『ホロウシュ』が先に突入して、ノヴァルナ達の盾になるという意味である。命を投げ出す事になるが、頷く『ホロウシュ』達の眼に怯懦の光は無い。
 
 可動部が四分の三まで焼き切れると、シャッターは自重で垂れ下がり始める。それを見たノヴァルナはササーラに命じた。

「もういい、ササーラ。蹴っ飛ばすぞ!」

「はっ!」

「せぇええのッ!!」

 タイミングを合わせて、ノヴァルナとササーラがシャッターを蹴りつける。焼き切れかけていた可動部が破壊され、落下したシャッターが大きな水飛沫を上げた。即座にササーラが男性『ホロウシュ』に、「突入!」と告げようとするが、その寸前になって、シャッターの向こう側からも海水が流れ出して来る。

「なにっ!?」とササーラ。

「水だ。気をつけろ!」ノヴァルナが警告する。

 流れ出して来た海水に、足をすくわれそうになった一行は、慌てて近くの手摺に掴まった。潜水艇展示場に敵の待ち伏せはない。その代わりに直径二百メートル程ある円形の展示場は、透明のドーム天井のあちこちに、おそらく小型爆弾の爆発によるものと思われる裂け目が出来ており、すでに海水が滝となって、床を満たすほどに流入していたのだ。しかもその海水は、階下から押し寄せて来た海水と合わさり、一気に全員の膝下辺りまでが水に浸かってしまった。

「チッ! これじゃ、間に合わねぇ!」

 階下からとドーム天井から流入する海水量からすると、ここから上へ進んでいる時間は無さそうである。上方向のエスカレーターの出入口にも、水密シャッターが下りており、もはやそれを破っている時間はないだろう。その上、ドーム型の天井は水圧によって、ヒビが次第に大きくなっていた。いつ天井全体が崩壊しても、おかしくはない。

「あれを使うぞ!」

 咄嗟に考えを巡らせたノヴァルナは、思いつくがままに展示場の一点を指差す。そこにあったのは固定台に置かれた、旧時代の潜水艦『L-415』だ。

「どうされるつもりなんスか!?」

 尋ねて来たのはキノッサだ。小柄なこの少年は、太腿ぐらいまで水に浸かっている。それに対しノヴァルナは、躊躇い無しに応じた。

「四の五の言ってんな! あれに乗り込むんだよ!!」

 さらにノヴァルナは、『ホロウシュ』達に命じる。

「俺の事は自分でするからいい。おまえらはノアと妹に手を貸せ!」

 そう言ってノヴァルナは水を掻き分けながら、旧型潜水艦に登るための簡易梯子へ向かった。ノアとマリーナ、フェアンも両脇を『ホロウシュ』に支えられながら梯子へ向かう。

「急げ! もう天井が持たんぞ!!」

 怒声に近い声で部下を促すササーラ。見上げれば、天井となっている透明金属のドームに入るヒビが、だんだん大きくなって来ていた。





▶#14につづく
 
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