銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第9話:退くべからざるもの

#07

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「重力勾配反応! 超空間転移と思われます。何かが複数、この星系外縁部に転移して来るもよう!」

 それは表現の違いこそあれ、ノヴァルナ艦隊とカルツェ艦隊の双方で、オペレーターが緊張と共に伝えた報告だった。ノヴァルナとカルツェもそれぞれに、警戒心を隠しもせずに問い質す。

「空間転移だと!? 艦隊か!?」

「どういう事か!? 位置は!?」

 その言葉に応えるように、ノヴァルナの『センクウNX』から見ると右側。カルツェの『リグ・ブレーリア』から見ると前方の宇宙空間に、白く巨大で、円形の光が出現した。超空間転移用の人工ワームホールだ。距離はおよそ二千万キロといったところであろうか。

 そしてその中から、数十隻の宇宙艦が出現した。

 ノヴァルナとカルツェ、どちらにとって敵か味方か、戦局を決定づけるだけの戦力である。両軍のオペレーターが急いで識別信号を確認する。

「宇宙艦隊!…こっ、これは!…ウォルフベルト=ウォーダ様麾下のキオ・スー=ウォーダ軍、第5宇宙艦隊です!!」

「なにっ!!??」

 奇しくもノヴァルナとカルツェは同時に声を上げた。ウォルフベルト=ウォーダの第5艦隊なら、ノヴァルナ側の戦力だ。しかしこの艦隊は、イル・ワークラン=ウォーダ家と、ヴァルキス=ウォーダのアイノンザン星系を牽制するため、そちらの宙域へ向かったはずである。

 するとその疑念に対する回答を当のウォルフベルトが、全周波数帯通信によって明らかにした。言葉はノヴァルナに向けてであるが、中身はカルツェ艦隊にも聞かせるためだ。

「こちら第5宇宙艦隊司令ウォルフベルト=ウォーダ。ノヴァルナ殿下はいずこにおわす? 応答願います」

「おう、ウォルフベルト殿。俺だ!!」

 ノヴァルナはカルツェの『リグ・ブレーリア』への攻撃を続行しながら、ウォルフベルトからの呼びかけに応じる。ランチャーから発射した対艦誘導弾が『リグ・ブレーリア』の重力子ノズルに迫るが、突進して来た護衛の戦艦の小口径ビーム砲に、直前で撃破された。ほぞを噛むノヴァルナ。

 ところがそんな状況も、ウォルフベルトの報告で一変する。

「お喜び下さい。アイノンザン星系のヴァルキス様が、ノヴァルナ様にお味方される事に相成りましたぞ!」

「なんだと!?」

「ヴァルキス様直卒の、アイノンザン星系恒星間打撃艦隊は現在、モルザン星系へ移動中。間もなく転移を終えて、モルザン星系防衛艦隊と対峙する予定!…キオ・スー城からカルツェ様ご謀叛の急報を受け、ヴァルキス様と打ち合わせ、取りも直さず駆け付けましてございます!」

「マジか…」

 ノヴァルナはまだ信じられない…という表情で呟いた。
 
 思わぬ形ではあるが、勝負あったといったところであろう。ヴァルキスのアイノンザン星系艦隊がモルザンへ向かったとなると、カルツェ艦隊が個別のDFドライヴでバラバラな位置に転移しても、下手をすれば各個撃破されるだけである。

 そしてその報せを聞いたカルツェ艦隊の将兵が茫然となったところに、逆に勢いを得たノヴァルナ軍が攻勢を強めた。新たに出現したウォルフベルト艦隊も当然、攻撃を開始する。ノヴァルナ艦隊に対して壁を作っていたカルツェ艦隊は、別方向に出現したウォルフベルト艦隊にも対応を迫られ、大混乱に陥った。

「仕方ない。BSI部隊を出せ! ノヴァルナの『センクウ』を集中攻撃だ!!」

 我慢できなくなったミーマザッカは、独断で命令を発した。

「ミーマザッカ! 勝手な真似をするな!!」

 戦略の崩壊に顔面を蒼白にしたカルツェは、声を上擦らせて怒鳴る。

「カルツェ様! もはやこれまで! ここで雌雄を決するしかございません!!」

 言葉を返すミーマザッカの座乗艦『サング・ザム』にも、五発、六発と誘導弾が命中し、艦橋が震動に見舞われた。

「く…どうすれば」

 カルツェは思わず奥歯を噛み鳴らす。ノヴァルナにもいまだ経験の浅さがあるならば、実戦の回数が兄の足元にも及ばないカルツェはそれよりさらに浅い。モルザン星系を根拠地とし、反ノヴァルナ勢力を糾合するという自分の戦略が崩れた今、次善策を考える余裕どころか、思考が停止してしまっていても無理はない。そして勝手に行動し始めたミーマザッカが、その思考停止に拍車をかける。

 一方のノヴァルナは、カルツェ艦隊が戦況の打開のため、自分を狙ってBSI部隊を発進させたのを好機と見た。自分達のBSI部隊に後続させていた、第1宙雷戦隊に命じる。

「よっし。1宙戦、突撃!!」

 宙雷戦隊の突撃のタイミングを見切る上手さは、ノヴァルナの真骨頂の一つだ。主君直属の第1艦隊に配備された第1宙雷戦隊は、その誇りをもって全速力で突撃を敢行する。艦載機の発進となると足が止まる、カルツェ艦隊の隙を突いての下令だった。

「全艦雷撃戦はじめ! 発射タイミングは各艦に任せる!」

 状況は早くも掃討戦に移りつつある…そう判断した第1宙雷戦隊司令を務める、ツェルオーキー=イクェルダは各艦に指示を出す。敵は艦列がバラバラになっており、戦隊で統制雷撃を仕掛けるより、手当たり次第に潰して行った方がいい、との判断だ。先の戦闘で軽巡1、駆逐艦2を失った第1宙雷戦隊だが、残存する十隻は一本棒の単縦陣を組み、長い槍のようにカルツェ艦隊の中央に突き刺さっていった………




▶#08につづく
 
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