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第8話:触れるべからざるもの/天駆けるじゃじゃ馬姫
#15
しおりを挟む個室区画を出た一行は、隣接する機器の整備区画で、いきなり敵と出くわした。七人の傭兵が整備区画の反対側の出入り口から姿を現したのだ。それを見たノアは即座にメイアとマイアに指示する。
「強行突破!」
「了解!」
敵と出くわしてしまったが、向こうはこちらを警戒していた訳ではない。そう判断したノアの言葉だった。
ノアとカレンガミノ姉妹が、ほぼ同時にブラスターライフルを撃つ。案の定、敵はノア達を発見して、予想外の光景に驚いていた。たちまち二人の傭兵がビームを受けて、仰向けにひっくり返る。外れたのはノアのライフルだ。持ち前の気の強さから少し顔をしかめるノア。
ただ敵の『アクレイド傭兵団』も、荒くれものの集団だが無能ではない。残りの五人は散らばって反撃に移ろうとする。出入り口を真ん中に、右に二人、左に三人が分かれ、機材の陰に身を隠してライフルを構えた。中の一人は制御室に、人質の脱走を報告しようと通信機を取り出す。
しかしやはりメイアとマイアの動きは、傭兵達のそれを凌駕していた。
「姫様。援護を!」
声を合わせてそう言ったメイアとマイアは、言うが早いか二手に分かれて猛然と駆け出した。右をメイア。左をマイアだ。整備待ちのロボットアームなどの機材の山を一瞬で駆け上がって行った。ノアにとっては悔しいが、やはり白兵戦はカレンガミノ姉妹の独壇場だ。おそらくあの双子と互角に戦えるのは、ノヴァルナの親衛隊『ホロウシュ』の中でも、敏捷さに長けるフォクシア星人の、ラン・マリュウ=フォレスタぐらいだろう。
ノアは何かの冷却デヴァイスの陰に滑り込み、ブラスターライフルを連射する。慌てて身を隠す傭兵。その間に機材の山を掛け上がったメイアとマイアは、小さく跳躍すると敵兵の眼前に飛び降りた。
意表を突かれた唖然とする傭兵に、メイアとマイアはタイミングを合わせたかのように、二人揃って回転半径の狭い回し蹴りを放った。呻き声を上げて吹っ飛ぶ傭兵。ノアの時間稼ぎはそれほど長くは無かったが、カレンガミノ姉妹にとっては、充分な長さだ。
メイアはブラスターライフルの銃床を、殴打用として使用する。左右に素早く鋭く振るうと、たちまち二人の傭兵の側頭部を痛撃して打ち倒した。一方のマイアはブラスターライフルを、まるでギターを寝かせて持つような変わった持ち方にし、間合いの短い中で、二人の傭兵を瞬く間に撃つ。
だがマイアの方には敵兵がもう一人いる。その兵士は距離を置いて、マイアを撃とうとライフルを構えた。しかしそれを僅かに早く敵を倒したメイアが、ライフルで狙撃する。
これを見たノアは、後ろに控えさせていたドルグ=ホルタに指示した。
「ドルグ。作業員の方達を連れて、早く!」
その頃、ハドル=ガランジェットは『ルーベス解体基地』を離れ、シャトルで近くの宇宙空間に浮かぶ大型輸送船へ移動中だった。この輸送船がガランジェット部隊の乗用船であり、違法改造で重巡クラスの艦載砲を設置、BSIユニットも12機搭載できる戦闘輸送艦である。
今回の作戦の報酬として受領する、旧サイドゥ家宇宙艦の自動航行システムのコントロールセンターが、このガランジェットの戦闘輸送艦『ザブ・ハドル』に置かれており、その運用試験のためガランジェットが向かっているのだ。
シャトルを操縦している傭兵がガランジェットに尋ねる。
「なあ、ガランジェット」
「なんだ?」
ガランジェットは傭兵の操縦席の後ろに立ったまま、背もたれに右手を置いて応じた。その眼は前方の戦闘輸送艦『ザブ・ハドル』を見据えている。
「本当にいいのかよ? あの女をギルターツに届けなくて」
「構わねぇさ。イースキー家に渡す事には、変わらねぇからな」
「しかしあのオルグターツとかいうガキ、信用出来るのか?」
「さあな。もし出さねぇなら、こっちも渡さねぇ。あの姫様にも、地獄を見てもらうだけだ…だがまぁ、大丈夫だろ。あの手のガキは執着心が強いからな」
「いずれにしても、イースキー家との禍根になりそうだな」
「それは傭兵団上層部も承知している。上はイースキー家が、ノア姫のリージュ=トキとの政略結婚で、皇国貴族側に組み込まれる事を、良くは思ってないようだ。特に裏で、イマーガラ家が糸を引いているとなるとな」
「上ってどの程度、上なんだ?…俺はいまだに、自分が所属してる『アクレイド傭兵団』てのが、どういった組織なのか、よく分かんねぇんだが」
するとガランジェットは口元を歪めて、顎の無精髭を撫でながら告げた。
「正直、俺にも分からん。だが…好きなだけ暴れて、思うままに奪って、たんまり儲けさせてくれりゃあ。それでいいさ」
とその時、通信コンソールが呼出音を鳴らす。シャトルには操縦士役以外の部下は乗っていないため、ガランジェット自らが通信に出る。相手は『ルーベス解体基地』の中央制御室にいるクラード=トゥズークだ。
「クラードさんかい。どうした?」
ガランジェットの問い掛けに、通信機の向こうのクラードは、声を上擦らせて慌てた調子で答えた。
「ガッ!…ガランジェット! 面倒な事になった。ノア姫様が仲間や基地の作業員どもと一緒に、監禁室から逃げ出した!!」
▶#16につづく
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