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第8話:触れるべからざるもの/天駆けるじゃじゃ馬姫
#07
しおりを挟む「なぜここにいる…とはまた、ノア姫様とあろうお方が察しの悪い」
小馬鹿にしたように言うクラードだが、そういった挑発に乗るノアではない。むしろ彼女を愛するノヴァルナであっても手を焼く、持ち前の気の強さが前面に出て来る。きっぱりとした口調で言い放つノア。
「察しが悪いわけでありません。貴方の口から理由を言わせたいだけです!」
「む………」
優位に立ったはずが、いきなり出鼻を挫かれてたじろぐクラード。それを見て、ガランジェットは「ワッハハハ!」と機嫌よく大笑いする。
「アンタの負けだ、クラードさんよ。さすがは、あのオルミラの娘だぜ!」
そのガランジェットの言いように、ノアは攻撃的な目を向けた。母親の名を呼び捨てにしただけでなく、その口調の中に嫌悪感を感じ取ったのだ。
「ええい、黙れ!」
クラードはつい喚声を上げる。ただそれがノアに向けられたものなのか、ガランジェットに向けられたものなのかは、曖昧なところだ。
「ノア姫様。ともかく、我等に従って頂きましょう」
ノヴァルナと継承権を争う弟のカルツェを支持するクラードが、ここに居て自分達の誘拐を裏で操っていたという事は、そのカルツェの艦隊を同行させたノヴァルナ艦隊にも脅威が迫っているに違いない。そしてそれは事実であった。ノアは知らないが、イノス星系では罠に落ちたノヴァルナ艦隊が苦闘を繰り広げている。
「私にどうしろと言うのです!?」
相変わらず強い口調で尋ねるノア。クラードはこの時二十七歳で、二十歳になったばかりのノアより七つ年上であるのに、ノアの剣幕に一々押され気味だ。
「な…なに、元の鞘に収まって頂くだけ…つまりお父上、旧サイドゥ家のドゥ・ザン=サイドゥ様が最初に構想された通り、リノリラス=トキのご嫡男リュージュ=トキ様とご結婚頂くのです。ギルターツ=イースキー様の妹君とし―――」
「いやです!」
クラードの言葉が終わらないうちに、思い切り拒否するノア。
「今の私はもはやノヴァルナ様のもの。ノヴァルナ様と生涯を添い遂げる以外の、選択肢は存在しません!」
やりづらい…それがクラードの心情を支配していた。こちらが何かを言う前に、その出鼻を次々に潰して来るノアだ。しかしクラードとしても、このままノア姫のペースに呑まれるわけにはいかない。
「こちらの指示に従って頂かなければ、二人の弟君に危害が及ぶ事になりまする!それでもよろしいのですか!!??」
「く!………」
甲高い声でクラードが告げると、ノアはようやく口を閉じた。
ノアが静かになり、ふぅ…とひと息ついたクラードは、改めて口調を整えてノア姫に告げた。
「艦隊の準備が整い次第、姫様並びに弟君は惑星バサラナルムの、ギルターツ様の元へお送り致します。それまで、ここでしばらくお待ちください」
そんなクラードの言葉に、ノアは眉をひそめて問い質す。
「艦隊?…艦隊ですって!?」
するとクラードに代わって、ガランジェットがその問いに答えた。クラードが眺めていたホログラムスクリーンを指差して言う。
「あれですよ、姫様」
ホログラムスクリーンに映し出されているのは、先の『ナグァルラワン暗黒星団域会戦』でミノネリラ宙域から撤退して来た、旧サイドゥ家の宇宙艦群である。
「どういう事ですか?」
「今回の報酬の一部…現物支給ってヤツですよ」
「現物支給?」
「旧サイドゥ家の、まだ使える宇宙艦…それを俺達アクレイド傭兵団が、頂戴するという事にございますよ、ノア姫様」
それからガランジェットが語った内容はこうだ―――
旧サイドゥ家の残存艦はどれも、大なり小なり損傷を受けていたのだが、たとえこれを修復しても、艦の戦術統合システムはサイドゥ家のものであって、ウォーダ軍のそれとは規格が違う。これらの艦を修復した上で、戦術統合システムなどを、ウォーダ軍のものに書き換えるとなると、前にも述べたようにコストパフォーマンスが悪すぎる。
そこでこれら旧サイドゥ家の宇宙艦は、僅かな修理で行動可能な艦を含め、全ての廃棄を決定していたのだが、そこにギルターツとカルツェ支持派が目を付けたのであった。
これも前にドルグ=ホルタが口にした通り、ガランジェットが属する『アクレイド傭兵団』は大きな組織であり、独自の艦隊戦力まで有している。ただその艦隊戦力というのが、各星大名家で廃棄された宇宙艦を再利用したものだった。
ギルターツとミーグ・ミーマザッカ=リン達カルツェ支持派が、ガランジェットを雇ったのは、この旧サイドゥ家の廃棄予定艦を、『アクレイド傭兵団』に供与する事を条件としてだったのである。その艦の数は約三十。応急修理を済ませて、すぐにオ・ワーリ=シーモア星系を離脱、途中で惑星バサラナルムに立ち寄ってノア姫らをギルターツに渡す…それが、引き渡し艦隊の予定航路だ。
「これだけの艦を手土産に戻りゃあ、俺も晴れて『アクレイド傭兵団』の幹部に、昇格というワケにございますよ」
粘着質の笑みを浮かべたガランジェットが、得意げに言い放つ。それを聞いてノアは、キリリ…と奥歯を噛み鳴らした。
▶#08につづく
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