銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第7話:失うべからざるもの

#14

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 常日頃から傍若無人、天衣無縫を演じるノヴァルナだが、それは人一倍強い感受性を覆い隠す鎧でもあった。

 後見人セルシュ=ヒ・ラティオは、ノヴァルナの『センクウNX』と、前イマーガラ家宰相セッサーラ=タンゲンのBSHO『カクリヨTS』の戦いで、感情的になって罠に落ち、危うく殺されかけたノヴァルナを庇って命を落とした。

 ノヴァルナは自分の感情に任せた行動で失敗し、ノアと同じ存在の“失うべからざるもの”を失ってしまったのである。



“ムカつくヤローだ、サンザーのヤツは!…”



 なにも今、こんなとこでセルシュの爺の話を、持ち出さなくてもいいじゃないか…と、心の一部で腹を立てながらも、ノヴァルナは冷静に自分がしようとしていた事を振り返った。

 サンザーは豪勇を持って鳴る武将だが、決して無神経な男ではない。それがあえてノヴァルナの心の傷に触れるような言葉で諫めたのは、誤った判断に基づいて、自ら『センクウNX』で出撃しようとしていると見抜いたからだ。

 ノヴァルナが初手から『センクウNX』で戦場に出る事は、これまで何度もあった。ただそれは、のこのこ戦場に出て来たノヴァルナを、いくさを知らぬ“大うつけ”と侮る敵に対し、自分自身を囮にして有利な状況へ持ち込む、誘引戦術だったのである。

 ところが今回はノアを助けたいという気持ちが先走り、誘引戦術ではなく、自分が先頭切ってモルザン艦隊に突っ込んで行き、速攻でシゴア=ツォルドの座乗艦を叩く算段だった。敵の半分の戦力しかない状況で、やっていい戦い方ではない。

 状況はセルシュを死なせた『恒星ムーラルの戦い』と似ている。敵の罠に落ちた今、戦術も何もないままに感情に任せて戦っては、ノアという“失うべからざるもの”を再び失う可能性が高い。自分がここで敗北しては全てが無になる。降伏すればカルツェは自分を生かそうとするだろうが、ミーマザッカあたりはどさくさ紛れに殺しに来るだろう。

 そういった事も全て踏まえ、サンザーは直接ノヴァルナに会いに来て、ノヴァルナが怒り出すような諫言を吐いたのだ。BSIの訓練教官だったサンザーだからこそ、ノヴァルナの扱い方を心得ており、自分を見失っているこんな時は、一度怒りの炎に油を注いでしまった方が良いという考えである。
 もっとも、これはサンザーにノヴァルナが一目置いているからであり、雑用係のトゥ・キーツ=キノッサなどがこんな事を言おうものなら、即座にぶん殴られているだろうが。
 
 ノヴァルナは、ふーっ!と鼻息も荒く、肩で息をすると腕組みをし、司令官席の背もたれに上体を預けた。

「おまえの言う通りだ、サンザー。おかげで頭が冷えた」

 自分の手の届かない場所で、ノアに迫る危機を想えば胸が痛む、心がきしむ…しかし自分を見失っては、助けられるものも助けられなくなる。ひねくれ者のノヴァルナだが、物分かりが悪いわけではない。「恐れ入ります」と頭を下げるサンザーに、ノヴァルナは尋ねた。

「んで、俺にどうしろと?」

「殿下にご出撃の機会は必ず参ります。今しばらく艦隊の指揮に専念し、その時までご自重ください」

「つまりは、主役は後からやって来るって寸法か!?」

「左様にございます」

 ノヴァルナの口元に不敵な笑みが戻る。茶化してはいるが、気持ちの切り替えが出来たことを示していた。敵がノアを人質に取り、降伏を求めて来るより先に、カルツェを降伏させるのが、唯一の逆転の可能性である事に変わりはない。だからこそ確実に勝利しなければならないのだ。本当にノアを助けたいなら、今はイチかバチかの強引な戦い方をしていい場面ではない。

「わかったサンザー。おまえに任せる。だが俺もいつでも出れるようにしておく。それでいいな?」

「御意。では私は、すぐさま出撃致します」

 一つ頭を下げたサンザーは、きびすを返して艦橋を去ろうとする直前、娘のランと顔を合わせて小さく頷いた。“ノヴァルナ様を頼むぞ”という無言の合図である。

 サンザーも周到なもので、総旗艦『ヒテン』のドッキングベイ内に着艦させた、『レイメイFS』はアイドリング状態のままであった。コクピットに乗り込むと、文字通り即座に機体を発進させる。そして宇宙空間に出ると、第4航宙戦隊旗艦に連絡を入れた。

「こちらカーナル・サンザー=フォレスタ。4航戦、俺の小隊を発艦させろ」

 そう言い終えると、サンザーは全周囲モニターの右前方で二つ、三つと小さな光が輝くのを視認する。モルザン艦隊を発見して通報して来た前哨駆逐艦が、追撃を受けているのだろう。

これも“ごう”というものであろうか―――

 とサンザーは思う。モルザン星系恒星間打撃艦隊は、猛将ヴァルツ=ウォーダのもと、ウォーダ家最強と呼ばれた精鋭部隊である。その最強部隊が敵に回ったというのに、武人としての血がふつふつと沸き立って来るのを感じてしまうのだ。そこにサンザーが司令官を務める第6艦隊から連れて来た、直轄のBSIユニット一個小隊十二機が合流して来る。

「よし。4航戦のBSI部隊の動きと連動して、敵艦の行き足を止める。全機、我に続け!」

 そう命じたサンザーのBSHO『レイメイFS』は、バックパック左横のウエポンラックから大型十文字ポジトロンランスを手に取ると、敵艦隊に向かって一気に加速して行った………




▶#15につづく
 
 
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