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第6話:駆け巡る波乱
#13
しおりを挟む「馬鹿っ!!!!」
そして三日後…キオ・スー城へ生還を果たしたノヴァルナを待っていたのは、ノア・ケイティ=サイドゥの詰り声である。
「いやいやいや…バカはねーだろーよ?」
城のシャトルポートまで出迎えに来て、愛しい婚約者に労いの言葉をかけてくれると思いきや、いきなり怒られたノヴァルナだった。呆気に取られて怒り返す気にもならず、どこか間の抜けた口調で問いかける。
「だったら何なの、その恰好?」
ノアがそう指摘したノヴァルナの姿は、ボロボロだった。紫紺の軍装は上着を羽織る形にしているが、その下はサーボモーター付きの補助フレームを、左半身に固定していたのだ。重傷だった。左腕と左脛、左の二本の肋骨が折れており、本当は補助フレームがなければ、歩く事も出来ない状態なのである。
「治癒パッドと組織再生ビームの照射で、二日もありゃ治るって」
「そういう問題じゃないでしょ!?」
まるで出逢った頃のような、間髪入れず言い返して来る、とげとげしいノアの物言いに、ノヴァルナはやれやれ…といった表情になった。
“こりゃあヤベぇ。ノアの奴、マジで怒ってんな…”
あの頃はすぐに何かを言い返しては、口喧嘩に発展させていたが、今はノヴァルナも学習していた。「わかった、悪かったって」と詫びの言葉を口にする。
原因はやはり、最後に転移して来たドゥ・ザン軍の駆逐艦を救援するため、ノヴァルナ自ら敵部隊に突っ込んで行ったためだ。
駆逐艦に向かった直後、電子妨害フィールドが無効化され、あとに従った『ホロウシュ』達と共に、照準センサーの機能が回復した敵から集中攻撃を受けノヴァルナの『センクウNX』は左半身が大破。
『ホロウシュ』の機体もほとんどが損害を被り、さらにそこへ駆け付けて来たサンザーの小隊と、追いついたゼノンゴークの再戦が発生。半身を大破したノヴァルナの『センクウNX』を守ろうとして、サンザーまでが左脚大腿部骨折の重傷を負うに至ったのだった。
「だけどよ、駆逐艦一隻とは言え、見捨てるわけにいかなかったんだから、しょうがねーだろよ」
弁解がましく言うノヴァルナ。だがそれこそが余計な一言だったようだ。「全然わかってないじゃない!」と詰め寄るノア。
「駆逐艦一隻であっても、見捨てない姿勢は立派だと思うわよ。それに関しては、褒めてあげるわよ。だけど違うじゃない! 星大名家当主のあなたが、自分一人で突っ込んで行っていい話じゃないでしょ!?…あなたにもしものことがあったら、駆逐艦一隻分以上に、キオ・スー家の人々が路頭に迷うのよ!!」
「う……」
理屈立てて説教されると、感性だけで敵に突っ込んで行ったノヴァルナには、ぐうの音も出ない。ただその反面、ノヴァルナはノアの言葉の裏にある、葛藤を感じ取っていた。これも戦場での駆け引きのようなものだ。
「アッハハハハハ!!」
高笑いを発したノヴァルナは、直後に笑顔を苦笑いに変え、左の脇腹を手で押さえて「いててててて…」と呻くと、いきなりの高笑いに驚いたノアの腰にその手を回し、グイッ!と抱き寄せた。そして不意を突いて、皆の前でノアの唇を奪う。
「おうっ…」
突然の出来事に、シャトルポートにいたノヴァルナの家臣達が、一斉に目を丸くして声を漏らし、脈絡もなく衆目の前でノヴァルナに口づけされたノアは、真っ赤な頬になってノヴァルナの顔を引き剥がした。
「なな、なっ!…なにするのよっ!!!!」
反射的にノヴァルナの頬に、平手打ちを喰らわせようとするノア。しかしノヴァルナは、そんなノアの手首を掴み取り、脇腹の痛みに顔をしかめながらも、笑顔で優しく告げた。
「いてててて…ありがとな、ノア」
「え…?」
ノヴァルナの感謝の言葉の意味は、ノアの怒る暮らす理由が、ノヴァルナの家臣達と、オ・ワーリ宙域に民を慮っての事だったからだ。たぶん…いや、確実にノアは、ノヴァルナが惑星ラゴンへ帰るまでの間、父ドゥ・ザンと母オルミラの訃報を聞いて、一人で泣きはらしていたに違いない。
さらにノヴァルナ達までが、無理をして重傷を負ったという報告が続いては、ノアの気の揉みようは如何ばかりであったか。
だがそのような心理の中で、帰って来たノヴァルナに対し、ノアがまず取った行動が、笑顔で出迎えるのでも泣き顔で抱きつくのでもなく、過ぎた無茶を諫める事であった。負傷しながらも帰って来てくれた安堵や、父親と母親を失った悲しみといった私情よりも、星大名家当主の妻になる身として、ノヴァルナを支える事を優先してくれたのである。それが分かるノヴァルナだったからこそ、ノアに感謝の口づけをしたというわけだ。
「ウチの家臣やキオ・スーの連中の事を、第一に考えてくれたからさ」
普段はひねくれ者のノヴァルナに素直に言われると、ノアもつい甘くなってしまう。視線を逸らせて「分かってるなら、もうこんな無茶はしないでよ…」と、不貞腐れたように告げた。
とは言え、ノアは理解していた。「おう。わかった」と応じるノヴァルナだが、どうせ今回と同じような状況になれば、また自分から敵に突っ込んで行くであろう事を。なぜならノア自身、皇国暦1589年のムツルー宙域へ飛ばされた時、そうやって無茶をしたノヴァルナに命を救われたからである。自分が愛してしまったのは、そんな若者なのだ。
そしてそのままキオ・スー城の医療区画にノヴァルナが収容され、病室で再生治療の続きが始まると、ノアは片時たりとも、ノヴァルナが身を置いたベッドの側を離れる事は無かった………
▶#14につづく
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