銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
123 / 508
第6話:駆け巡る波乱

#13

しおりを挟む

 
「馬鹿っ!!!!」

 そして三日後…キオ・スー城へ生還を果たしたノヴァルナを待っていたのは、ノア・ケイティ=サイドゥの詰り声である。

「いやいやいや…バカはねーだろーよ?」

 城のシャトルポートまで出迎えに来て、愛しい婚約者に労いの言葉をかけてくれると思いきや、いきなり怒られたノヴァルナだった。呆気に取られて怒り返す気にもならず、どこか間の抜けた口調で問いかける。

 
「だったら何なの、その恰好?」

 ノアがそう指摘したノヴァルナの姿は、ボロボロだった。紫紺の軍装は上着を羽織る形にしているが、その下はサーボモーター付きの補助フレームを、左半身に固定していたのだ。重傷だった。左腕と左脛、左の二本の肋骨が折れており、本当は補助フレームがなければ、歩く事も出来ない状態なのである。

「治癒パッドと組織再生ビームの照射で、二日もありゃ治るって」

「そういう問題じゃないでしょ!?」

 まるで出逢った頃のような、間髪入れず言い返して来る、とげとげしいノアの物言いに、ノヴァルナはやれやれ…といった表情になった。

“こりゃあヤベぇ。ノアの奴、マジで怒ってんな…”

 あの頃はすぐに何かを言い返しては、口喧嘩に発展させていたが、今はノヴァルナも学習していた。「わかった、悪かったって」と詫びの言葉を口にする。

 原因はやはり、最後に転移して来たドゥ・ザン軍の駆逐艦を救援するため、ノヴァルナ自ら敵部隊に突っ込んで行ったためだ。

 駆逐艦に向かった直後、電子妨害フィールドが無効化され、あとに従った『ホロウシュ』達と共に、照準センサーの機能が回復した敵から集中攻撃を受けノヴァルナの『センクウNX』は左半身が大破。
 『ホロウシュ』の機体もほとんどが損害を被り、さらにそこへ駆け付けて来たサンザーの小隊と、追いついたゼノンゴークの再戦が発生。半身を大破したノヴァルナの『センクウNX』を守ろうとして、サンザーまでが左脚大腿部骨折の重傷を負うに至ったのだった。

「だけどよ、駆逐艦一隻とは言え、見捨てるわけにいかなかったんだから、しょうがねーだろよ」

 弁解がましく言うノヴァルナ。だがそれこそが余計な一言だったようだ。「全然わかってないじゃない!」と詰め寄るノア。

「駆逐艦一隻であっても、見捨てない姿勢は立派だと思うわよ。それに関しては、褒めてあげるわよ。だけど違うじゃない! 星大名家当主のあなたが、自分一人で突っ込んで行っていい話じゃないでしょ!?…あなたにもしものことがあったら、駆逐艦一隻分以上に、キオ・スー家の人々が路頭に迷うのよ!!」

「う……」

 理屈立てて説教されると、感性だけで敵に突っ込んで行ったノヴァルナには、ぐうの音も出ない。ただその反面、ノヴァルナはノアの言葉の裏にある、葛藤を感じ取っていた。これも戦場での駆け引きのようなものだ。

「アッハハハハハ!!」

 高笑いを発したノヴァルナは、直後に笑顔を苦笑いに変え、左の脇腹を手で押さえて「いててててて…」と呻くと、いきなりの高笑いに驚いたノアの腰にその手を回し、グイッ!と抱き寄せた。そして不意を突いて、皆の前でノアの唇を奪う。

「おうっ…」

 突然の出来事に、シャトルポートにいたノヴァルナの家臣達が、一斉に目を丸くして声を漏らし、脈絡もなく衆目の前でノヴァルナに口づけされたノアは、真っ赤な頬になってノヴァルナの顔を引き剥がした。

「なな、なっ!…なにするのよっ!!!!」

 反射的にノヴァルナの頬に、平手打ちを喰らわせようとするノア。しかしノヴァルナは、そんなノアの手首を掴み取り、脇腹の痛みに顔をしかめながらも、笑顔で優しく告げた。

「いてててて…ありがとな、ノア」

「え…?」

 ノヴァルナの感謝の言葉の意味は、ノアの怒る暮らす理由が、ノヴァルナの家臣達と、オ・ワーリ宙域に民を慮っての事だったからだ。たぶん…いや、確実にノアは、ノヴァルナが惑星ラゴンへ帰るまでの間、父ドゥ・ザンと母オルミラの訃報を聞いて、一人で泣きはらしていたに違いない。

 さらにノヴァルナ達までが、無理をして重傷を負ったという報告が続いては、ノアの気の揉みようは如何ばかりであったか。

 だがそのような心理の中で、帰って来たノヴァルナに対し、ノアがまず取った行動が、笑顔で出迎えるのでも泣き顔で抱きつくのでもなく、過ぎた無茶を諫める事であった。負傷しながらも帰って来てくれた安堵や、父親と母親を失った悲しみといった私情よりも、星大名家当主の妻になる身として、ノヴァルナを支える事を優先してくれたのである。それが分かるノヴァルナだったからこそ、ノアに感謝の口づけをしたというわけだ。

「ウチの家臣やキオ・スーの連中の事を、第一に考えてくれたからさ」

 普段はひねくれ者のノヴァルナに素直に言われると、ノアもつい甘くなってしまう。視線を逸らせて「分かってるなら、もうこんな無茶はしないでよ…」と、不貞腐れたように告げた。

 とは言え、ノアは理解していた。「おう。わかった」と応じるノヴァルナだが、どうせ今回と同じような状況になれば、また自分から敵に突っ込んで行くであろう事を。なぜならノア自身、皇国暦1589年のムツルー宙域へ飛ばされた時、そうやって無茶をしたノヴァルナに命を救われたからである。自分が愛してしまったのは、そんな若者なのだ。

 そしてそのままキオ・スー城の医療区画にノヴァルナが収容され、病室で再生治療の続きが始まると、ノアは片時かたときたりとも、ノヴァルナが身を置いたベッドの側を離れる事は無かった………




▶#14につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...