銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第6話:駆け巡る波乱

#09

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 イクマの機体が作り出した電子妨害フィールドに踏み込んだ敵機は、みな同様に電子障害を受けて、不利な状況へ追いやられた。

「数はこっちが劣勢だからな! せいぜいアドバンテージを頂くとするぜ!」

 立て続けに超電磁ライフルのトリガーを引く、ノヴァルナの『センクウNX』。敵の機体は電子妨害フィールドのため、ロックオン警報が鳴らない。目標の位置を確認しようとするうちに、敵機は次々に撃破される。

「くそ! 照準センサーが使えんなら、接近戦だ!」

 複数のイースキー家BSIユニットと、ASGULのパイロットがそう判断し、ポジトロンパイクとポジトロンランスを構えた。

「狙うはノヴァルナの機体だ。信号弾!」

 ノヴァルナ機を補足した、イースキー家の編隊長の一人が部下に命じる。電子妨害フィールド内で近接センサーと通信機器に障害を喰らって、まともな通信が不可能となっているため、光学信号弾でノヴァルナの位置を知らせるのだ。

 その命令に部下のASGULが、真っ赤に輝く信号弾を三つ、暗黒の宇宙に射出する。だがその命令を発した編隊長は、急進して来たラン・マリュウ=フォレスタの『シデンSC』が握るポジトロンパイクで、一瞬のうちに両断された。

 さらに信号弾を見て、ノヴァルナ機に接近しようとする敵機群を、他の『ホロウシュ』の機体が狙撃する。そうなると今度は、敵の半数近くがそちらに引き付けられて、コースを変更した。電子妨害フィールド内でイースキー家の機体は分散し、容易に各個撃破されてゆく。

「アッハハハ! どうしたイースキー家! ガキの使いレベルかよ!!」

 電波障害の少ない全周波数帯で敵に対し、高笑いと共に挑発的な言葉を投げかけるノヴァルナ。それを傍受した敵がいきり立って突っ込んで来るが、ノヴァルナを警護するササーラとランの『シデンSC』の餌食になるばかりだ。

 連続して爆散するイースキー家の機体に、ギルターツの怒声が上がった。

「ええい、電子戦担当艦は何をしている! 敵の妨害フィールドの解析は、まだ終わらんのか!!」

 現代戦では実際の撃ち合いの他に、電子妨害とそれの対抗戦が撃ち合いの前から始まり、交戦中も並行して行われるものである。『ホロウシュ』の新たな電子妨害フィールドも発生直後から、対抗手段のための解析が始まっていたのだが、それが捗っていない。

「それが…敵電子戦機のECMスキャンのランダムコードが、戦艦並みに複雑でして、現在毎秒65882通りの量子カウントアクセスを試みておりますが、今しばらくは無理かと…」

 情報参謀の弁解に、ギルターツの怒りが増す。

「そんな事はよい! 無効化までどれぐらい時間が掛かるのだ!」

「あ…あとニ十分ほどは…」

「遅い!!!!」

 ギルターツの怒りを鎮めるかのように、転移に同行して来たリーンテーツ=イナルヴァが通信を入れて意見具申する。

「ギルターツ様、ここは宙雷戦隊をノヴァルナ殿のBSI部隊に向けて、突撃させるべきではないかと」

「む…どういう事だ?」

 イナルヴァの意見具申は、戦闘のセオリーに反するものだった。BSI部隊は元来、戦艦部隊を狙う宙雷戦隊の排除も主要な任務である。だがイナルヴァは逆に、宙雷戦隊でBSI部隊に対抗させようと言うのだ。

「多数の艦を一斉突撃させて、敵機の間の連携を乱すのです。駆逐艦の機動性と迎撃砲火で、こちらのBSI部隊を援護する作戦です」

「わかった、指揮は任せる。やってみせろ」

「御意!」

 通信を終えたイナルヴァは、ノヴァルナ艦隊と交戦中の第7艦隊のキーシス、第8艦隊のガイナー、さらに周囲にいる軽巡航艦と駆逐艦に指示を伝えた。
 するとギルターツ艦隊のBSI部隊総監を務める、ヒスルヴォ=ゼノンゴークからイナルヴァのもとに連絡が入る。

「その話、我も乗らせてもらうとしよう」

「ゼノンゴーク。お主、出るつもりか?」

「いや…もう出ておる!」

 その言葉通りゼノンゴークは、操縦するBSHO『ハッケイSV』で、座乗していた空母から発進したところであった。十二機の親衛隊仕様『ライカSC』を従えた『ハッケイSV』の、四つ目のセンサーアイが緑色の光を放つ。
 それに加えて、各部隊から抽出した臨時宙雷艦隊の、軽巡16、駆逐艦57が、ノヴァルナのウイザード中隊へ向けて群がって行った。

「なんだ、こいつぁ!?」

 ノヴァルナ側でその臨時宙雷艦隊の接近に気付いたのは、『ホロウシュ』のサーマス=トゥーダだった。長距離センサーが、少数ずつ固まってこちらに向かって来る艦の群れを、一遍に映し出したのである。

「軽巡級や駆逐艦級のふねが、こっちに突っ込んで来るぜ!」

 トゥーダが怪訝そうに言うと、傍らで敵機を狙撃した、同じ小隊のガラク=モッカが振り向いて応じる。

「は? そんな事あるか」

 モッカの疑念も当然だ。通常の戦闘なら軽巡や駆逐艦は、BSI部隊に対し回避運動を取りつつ迎撃という動きが常識だからだ。だがその直後、『ホロウシュ』全体の指揮を執っているヨヴェ=カージェスが、敵の意図に気付いて警告を発した。

「全機警戒! 敵艦の襲撃に備えろ!!」

 その言葉が終わると同時に、突撃して来る敵艦の中の数隻が、迎撃誘導弾を連続発射した。




▶#10につづく
 
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