108 / 508
第5話:燃え尽きる夢
#21
しおりを挟むBSIユニットの通常装備では、超電磁ライフルで余程大量の対艦徹甲弾を撃ち込みでもしない限り、重巡航艦以上の大型艦を破壊にまで至らしめるのは難しい。
だが宇宙魚雷と同じ反陽子弾頭の、対艦誘導弾を装備した場合は、事情はまた異なる。
「大型艦の足を止め、しかるのちに軽巡以下の敵艦を叩く。全機かかれ!」
対艦部隊の指揮官が命じると、迎撃誘導弾の攻撃から生き残ったBSI部隊は、一斉に敵艦への襲撃行動に移った。ただ今度は、各艦がCIWS(近接迎撃兵器システム)のビーム砲を、激しく撃ち放ち始める。
自分の身の安全を考えるなら、距離を取って対艦誘導弾を放てばよいのだが、そうすると今度は、誘導弾が迎撃される確率が上がる事になる。
ビーム兵器と射撃照準センサーの技術の発達以来、昔の水上戦闘のような遠距離からの誘導弾飽和攻撃は、通用しなくなっていた。その結果、有効な攻撃手段は一周回ってさらに大昔の、航空機による高機動の肉迫雷撃や、急降下爆撃といったものへ戻っている。誘導弾の誘導機能は、命中までの僅かな時間の補正作業に使用されるだけだ。
思い思いの襲撃コースで敵艦に迫ってゆく、ドゥ・ザン軍のパイロット達。ここで一人のASGULパイロットの様子を見た。
青い曳光粒子を帯びたCIWSの迎撃ビームが幾つも、コクピットの全周囲モニターを猛然と掠め過ぎ去る。ヘルメットの中にロックオン警報が鳴り続け、恐怖と隣り合わせの状況で、回避のため機体を上下左右に揺さぶるパイロット。怯懦に囚われ、一瞬でも操縦に遅れが出れば、それが死神の抱擁を誘う事になる。
次の瞬間、左隣を飛ぶ僚機のASGULが、ビームを喰らって火球と化した。破片を撒き散らしながら散華する仲間を、感情を押し殺した目で一瞥する。それよりも目指す敵の戦艦は目前だ。大型艦を狙う時の最大の障害は、遠隔可動式のエネルギーシールドパネル、アクティブシールドだが、今は幸いな事に、全てのアクティブシールドが前方を向いている。味方の戦艦群からの主砲射撃が激しく、そちらにアクティブシールドを回すので精一杯だからである。
やがて射点が近付き、眼前の照準センサーのホログラムスクリーンが、縦にクルリと一回転。裏返って対艦攻撃用画面に切り替わる。オートモードにしているために、火器セレクターも自動的に対艦誘導弾を選択した。射点までは六十秒。発射諸元を再確認。その直後に、機体ギリギリを敵戦艦からのビームが通過し、コクピット全体が青い光に覆われる。
だがどれほど至近距離をビームが通り過ぎても、気にしている余裕は無い。射点まで三十秒、攻撃艇形態のASGULはNNLのサイバーリンク機能がほとんど使用されないため、視覚と聴覚と反射神経が忙しい。
照準センサーのホログラム画面全体に、敵戦艦の横腹が映し出された。狙うのは片舷に二基並んだ重力子推進機の間だ。半透明の“〇”と“+”を組み合わせた照準マーカーが赤く点滅、ロックオンを完了する。
しかし本当に緊迫するのは、ここからの短い時間だ。誘導弾発射の瞬間、僅かな間に行う直線飛行が生死を左右する。敵も一番狙い易い瞬間だからである。恐れていた通り、今度は右斜め前方を進んでいた、何処か別の隊のASGULが、敵弾を受けて爆散した。
すると次の刹那、自分の機体もガシャン!という衝撃を受ける。敵のビームが機体の下部をえぐったのだ。ヘルメット内に流れる被弾警報音。モニター画面にコクピットブロックの回転機能を喪失し、人型に変形が出来なくなったという、自己診断システムからの報告が表示される。
その程度なら御の字だと自分に言い聞かせ、素早く軌道を補正して誘導弾を発射した。大気中の戦闘ではないため、機体が軽くなったように感じる事は無いが、軽く下から突き上げられる感触はある。すぐさま機体をひねって新たな回避運動に入ると、照準センサー妨害用の電磁チャフを機体後方から噴出させ、一気に速度を上げる。音も震動も伝わる事の無い宇宙空間の戦闘、ただ射撃センサーのホログラム画面には、“誘導弾命中”という戦果報告の表示が点滅していた………
▶#22につづく
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
空色のサイエンスウィッチ
コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』
高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》
彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。
それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。
そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。
その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。
持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。
その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。
そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。
魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。
※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。
※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。
※2022/10/25 完結まで投稿しました。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
融合大陸(コンチネント・オブ・フュージョン)メカガール・コーデックス
karmaneko
SF
融合大陸(コンチネント・オブ・フュージョン)において機械文明は一定の地位を確立している。その地位の確立に科学力と共に軍事力が大きく影響することは説明するまでもないだろう。
本書ではその軍事力の中核をなす人型主力兵器についてできうる限り情報を集めまとめたものである。
戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~
川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる
…はずだった。
まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか?
敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。
文治系藩主は頼りなし?
暴れん坊藩主がまさかの活躍?
参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。
更新は週5~6予定です。
※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。
フィーバーロボット大戦~アンタとはもう戦闘ってられんわ!~
阿弥陀乃トンマージ
SF
時は21世紀末……地球圏は未曾有の危機に瀕していた。人類は官民を問わず、ロボットの開発・研究に勤しみ、なんとかこの窮地を脱しようとしていた。
そんな中、九州の中小企業である二辺工業の敷地内に謎の脱出ポッドが不時着した……。
爆笑必至の新感覚ロボットバトルアクション、ここに開戦!
聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。
「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」
と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。
鋼月の軌跡
チョコレ
SF
月が目覚め、地球が揺れる─廃機で挑む熱狂のロボットバトル!
未知の鉱物ルナリウムがもたらした月面開発とムーンギアバトル。廃棄された機体を修復した少年が、謎の少女ルナと出会い、世界を揺るがす戦いへと挑む近未来SFロボットアクション!
『エンプセル』~人外少女をめぐって愛憎渦巻く近未来ダークファンタジー~
うろこ道
SF
【毎日20時更新】【完結確約】
高校2年生の美月は、目覚めてすぐに異変に気づいた。
自分の部屋であるのに妙に違っていてーー
ーーそこに現れたのは見知らぬ男だった。
男は容姿も雰囲気も不気味で恐ろしく、美月は震え上がる。
そんな美月に男は言った。
「ここで俺と暮らすんだ。二人きりでな」
そこは未来に起こった大戦後の日本だった。
原因不明の奇病、異常進化した生物に支配されーー日本人は地下に都市を作り、そこに潜ったのだという。
男は日本人が捨てた地上で、ひとりきりで孤独に暮らしていた。
美月は、男の孤独を癒すために「創られた」のだった。
人でないものとして生まれなおした少女は、やがて人間の欲望の渦に巻き込まれてゆく。
異形人外少女をめぐって愛憎渦巻く近未来ダークファンタジー。
※九章と十章、性的•グロテスク表現ありです。
※挿絵は全部自分で描いています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる