銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第5話:燃え尽きる夢

#02

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 以前にも述べた通り、カルティラ=ウォーダとマドゴット・ハテュス=サーガイの出逢いはおよそ二年前。遠征で留守がちなヴァルツ=ウォーダが、出陣中に政治的バックアップをしてくれていた、妻のカルティラを補佐させるため、文官のマドゴットを補佐官として与えたのが始まりだった。

 この頃のヴァルツは、兄のヒディラス・ダン=ウォーダの勢力伸長に伴う、敵対勢力との攻防が最盛期を迎えており、それに従って領地モルザン星系を離れる事が、日常茶飯事であった。
 取り残される形となったカルティラは、当時三十歳を越えたばかりの女盛り、一方そんなカルティラの、公私に渡る相談相手となっていたマドゴットは二十代半ばを迎えたばかりの美しい青年。元来が奔放な性格であったカルティラが、マドゴットとそのような間柄になるまで、そう時間はかからなかったようである。

 二人の密会は、カルティラの侍女達の手引きもあって、夫のヴァルツはもちろん、他の誰にも知られる事なく続いた。

 だがそんな関係も二年も続けば、互いの意識に齟齬が生じて来る。

 カルティラのマドゴットに対する愛情は限定的なもので、都合のいい時に密かに会って肌を重ねる…つまり火遊びであり続けたのに対し、若いマドゴットの方は次第に独占欲を募らせていったらしい。
 またカルティラもマドゴットの気持ちの変化に気付き、それを重く感じるようになっていった。しかしそういった反面、カルティラの中にもマドゴットを求めてしまう思いは存在し続け、漫然とした関係となったまま、やがてヴァルツはノヴァルナにその功を認められ、新生キオ・スー=ウォーダ家の副将格の地位と、三つの植民星系、そしてナグヤ城を与えられて惑星ラゴンに住む事となった。

 カルティラはこれを、マドゴットとの距離を置くいい機会と捉え、惑星モルゼナに残したままで、自分の好きな時にだけ惑星モルゼナへ会いに行けるよう、自分のコントロール下に置こうとした。これにはマドゴットを連れていき、慣れないナグヤ城で纏わり付かれては、二人の関係が露見する恐れがあったというのも理由の一つだったようである。

 しかしナグヤ城に入ったカルティラは、そこに待っていたオ・ワーリ宙域首都惑星の社交界が放つ、想像以上の華やかさに瞬く間に虜になり、マドゴットとの密会をさほど必要としなくなった―――そこからが真の悲劇のはじまりだったのだ。

 引き続き政務補佐官として惑星ラゴンへ同行させてもらえるよう、カルティラに何度も願い出ていたにも関わらず、モルザン星系に置き去りにされたマドゴットは、ひと月以上もカルティラから連絡がない事に業を煮やし、ヴァルツ=ウォーダが艦隊を率いて惑星ラゴンを離れている間に、長期休暇を取って惑星ラゴンを訪れた。

 その目的は無論カルティラに会って、真意を詰問するためである。そこから先は前述の通り、惑星モルゼナからの出張を装って自分の前に現れたマドゴットを、カルティラは自分の居住区に招き入れ、これまでが上手くいっていたように、今回も自分の肉体を使って篭絡した。
 しかしそれに対し今回はマドゴットにも策があった。二人が肌を重ね合っている間に、持ち込んだトランクの中から、小さな羽虫型の盗聴・監視ロボットが多数飛び立って、居住区じゅうに分散して潜んだのである。諜報部が使用する軍用のものであり、1センチにも満たない大きさだが性能は高い。

 果たしてその数日後、ナグヤ城でカルティラが主催したダンスパーティーに、夫のヴァルツが突然現れた。ヴァルツは、カーネギー=シヴァをライアン=キラルークとの会見へ連れて行くため、領地を留守にしたノヴァルナに対し、敵対するイル・ワークラン家が動き出した場合に備え、第4艦隊を率いてオ・ワーリ=シーモア星系外縁部まで進出していたのだ。

 ところがその直後、イル・ワークラン家で、約半年前にクーデターによって当主となったカダール=ウォーダが、家臣達の粛清を始めたとの情報が入って来た。

 前当主ヤズル・イセス=ウォーダの暗愚な統治に不満を持っていた重臣達から、担ぎ上げられる形でクーデターを起こし、その座に就いたカダールだったが、その短絡的思考が早くも一部の家臣達から反発を招く事になった。これに対しカダールは自分に従う者、つまりイエスマンで周囲を固め、批判的な者を追放、さらに危険な実力者は冤罪まがいの不正追及の末に極刑にするという暴虐ぶりを見せた。

 これによって大混乱を引き起こしたイル・ワークラン家は、当然の事ながらキオ・スー家への軍事行動など取れるはずもなく、彼等に備えていたヴァルツも、艦隊を待機させておく必要はなくなり、惑星ラゴンに帰還したのあった。

 そしてラゴンへ帰還したヴァルツは、ちょうど金融業と植民惑星開発業のトップを招いてダンスパーティーを開催していた、妻のカルティラと合流したのである。




▶#03につづく
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