銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第4話:忍び寄る破綻

#18

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 ところが、残りのノヴァルナ艦隊は姿を見せない。十分…二十分と時間が経つが、他の前哨駆逐艦からも連絡はない。あと二十分もすればゾーン5を縦断してしまう。これはおかしいと感じたシェイヤは、唯一発見した敵の反応を付けている前哨駆逐艦の『アヴェンドゥ』に、速度を上げて接近し、反応源の正体を確認するよう命じた。

「なに!? デコイ(囮)の無人艇だと!?」

 駆逐艦『アヴェンドゥ』からの報告を受け、シェイヤ艦隊の参謀長は顔をしかめた。ノヴァルナ艦隊側の前哨駆逐艦だと思っていた反応は、こちらの長距離センサーに駆逐艦サイズの反応が出るように被補足データを細工した、自動操縦の攻撃艇だったのだ。しかも『アヴェンドゥ』の接近を感知した無人艇は、全方位に警報の信号を発信し始めたとの報告である。

「全艦に警戒警報。敵の襲撃に備えよ!」

 参謀長が声を上げ、オペレーターに命令を発した。ノヴァルナ艦隊はゾーン5の中ではなく、周囲の星雲内に潜んでいる可能性が高くなったからだ。こちらが痺れを切らして無人艇に接近し、警報を出すのを待っていた恐れがある。そこで参謀長は、さらにシェイヤに尋ねた。

「通信封鎖を解除し、他の艦隊に知らせますか?」

 それに対しシェイヤは、落ち着いた表情で応じる。

「いや。ノヴァルナ殿の艦隊が実際に現れてからでよろしい。向こうに先手を取らせてからでも、充分対処出来る」

 とは言えシェイヤも内心では苦虫を噛み潰していた。今回の“合同演習”で表向きに想定していた、タ・クェルダ家とウェルズーギ家のガルガシアマ星雲会戦では、無人艇を囮にする戦法はすでに陳腐な手となっていたからだ。そんな手に引っかかったのであれば、ノヴァルナにからかわれたような気分にもなろうというものだ。

「ともかくこのまま直進。ゾーン5を出る針路を維持」





 一方、惑星ウノルバ。カーネギー姫とライアン=キラルークの会見は、段取り通りに進行している。今は双方が連れて来た側近同士が向かい合って、友好協定に付帯する事項を述べあっていた。
 その両家を見渡す中間の位置に座るイマーガラ家当主のギィゲルトも、隣に座るキオ・スー=ウォーダ家の外務担当家老、テシウス=ラームと幾つかの条件を確認中だ。どちらもシヴァ家とキラルーク家を庇護下に置いているのであるから、こちらのやり取りの方が実効性がある。

 しかしながらテシウスと話すギィゲルトの言葉に、おざなり感があるのも否めないところだ。なぜなら今頃は、宰相シェイヤ=サヒナンがロンザンヴェラ星雲で、ノヴァルナをたおそうとしているはずだからである。

 誰が聞いても本当の戦闘になる事が、あからさまな合同演習。シェイヤ対ノヴァルナだけであれば、ノヴァルナ側にも勝ち目があるため、ギィゲルトとしても不安もある。しかし実際には後詰のオガヴェイ艦隊も含め、七対一なのだ。シェイヤと精鋭ぞろいのイマーガラ軍であれば、必ずやノヴァルナを仕留めるだろう。

 そのあとは…実のところギィゲルトは、あとの事などどうでも良かった。ノヴァルナさえいなくなれば、卑怯だの仇を討つだのとキオ・スー=ウォーダ家がどう喚いても、国力的にイマーガラ家に敵うわけが無いからだ。

 それどころか反ノヴァルナ派が実権を握れば、かつてセッサーラ=タンゲンが教示してくれたように、イル・ワークラン=ウォーダ家もキオ・スー=ウォーダ家も、恭順を申し出て来るに違いない。彼等にとってもノヴァルナは目障りな存在だからである。そしてノヴァルナがいなくなった方が、今ここで行っているシヴァ家とキラルーク家の友好協定へ向けた取り組みも、意味を成してくるというものだ。

 テシウス=ラームの意見に一つ、二つと穏やかに頷いたギィゲルトは、僅かにテシウスとは反対側―――自分の左側で、空席となっているノヴァルナの椅子を、もはやこの席は永遠に空席よ…と見遣った。



ところが、ノヴァルナ艦隊はゾーン5にはいなかった―――



 ゾーン5の端から雲海の中に戻る際を狙っているのではないかと、前哨駆逐艦を三波に分けて先行させたシェイヤ艦隊だが、やはり何も無い。

 些か拍子抜けしたシェイヤ達だが、すぐさま全軍を投網状の索敵ポジションに戻し、航行を続けて二時間弱。今は艦橋から見る視界全部が、赤い色に染めた積乱雲のような星間ガスで埋め尽くされていた。見ようによっては血の海にも思えて不気味だ。

 旗艦『スティルベート』の艦橋では参謀長が、次の想定座標を告げている。

「ヴァレンミッシ司令の第11艦隊が間もなく、ゾーン3に接近します」

「そこは?」とシェイヤ。

「原始恒星が誕生しつつあり、強い電磁波が観測されています」

 それを聞いて“またか…”という顔をする参謀達。ゾーン3の原始恒星とは、この“合同演習”の開始時にノヴァルナも見ていた、あの原始恒星である。つまり入り口付近まで引き返して来たというわけだ。

「その次は?」とシェイヤ。

「ゾーン7です、宰相閣下。こちらは先ほどのゾーン5と似た、空洞になっていまして、ゾーン5より僅かながら広いようです」

「………」

 思案顔になるシェイヤ。開始地点近くのゾーン3も気になるが、長時間動かずに潜んでいるのは、ノヴァルナの性格には合わないはずで、それよりさっきと同じ空洞構造のゾーン7も方が本命な気がする。
 理由は勘のようなものだが、ゾーン5の中で発見したあの囮の無人艇だ。あれが“この先のもう一つの空き地で待っている”という、果たし状の代わりのような気がするのだ。

“それならそれでいい”

 シェイヤはそう結論付けた。ともかく数で圧倒する作戦に変更はない。

「ゾーン3には足の速い宙雷戦隊を、11艦隊から先行して差し向けなさい。ゾーン7に対しては、さきほどのゾーン5の時と同じ戦法で行きます。全艦隊に前進命令を」

 やがて五百隻を超えるイマーガラ家の宇宙艦隊は、シェイヤの命令に従い、ノヴァルナ艦隊を求めて一斉に加速を開始していった………




▶#19につづく
 
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