65 / 508
第4話:忍び寄る破綻
#01
しおりを挟む「あ?…やなこった!」
それがミノネリラ宙域の新たな支配者を宣言した、ギルターツ=サイドゥ改めギルターツ=イースキーから届いた、ノヴァルナ・ダン=ウォーダへのメッセージを見た当人が発した第一声である。
時は皇国暦1556年4月25日の午後。場所は惑星ラゴン星都キオ・スー市のキオ・スー城、第一会議室。ノヴァルナと、それに従う重臣達が一堂に会していた。
中心に向かって低くなっていく半円形の会議場、その中心に大きく浮かび上がっていたギルターツ=イースキーのホログラムが、メッセージを伝え終えて消滅する。
全員が肩を揺らして困惑のため息を大きくつく中、一番前の席で机の上に両足を投げ出して、行儀悪く聞いていたノヴァルナが発したのが、その「あ?…やなこった」だ。
ギルターツが伝えて来た事は、新キオ・スー=ウォーダ家のサイドゥ家との同盟破棄。ドゥ・ザン=サイドゥの嫡子で、オ・ワーリへ亡命したリカードとレヴァルの引き渡し。そしてドゥ・ザンの娘ノア・ケイティ=サイドゥとノヴァルナ・ダン=ウォーダの婚約解消に、ノアのイースキー家への引き渡しである。
それに加え、キオ・スー=ウォーダ家がこれらの条件を呑むのであれば、イースキー家には不可侵条約を結ぶ用意があるという。だがノヴァルナからすれば、当然、こんな話に乗る気はない。
時間の無駄だったぜ…と言いたげに、面倒臭そうに机から脚を下ろしたノヴァルナは、腕まくりをした紫紺の軍装姿で、おもむろに立ち上がって重臣達に告げる。
「はい。解散、解散っと」
しかし重臣たちの間に、微妙な空気が流れているのも確かだった。自分達が同盟を結んでいるサイドゥ家が、すでにミノネリラ宙域の叛乱集団として扱われ、その勢力も旧トキ家系の家臣の支持を得たイースキー家に対し、かなり劣勢となっているのだ。
弱肉強食の戦国時代にあって、劣勢な相手はたとえ同盟関係にあっても切り捨てるべき…という風潮もあり、サイドゥ家にあまり肩入れし過ぎるのは如何なものか、と考えだしている者もいるに違いない。
何気ない素振りで会議室内をグルリと見渡したノヴァルナは、そういった微妙な空気を一番醸し出しているのが、ミーグ・ミーマザッカ=リンやクラード=トゥズークら、カルツェの支持派が座っている辺りである事に気付いた。“またこいつらか…”と、呆れ顔になるノヴァルナ。
「解散はよろしいのですが―――」
そう声を掛けて来るのは筆頭家老のベアルダ星人、シウテ・サッド=リンである。シウテはノヴァルナが振り向くと、ゆっくりと尋ねた。
「ギルターツ殿からの通信…若殿様はどのように対処なされるおつもりか?」
するとノヴァルナはあっけらかんと言い放つ。
「ほっときゃいいんじゃね?」
それを聞いてシウテは「は?」と声を上げ、目を見開いた。ノヴァルナはシウテに、聞こえなかったのか?…と勘違いした振りをして、とぼけた口調で繰り返す。
「いやだから、ほっときゃいいって」
「ほっと…何もしないのでありますか!?」
「そう言ってるじゃん! だから解散!」
言い捨てて先に会議室をあとにしようとするノヴァルナに、今度は席を立って声を掛ける者がいる。弟カルツェの側近の一人、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータだ。
「お待ちください!」
いよいよ本気で面倒臭そうに振り返るノヴァルナ。
「なんだゴーンロッグ、てめーもか? 俺ァ、腹が減って来てんだが。こないだ、キオ・スー市の新開地に旨いヌードン屋を見つけてなあ、そこに―――」
しかし堅物のシルバータは、ノヴァルナのとぼけた言葉に取り合わず問う。
「ではドゥ・ザン様の方からは、何かお話はあったのですか?」
「いんや。ねーよ」
「では、若殿はドゥ・ザン様に、お味方されるのですか?」
「だ、か、ら、ほっときゃいいって。何度言わせる気だ、てめーらは!」
「ミズンノッド家に対しては信義を通されたのに、今度は放置されると仰せになる?…ご婚約者のノア姫様の、ご実家であらせられるのにですか?」
それを聞いてノヴァルナは、“ああ、そういう事か…”と苦笑いを浮かべた。シルバータが言っているのは、先月、同盟関係にあるミ・ガーワ宙域の独立管領、ミズンノッド家がイマーガラ軍の襲撃を受けた際に、ノヴァルナは“信義を通す”と言って、独断かつ強引にミ・ガーワ宙域の奥まで遠征を行った事だ。その時に比べ、今回のノヴァルナの反応の鈍さに、シルバータは納得出来ないものを感じたのだろう。
そういう律義さは悪くはないが―――会議室の中を出口に向かいながら、ノヴァルナは口元を歪めてシルバータに告げた。
「あん時はあん時、今は今だ。口出し無用だぜ、ゴーンロッグ」
▶#02につづく
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】聖女ディアの処刑
大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。
枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。
「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」
聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。
そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。
ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが――
※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・)
※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・)
★追記
※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。
※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。
※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる