40 / 508
第2話:混迷は裏切りとともに
#19
しおりを挟む結局、降伏勧告の期限日が来ても、市民を盾にしたキオ・スー城に対し、ナグヤ家の宇宙艦隊は艦砲射撃に出る事はなかった。一方キオ・スー側も、自分達が要求した衛星軌道上からの撤退をナグヤ艦隊に無視されても、どうする事も出来ないままだ。
ただ、地上戦の方は、アイティ大陸西海岸に上陸したカッツ・ゴーンロッグ=シルバータのナグヤ地上軍が、キオ・スー側の第二次防衛拠点であるサンノン・グティ市へ進軍、これを奪取する事に成功。首都キオ・スーまで約百キロの位置まで達した。しかしそのナグヤ地上部隊も、市民を閉じ込めたままのキオ・スー市へは攻撃を仕掛けられず、サンノン・グティから先への進撃の足は止まっている。
そのナグヤ側に異変が起きたのは、さらに二日が過ぎた朝の事であった。
キオ・スー家当主ディトモス・キオ=ウォーダが、緊急の呼び出しを受け、太り気味の体を作戦司令室へ運ぶと、司令室の中は騒然としている。オペレーター達が皆、情報の確認作業に追われている様子だ。巨大な戦術状況ホログラムには、昨日までと同じナグヤの宇宙艦隊が衛星軌道上に表示されているが、その展開状況は昨日までと全く違っていた。整然と組んでいた陣形が、大小三つに割れて、一部では交戦中の表示がなされている。
「ディトモス様!」
意味不明の戦術状況ホログラムを、突っ立ったまま眺めるディトモスに気づいたダイ・ゼン=サーガイが、小走りに駆け寄って呼び掛けて来た。
「ダイ・ゼン。なんだ、これは?」
ディトモスは先日の大敗で滅亡寸前まで追い詰められ、心労で夜も眠れないのか両目の下に濃い隈が出来ている。その疲れ切った表情で戦術状況ホログラムを指さすと、ダイ・ゼンは急き込むように告げた。
「そ、それが! ナグヤの艦隊が、仲間割れを起こしたようです!」
「なに!?」
まるで出来の悪い冗談でも聞かされたかのように、不機嫌な声で訪ねるディトモス。
「嘘ではありません。どうやらヴァルツ=ウォーダ殿の艦隊が、ノヴァルナの旗艦とその周辺へ攻撃を敢行、不意を突かれたナグヤ艦隊は、陣形を崩している模様です!」
「どういう事だ? 何かの間違いではないのか?」
ヴァルツは兄のヒディラスがナグヤ家の当主であった頃から、ナグヤ家を支援して共に戦っており、それはノヴァルナの代になっても揺るがなかったはずだ。
状況を俄かには信じられないディトモスの疑念に、通信参謀が答える。
「ナグヤ艦隊の交信を傍受しております。相当混乱しているらしく、暗号ではなく平文のままがほとんどです」
「平文?…どのような事を言っている?」とディトモス。
「話を総合するに、ナグヤ艦隊がこの城に奇襲の艦砲射撃を行おうとしたところを、ヴァルツ艦隊が妨害に入ったようです」
「なに? ノヴァルナめが、この城に艦砲射撃を行おうとしただと!?」
ディトモスは通信参謀の言葉にそう言って、“話が違うではないか”とばかりにダイ・ゼンを睨みつけた。これまでの経緯から、ノヴァルナは領民が巻き添えになる事を望んでおらず、キオ・スー市民を人間の盾として利用すれば、ノヴァルナも手を出せずに、いずれは艦隊を撤収させるはずだと、ダイ・ゼンはディトモスに吹き込んでいたからだ。
しかし当のダイ・ゼンは、全く気にしていないのか、或いは誤魔化そうとしているのか不明だが、ディトモスに振り向く事無く、通信参謀へ命じる。
「好機だ。至急、ヴァルツ殿と連絡を取れ!」
「かしこまりました」
命令を受けた通信参謀がオペレーターのところへ駆けて行く。その後ろ姿を見るダイ・ゼンに、無視される形となっていたディトモスが声を荒げた。
「ダイ・ゼン!」
するとようやくディトモスに振り向いたダイ・ゼンは、薄い唇を大きく歪めて告げる。
「ご心配召さるな。これも我が策にて」
「策だと!? いい加減な事を申すな!!」
不信感を露わにした表情で言い返すディトモス。そこへ通信用のホログラムスクリーンが展開され、司令官席に座るヴァルツ=ウォーダの姿が映し出された。
「ヴァルツ様。ダイ・ゼン=サーガイにございます!」
ダイ・ゼンの呼びかけに、画面の中のヴァルツは苦々しげな顔で応じる。
「おお、ダイ・ゼン殿か。おぬしの言った通りに相成ったわ」
「では、やはりノヴァルナ殿は…?」
「うむ。キオ・スーの市民ごと、貴殿らを葬る算段であった。先の西海岸地方の領民への避難指示は、こうなった場合のカモフラージュでもあったのだろう…このような情けなき策を弄する甥だったとは呆れたものよ。わしとしては断じて認めるわけにはいかん!」
ダイ・ゼンとヴァルツのやり取りが、まるで理解出来ないディトモスは、首をひねるばかりである。
▶#20につづく
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。
彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました!
裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。
※2019年10月23日 完結
最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした
水の入ったペットボトル
SF
これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。
ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。
βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?
そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。
この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞
橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。
その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。
しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。
さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。
直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。
他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。
しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。
考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。
誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?
日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
スペースランナー
晴間あお
SF
電子レンジで異世界転移したけどそこはファンタジーではなくSF世界で出会った美少女は借金まみれだった。
<掲載情報>
この作品は
『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n5141gh/)』
『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/29807204/318383609)』
『エブリスタ(https://estar.jp/novels/25657313)』
『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054898475017)』
に掲載しています。
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる