30 / 508
第2話:混迷は裏切りとともに
#09
しおりを挟むノヴァルナの『センクウNX』の容赦ないフルスロットルに、後ろから追い越された『ホロウシュ』達は、慌てて主君を追い始める。特に今回、専用機の代わりに量産型の『シデン』を使用している者は、完全に置いて行かれる格好だ。
だがノヴァルナはお構いなしである。宙雷戦隊に続いて前進を開始している、重巡部隊のすぐ傍を猛烈な速度で通り過ぎ、一気にキオ・スー艦隊の中心部まで飛び込んで行く。戦慣れした『ホロウシュ』ですらこのような状態であるのだから、全員が初陣のシヴァ家から参加しているキッツァート=ユーリス以下、チャリオット中隊は完全に取り残されてしまった。キッツァートの元へ、部下達から次々に泣き言が入る。
「チ、チャリオットゼロワン。ウイザード中隊の信号をロスト。位置不明です!」
「わ、私の機も、自分がどこにいるのか…」
「我々はどうすればいいのでしょう?」
周囲では無数のビームが飛び交い、幾つもの爆発光が視界を眩ませる。借り物の量産型『シデン』と、ASGULの『ルーン・ゴート』で編成されたチャリオット中隊で、このような混戦の中をノヴァルナの後に続こうなど、無理な話だ。『センクウNX』は位置信号を出しているはずなのだが、距離が開いてしまうと、敵味方の艦艇が砲火を交わすのと同等にしのぎを削っている電子戦に、信号が飲み込まれるのだ。
「ともかく、ノヴァルナ様の向かった方角へ進むしかない。行くぞ!」
キッツァートは自分の不安を声には乗せず、努めて冷静に告げて操縦桿を右へと倒していった。すると不意に視界の目前を、敵のものか味方のものかも分からない、半壊した駆逐艦が横切っていく。その破損した個所から、まだ生きている乗組員が宇宙服も着ずに艦外に吸い出され、手足をバタつかせるが、真空の宇宙空間の中で二度、三度と体を大きく痙攣させてすぐに息絶える。凄惨な光景に、改めて自分が死と隣り合わせになっている事を知り、キッツァートは息を呑んだ………
そういった死は無論、ノヴァルナにも降りかかる可能性がある。しかし操縦桿を握るこの若者の裂帛の気合は、死神の鎌すら跳ね返しそうな勢いを感じさせた。『センクウNX』のセンサーが、敵旗艦の『レイギョウ』を捉えていてはなおさらだ。針路を遮って来る軽巡航艦に、連続して対艦徹甲弾を叩き込んで黙らせると、『レイギョウ』との間合いを一気に詰めていく。
ノヴァルナ機の接近に気付いた『レイギョウ』の艦橋では、艦長が表情を強張らせて命令を発する。
「左舷急速回頭! 取舵一杯、下げ舵一杯急げ!! 迎撃誘導弾撃ち方はじめ!!」
左側へ急激にダイブをかけ、同時に大量の誘導弾を撃ち出す『レイギョウ』の巨体。さらに周囲の戦艦や宙雷戦隊からも、誘導弾とビームが雨あられと襲い掛かった。しかしノヴァルナも『センクウNX』も万全の状態だ。気合の乗ったパイロットと整備の行き届いた機体―――現状でこれに勝るものはない。急激な回避運動に遭って命中を得られなかった誘導弾が、破片で機体にダメージを与えるために起こす近接爆発の無数の輝きの間を、ノヴァルナと『センクウNX』は事も無げにすり抜けて行く。
「セ、『センクウNX』! なおも追って来ます!」
戦術状況ホログラムには、一見すると無茶苦茶な軌道を描きながら、迎撃を悉く躱して接近して来る『センクウNX』が赤いマーカーで表示されている。それを睨むソーン・ミ=ウォーダは、ノヴァルナの操縦技術を目の当たりにして、「バケモノか!」と呻くように言い、頬を引き攣らせて続けた。
「奴を近寄らせるな! 宙雷戦隊は艦の間隔を詰めろ、ぶつかっても構わん! 付近にいるBSIユニットや攻撃艇を呼び戻せ!!」
命令を受けて軽巡や駆逐艦が艦体を横に向け、ノヴァルナの行く手を塞ごうとする。しかしアクロバットじみた飛行は、ノヴァルナにとって朝飯前だ。
横合いから飛び出してくる軽巡航艦の舳先を、スクロールさせた機体で瞬時に躱したかと思えば、上下から二隻の駆逐艦が針路を閉じようとするのを、スイングしながら上昇、上から来る駆逐艦のさらにその上を飛び越し、機体を一回転させながら超電磁ライフルの銃撃を、艦橋付近に叩き込んだ。コントロールを失った駆逐艦はそのまま下から来たもう一隻の駆逐艦と激突、二隻は互いの艦腹をめり込ませたまま漂い始める。
この状況に本来、総旗艦『レイギョウ』を護衛するのが役目の六隻の宇宙戦艦は、総旗艦の援護に向かおうと変針を始めていた。だがそこに『ヒテン』以下、ナグヤの戦艦部隊が猛然と砲戦を挑んで来る。
「回頭中止。反撃しろ!」
各艦のアクティブシールドに、立て続けに主砲弾を喰らい、総旗艦を守るはずであったキオ・スーの戦艦は、我慢しきれず舵を戻して反撃を開始した。
▶#10につづく
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ヒナの国造り
市川 雄一郎
SF
不遇な生い立ちを持つ少女・ヒナこと猫屋敷日奈凛(ねこやしき・ひなりん)はある日突然、異世界へと飛ばされたのである。
飛ばされた先にはたくさんの国がある大陸だったが、ある人物から国を造れるチャンスがあると教えられ自分の国を作ろうとヒナは決意した。
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
どこまでも付いていきます下駄の雪
楠乃小玉
歴史・時代
東海一の弓取りと呼ばれた三河、遠州、駿河の三国の守護、今川家の重臣として生まれた
一宮左兵衛は、勤勉で有能な君主今川義元をなんとしても今川家の国主にしようと奮闘する。
今川義元と共に生きた忠臣の物語。
今川と織田との戦いを、主に今川の視点から描いていきます。
データワールド(DataWorld)
大斗ダイソン
SF
あらすじ
現代日本、高校生の神夜蒼麻は、親友の玄芳暁斗と共に日常を送っていた。しかし、ある日、不可解な現象に遭遇し、二人は突如として仮想世界(データワールド)に転送されてしまう。
その仮想世界は、かつて禁止された「人体粒子化」実験の結果として生まれた場所だった。そこでは、現実世界から転送された人々がNPC化し、記憶を失った状態で存在していた。
一方、霧咲祇那という少女は、長らくNPCとして機能していたが、謎の白髪の男によって記憶を取り戻す。彼女は自分が仮想世界にいることを再認識し、過去の出来事を思い出す。白髪の男は彼女に協力を求めるが、その真意は不明瞭なままだ。
物語は、現実世界での「人体粒子化」実験の真相、仮想世界の本質、そして登場人物たちの過去と未来が絡み合う。神夜と暁斗は新たな環境に適応しながら、この世界の謎を解き明かそうとする。一方、霧咲祇那は復讐の念に駆られながらも、白髪の男の提案に悩む。
仮想世界では200年もの時が流れ、独特の文化や秩序が形成されていた。発光する星空や、現実とは異なる物理法則など、幻想的な要素が日常に溶け込んでいる。
登場人物たちは、自分たちの存在意義や、現実世界との関係性を模索しながら、仮想世界を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。果たして彼らは真実にたどり着き、自由を手に入れることができるのか。そして、現実世界と仮想世界の境界線は、どのように変化していくのか。
この物語は、SFとファンタジーの要素を融合させながら、人間の記憶、感情、そしてアイデンティティの本質に迫る壮大な冒険譚である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる