銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
28 / 508
第2話:混迷は裏切りとともに

#07

しおりを挟む
 
 確かにダイ・ゼンの言う通り、『ムーンベース・アルバ』まで一日半もかかるのであれば、それをコントロールしているノヴァルナを倒す事で、どうとでもなる。しかしすでに述べたように、今回は単なるノヴァルナのハッタリではなかった。

「もう一丁、方向転換行くぜぇっ!!」

 景気づけなのか、強い口調で言い放ったノヴァルナは、素早くキーボード入力を行う。すると今度はプラント衛星右側に並んだ重力子パルサーが一斉に眩い光を放った。横回転を始めたプラント衛星は針路を左へと変え、大気圏バウンドの反動と相まって急激に速度を上げる。そしてその進行方向にあったのは、地上のキオ・スー城でも月の『ムーンベース・アルバ』でもなく、衛星軌道上に並んだキオ・スー家の宇宙艦隊だ。

「プラント衛星、再度コース変更! こちらへ向かって来ます!!」

「なにぃッ!!!!」

 反射的に司令官席から身を乗り出すソーン・ミ=ウォーダの、引き攣った表情に、オペレーターが追い打ちをかけるように報告する。

「到達まで五分!」

「コース算出。本艦と衝突コースです!」

 オペレーターのその言葉を待っていたかのように、『レイギョウ』の艦橋内に赤色灯が灯って衝突警報のアラーム音が響きだす。

「直ちに回避行動に移れ!」

 艦長が叫ぶ一方、オペレーターが新たな報告を行う。

「ナグヤ艦隊、一斉に前進を開始。我が艦隊に向けて突撃して来ます!」

 緊急回避のために傾き始めた艦橋の中で、ソーン・ミは戦術状況ホログラムに目を遣った。それまで遠距離砲戦に徹していたナグヤ家の宇宙艦隊が、密集隊形を組んで緩やかな弧を描きながら急速接近している。弧を描いたコースを取っているのは、アイティ大陸の基地からの砲撃を避けるためのようだ。しかしその位置なら、『ムーンベース・アルバ』からの射角に入っている。

「ただちに月面基地へ砲撃を要請! ナグヤ艦隊を叩かせろ!」

 旗艦の運用は艦長に任せ、ソーン・ミはナグヤ艦隊に対する砲撃を『ムーンベース・アルバ』に命じようとした。だがそれに参謀に一人が、悲観的な言葉を告げる。

「お…恐れながら、それは困難かと」

「なぜだ?」

「ナグヤ艦隊は『ムーンベース・アルバ』からの砲撃射角に対し、プラント衛星の陰に隠れる位置を進んでおります。『アルバ』の砲撃で衛星を破壊する事は可能ですが、艦隊への砲撃には間に合いません」

 参謀からの情報に、ソーン・ミは「うぬぅ…」と呟いて拳を握り締めた。ノヴァルナの真意はプラント衛星を、キオ・スー城へ落着させるのでも『ムーンベース・アルバ』へ激突させるのでもなく、『ムーンベース・アルバ』からの砲撃の盾にし、ナグヤ艦隊の突撃に利用するつもりだったのだ。

 2キロ四方の巨大な鉱物精製プラント衛星だが、宇宙空間では砂粒ほどの大きさでしかない。しかしそうであっても、『ムーンベース・アルバ』からの射角から、ナグヤ艦隊を隠すのは可能であった。

 ノヴァルナの指示を受けた副官役のラン・マリュウ=フォレスタが、ナグヤ艦隊にこの行動の意図と針路をすでに送信しており、プラント衛星が最終針路に入ると同時に、艦隊はプラント衛星の陰に合わせた変則的な密集突撃用楔陣形を組んで、急加速を開始したのである。

「ともかく砲撃だ。何もしないのでは始まらん!『アルバ』に砲撃命令!」

 ソーン・ミが叩きつけるような口調で命令を発して数十秒後、キオ・スー艦隊左後方に浮かぶ灰白色の月から、真紅の大口径ビームがプラント衛星へ到達した。大型戦艦並みの大口径要塞砲の射撃だ。無骨な機械の塊を思わせるプラント衛星の表面に、小型の太陽が出現したようにも見えるほどの大爆発が続けて起こる。戦闘兵器ではないため防御用のエネルギーシールドがあるはずもなく、直撃であるから、そのような大爆発が起きても当然だった。

 だがキオ・スー側が懸念した通り、直撃を受けてもプラント衛星は簡単に崩壊しない。通常は無人で運用する自動化工場衛星であるため、点検・管理区画などの一部を除いて、人間が活動する箇所を作る必要が無く、頑丈なメインフレームに各モジュールを個別に固定した、隙間の多い構造となっており、それが砲撃を受けたモジュールの爆発エネルギーを、宇宙空間へ逃がしてしまうのだ。

 さらに旗艦『レイギョウ』の緊急回避が、キオ・スー艦隊中央に混乱を招いていた。ナグヤ艦隊とのBSI戦に、『レイギョウ』のBSI親衛隊まで投入したため、その埋め合わせに『レイギョウ』の周囲を複数の宙雷戦隊で固めていたのだが、それがプラント衛星の衝突行動で緊急回避に移った『レイギョウ』の、妨げになってしまったのだ。対BSI戦に備えて、各艦の間隔を詰めていた事も裏目に出た形だ。キオ・スー艦隊中央部の各艦に衝突警報が鳴り響き、右往左往を始めた。




▶#08につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

処理中です...